
自動車盗難の発生件数は、さぞや増加しているのかと思いきや、実はピークだった2003年の6万4223件から、2024年には6080件まで減少。なんと1割以下になっている(※)。
検挙率も大幅に上昇しており、いまや自動車盗難は犯罪としてはかなりリスキーなのだ。にもかかわらず一体なぜ、クルマが盗まれる報道が途切れないのか。データを交え、その要因から対策まで詳しく解説する。(自動車コラムニスト・山本晋也)
なぜ自動車盗難は減っているのか
背景として考えられるのは、ハードウェアの進化とユーザー意識の高まりだ。ハードウェアでいえば、カギとクルマを電子的に紐づけるイモビライザーの義務化ほか、不正にドアなどを開けたときにクラクションを鳴らせるセキュリティアラームの標準装備も進んでいる。
駐車場などで 突然クラクションが鳴り響いて驚くこともあるが、その多くはセキュリティアラームの作動だったりする。
ちなみに、リモコンを使わずにロックを解錠したことやクルマに衝撃を与えたことにより セキュリティアラームが作動したときには、リモコンキーで施錠・解錠の操作をしたりイモビライザーの認識されている正規のキーでエンジンを始動したりすると、たいていの場合はアラームを止めることができる。慌てず、冷静に対処したいものだ。
自動車盗難に対するユーザー意識の高まりは、統計(※)からも明らかだ。
盗難時のシチュエーションは、クルマにカギを挿しっぱなしで離れてしまった「キーあり」と、ドアロックをかけた状態など「キーなし」の2パターンに大別できる。
2003年には「キーあり」で盗まれたケースが28.9%もあったが、2024年では24.8%まで減っている。
発生件数でいうと、1万8568件から1510件へ激減。クルマのカギを身に着けておけるスマートキーの普及もあるだろうが、自動車盗難に対する自衛意識の高まりを感じさせる数字だといえる。
自動車盗難の‟プロ組織化”と窃盗後の国外流出の背景
盗難される場所で圧倒的に多いのは一般住宅だ。かつては駐車場で盗まれるケースが6割以上(2003年~2007年)と多数だった。いまは住宅に置いてあるクルマを盗むケースが、全体の42.9%を占めるほどになっている。
こうした変化は、自動車盗難の対象が不特定多数の車両から、特定の車種へと移行していることを示している。
かつて盗難車両は国内で流通することもあった。そうすると車台番号(個々の車両を識別するもの。ボディに刻印されていたり、プレートが貼られていたりする)によって見つかってしまう。
‟アシ”がつくのを避けるために車台番号を入れ替えるといった犯罪手法もあったが、その手口は手間がかかる。
結果的に、現在の自動車盗難においては、盗んだクルマを国外へ輸送するケースが大半を占めるといわれる。もはや個人のいたずらといったレベルではなく、ある種のプロ組織による車両盗難となってくるわけだ。
“プロ”に盗まれやすい「価値ある車」とは
自動車盗難のスタートは、需要のある特定の車種を見つけること。そのため、必然的に自宅駐車スペースに置いてある、「盗難する価値のあるクルマ」が被害にあうケースが多くなる。2024年における盗難被害の多い車種トップ10は次のようになっている。
出典:警察庁Webサイト
表中1000台当たりの台数を見て驚くのはレクサスLXだ。なんと、50台に1台が被害にあっている。
また、ハイゼットやキャリイは軽トラだが、これは海外でブームになっていることから狙われていると考えられる。
このように、日本で自動車盗難の被害にあいやすいクルマの多くはトヨタ製だ。人気の高いモデルを生み出しているから、自動車盗難の世界でも需要が高まり、トヨタ車を盗み出すためのツールやスキルが広まり、結果的にトヨタ車が被害にあいやすくなっているといえる。
また、自動車盗難については被害にあう地域にも特徴がある。都道府県別でいうと、その不名誉なエリアは以下の5県。

出典:警察庁Webサイト
この5県での自動車盗難を合計すると3456件、全体比で56.8%となる。
ちなみに、上表に入っていない東京都の自動車盗難件数は223件。自動車盗難は、人口の多さより若干郊外でマイカー所有率が高いことなどが犯行に影響しているといえそうだ。
前述したように、トヨタ車が盗難されやすいことを合わせて考えると、トヨタのお膝元・愛知県における自動車盗難件数が多いのは納得だろう。
自動車盗難被害を少しでも予防するために
さて、冒頭でも記したように自動車盗難は、ピークに対して十分の一以下に減っているが、車種によっては被害にあいやすいこともデータが示している。一般ユーザーはどのような自衛手段をとればいいのか。対策としては、当たり前だが、愛車がより盗まれにくいように工夫することだ。
具体的には、ハンドルやタイヤ(ホイール)を物理的にロックする装置を購入して、駐車中はセットしておくこと、後付けのセキュリティシステムを装着すること、自宅駐車場に防犯カメラを設置すること、といった対策が考えられる。
いずれにしても結構な費用がかかるが、愛車が盗まれる悲しみを考えれば、妥当な金額ではないだろうか。
ただし、組織的な自動車盗難の‟プロ”に狙われたら、防犯アイテムにコストをかけたとしても、完全に防ぐのは難しいのも現実だ。
筆者が過去に聞いたエピソードでいえば、自動車整備工場のふりをして白昼堂々、ローダー(自動車運搬の専用車)に載せて持っていかれてしまったというケースもあったそうだ。
まるでアニメやドラマのような話だが、そこまで大がかりな盗難になると現実的に防ぐことは困難といえるだろう。
「プロ」から盗まれにくくする裏ワザ
逆説的に考えれば、盗みたくなるほど価値のある、人気の高いクルマを所有しているから盗難対策が必要になるともいえる。身も蓋もないことをいえば、盗みたいと思われないような不人気モデルに乗っていれば、自動車盗難のリスクをかなり抑えることができる。
たとえば、メルセデスベンツやポルシェといった欧州の高級ブランド車は、日本で盗難被害にあいづらいブランドといわれることがある。
こうした高級車には高度なセキュリティシステムが標準装備されているというのも理由であるが、本質的には「右ハンドルの日本仕様になった欧州車を海外に流しても売りにくい」ことが関係していると想像できる。
「高級車は欲しいけれど、レクサスやトヨタの上級モデルは盗まれやすいから避けたい」というユーザーは、ドイツ車などの輸入車を検討するのもアリかもしれない。
※データはいずれも、警察庁2025年3月発表資料「自動車盗難等の発生状況等について」を参照