「女子学生を食い物にしている」山梨学院大学“留学生”同士の性加害事件をめぐる訴訟が提起 学校側の責任も追及
山梨学院大学(山梨県甲府市)に留学していたアメリカ人女性が、同じく留学していたナイジェリア人男性から大学の寮内で性暴力を受け、大学も被害の救済を拒んだとして、5月9日、男性と大学に損害賠償を請求する民事訴訟を提起した(東京地裁)。

約4100万円の損害賠償を請求

本件の原告は、20代のアメリカ人女性。2021年に山梨学院大学(以下「YGU」)の国際リベラルアーツ部に留学し、新型コロナウイルス感染症拡大のため、当初はオンライン授業を受けていたが、2022年7月に来日した。

訴状によると、2023年2月、女性は20代のナイジェリア人男性(被告)から性暴力を受ける。被害の後遺症により学習を続けることが困難になり、また大学当局からの保護も得られなかったため、同年4月には退学を余儀なくされた。
なお、男性は2024年にYGUを卒業している。
また、性暴力を予防する安全配慮義務に違反し、事件後にも女性の被害を救済するための対応を拒否したとして、YGUを運営する学校法人「C2C Global Education Japan」も被告に。
請求の内容は、事件が原因で退学と編入学や引っ越しを余儀なくされたことに関する各費用、退学に伴いキャリアに影響が生じ就業開始が遅延したことによる逸失利益、精神的損害への慰謝料など、合計約4109万円。

眠っている最中に身体を触られ…

事件当時、YGUは冬季休暇期間中であったが女性は日本にとどまり、同じく留学生であるルームメイトとともに共同で賃貸している自宅に滞在していた。しかし、電気系統のトラブルから暖房が故障してしまい、自宅の滞在が困難になる。
ルームメイトは帰国していたが、そのボーイフレンドの男性(以下「友人男性」)がYGUの男子寮に滞在しており、「アルバイトの夜勤で不在にしている間は部屋を使っていい」との申し入れがあったことから、やむを得ず、女性は男子寮に一時的に滞在することに。
事件当日、女性が友人男性と男子寮の共同スペースで夕食をとっていたところ、以前から交友関係があった、被告男性と出会う。その直後、男性は女性に「前に一緒に見たことのあるアニメの続きを後で一緒に見ないか」とのメッセージをアプリで送信。男性を信頼していた女性は、男子寮内の部屋を訪れた。
その後2時間ほどアニメを見ながら会話などしていたが、食事の直後であることや寒さなどが影響し、女性は眠ってしまう。
そして眠っている最中に違和感を抱いた女性が目を覚ましたところ、男性が服の上から女性の胸部と局部を触っていた。

強い恐怖心を覚えた女性は身体が硬直し、当初は抵抗することができなかった。
しかし男性の行為がエスカレートし、女性の服に手を入れ胸部や局部を直接触り始めたことから女性は意を決し、男性を逆上させないように注意しつつ行為を止めさせる。
女性が部屋から立ち去ろうとしたところ、男性が腕を強くつかむ。男性は怒りながら「さっきのことについて話し合わなければいけない」とすごみ、その後は何度も謝罪の言葉を繰り返した。
女性は男性をなだめ続けたのち、やっとのことで腕を振り払い、部屋を脱出した。

加害者は謝罪したが、大学側が被害者を非難

事件の直後、男性はアプリで女性に謝罪のメッセージを送信。
翌日、女性は男性の責任を問うために直接会って話すことを求めたが、男性は東京に逃亡していた。
数日後、女性は被告男性を山梨に呼び戻し、友人男性に見守られながら直接面談を行う。男性は性暴力行為の事実関係をすべて認め、女性に謝罪した。
事件後、被告男性と面談を行う前に、女性はYGUの学内カウンセラーに相談。
ところが、カウンセラーは「本大学ではとても対応できない、被害を忘れるように」との回答を送ったという。
女性の指導教員は「YGUにおけるセクシュアルハラスメント委員会ではおよそ適正な措置がとられることが望めない状況だ」と述べ、被害の申告を諦めるよう女性に助言。さらに別の教員は、女性を「悪い被害者である」と非難した。

過去にも性暴力がもみ消された経緯が…

訴状によると、被告男性自身は加害行為を認めているのに大学関係者らが「被害の救済は期待できない」と女性に告げた背景には、YGUでは過去にもセクシュアルハラスメントが容認されてきた経緯が影響しているという。
2016年、カナダ人留学生がインド系の教員の自宅に数度呼びつけられ、強制わいせつを受ける事件が発生。
YGUは高齢の男性職員3名を委員にして調査を行ったが、問題はすべて「文化的な違い」に起因するものであり、セクシュアルハラスメントにはあたらないものとして処理した。
2019年には留学生らが自治組織を結成し、教員・大学当局を交えた三者会合を開催しようとしたが、大学当局は出席せず学生と教員だけの会合に。その際、数名の留学生が、上記インド系教員や別の教員からパワーハラスメントなどの被害を受けたと告白。
教員の間でもハラスメントについて十分な調査と措置が必要であると大学当局に訴え、インド系教員について処分を求める教員も現れたが、定年を理由に雇い止め(解雇)される。
訴状では、この雇い止めが「見せしめとして多数の教員に恐怖を与えた」と指摘。YGUの対応は「カウンセラー・教授陣全員に無力感を与えてきた」と原告側は主張している。

安全配慮義務違反は「大きな人権侵害」

本件の被告男性は、2022年6月から12月にかけて、原告とは別の女性に継続的に性暴力を行ってきた。大学側もこの事実を把握しておきながら、適切な対応を行わず被告男性を野放しにしてきたという。
先述したように、今回の事件について男性は女性宛てに謝罪のメッセージを送信しており、性暴力の事実を認めていることを示す証拠が存在する。
それにもかかわらず大学側が性暴力を認定しようとせず、過去にもセクハラを黙認し続けたことについて、原告代理人の秦(しんの)雅子弁護士は「女子学生を食い物にしている」と提訴後の会見で批判した。
「大学は、学生に対して安全な環境を提供する義務を負っている。
最も問題になるのは教員からのセクハラだが、学生としては、誰からであっても性暴力からは守られなければ、安心してキャリアを積むことができない」(秦弁護士)
女性はYGUで政治学の学士号を取得した後、留学経験を生かして、米国務省海外安全保障担当官として就職することを予定していた。

しかし性被害が原因で退学を余儀なくされ、ストレスによる線維筋痛症を発症。治療のため、編入した大学も1年間休学する必要があった。結果として、学士号の取得が2年間遅れることに。
訴状では「大学で性暴力に遭うことによって女子学生は、性的自己決定権を侵害されるのみならず、キャリアを構築する権利が踏みにじられるのである」と指摘されている。秦弁護士も「大きな人権侵害だと思う」と語った。

「日本は性暴力問題においては時代遅れ」

「女子学生を食い物にしている」山梨学院大学“留学生”同士の性...の画像はこちら >>

原告女性(5月9日都内/弁護士JPニュース編集部)

会見で原告女性は「正直に申し上げますと、この瞬間に至るまでの2年間は、非常に過酷なものでした。この国で性的暴力を受けた後、法的措置を講じることは、想像を絶する困難を伴いました」と語る。
「私は『我慢』という精神を受け入れ、耐えがたい苦痛にも耐え、忍耐強く対応してまいりました。しかし、この経験を通じて痛感したのは、日本社会が性的暴力被害者を支援する体制になっていないという現実です。
警察から大学に至るまでは、被害者側に責任を転嫁する風潮が根強く存在します。自分に起きたことが『自己責任』であると信じ込まされるのです。
このような対応が『当たり前』となっている現状は言語道断であり、社会的に先進的な日本が、性暴力問題においては時代遅れのままであることは、断じて許容できません」(原告女性)
本件について、被告の学校法人C2C Global Education Japanは弁護士JPニュース編集部の取材に対し「訴状が本法人へ届いておらず、詳細を把握できておりませんため、現時点でのコメントは差し控えさせて頂きます」(広報課)と回答している。



編集部おすすめ