政府が検討するOTC類似薬の保険適用除外を巡り10日午後、日本アトピー協会と全国保険医団体連合会(保団連)が厚生労働省に要請書を提出。
OTC類似薬とは、市販薬と成分や効果が似ているものの、原則として医師の処方箋が必要な医療用医薬品を指し、解熱鎮痛薬や咳(せき)止め、抗アレルギー薬なども含まれている。

OTC類似薬の保険適用除外は、自民党・公明党・日本維新の会の3党合意を受けたもので、政府の「骨太の方針2025」にも盛り込まれている。
両団体はOTC類似薬の保険適用除外に反対する立場から、厚労省の担当者に対し、既存制度の継続を要求。
要請を受けた、厚労省の担当者は「現時点で特に具体的な方向性が定まっているものではない」と前置きしつつ、次のように述べた。
「骨太の方針でも、医療機関における必要な受診を確保するとしていますが、一方で医療保険制度の持続可能性を考慮しつつ丁寧に議論を進めて参りたい」

「27.3倍にあたる年間約82万円の負担が生じる」

両団体と国の指定難病である魚鱗癬(ぎょりんせん)を患う大藤龍之助さんの母親・朋子さんは同日、都内で会見。
日本アトピー協会の倉谷康孝代表理事は、「OTC類似薬が保険適用から外されたとき、アトピー患者さんの明日が怖いと感じた」と危機感を口にした。
「アトピー性皮膚炎は24時間365日痒(かゆ)みが続く慢性疾患で、見た目による差別やいじめを受け、ひきこもりが発生し、うつになる方もいます。
アトピー協会設立30年の活動で、『気が狂うほどの痒み』に苦しむ患者、自殺を考える患者、一家心中に至った家族を見てきました。
治療には処方保湿剤とステロイド外用薬の継続使用が不可欠ですが、私の試算ではOTC類似薬が保険適用から除外された場合、保湿だけで月額2万1840円の負担増となります。
この額を毎月負担するのはなかなか難しいですし、なかには『市販薬を使ってみたけどあわなかった』という方もいらっしゃいます」(倉谷代表理事)
また、朋子さんも「自分の息子の場合は、使用している薬が適用除外になると、症状が悪くないときでも、現在の27.3倍にあたる年間約82万円の負担が生じる」として次のように述べた。
「お金を心配して薬が手に入らないような人が出ないように、薬代のために生活がままならなくなる人が出ないように、OTC類似薬の保険適用は外さないでほしいです」
なお、朋子さんは6月にも厚労省に対し、龍之助さんの集めた「OTC類似薬」の保険適用継続を求める約8.5万筆の署名と、請願書を提出していた。
「命に関わる」保湿剤・抗アレルギー薬などの“OTC類似薬”保険適用の継続を求め…難病患者ら「8.5万筆」署名を厚労省に提出

「現場が大混乱し、医療の質は大きく下がる」

全国保険医団体連合会の橋本政宏副会長(内科医)は、OTC類似薬の保険適用除外によって「すべての診療科において医療現場が大混乱し、医療の質は大きく下がる」と断言。
橋本氏は解熱鎮痛剤のアセトアミノフェンを例に挙げ、「肺炎や整形外科疾患など重症患者でも使用される基本的な薬」と紹介。適用除外になった場合について、次のように述べた。
「肺炎になった場合、『治療に必要な抗菌薬は保険適用です。
でも解熱鎮痛剤は自己負担で買ってきてください』と言われるようになってしまいます」(橋本副会長)
また、橋本副会長は、患者負担への配慮から「医師が処方をちゅうちょする事態」を憂慮。「医学的に必要な薬を、患者の懐具合で判断するようなことは、本来あってはなりません」と話した。

「子育て世代の負担増にも」

さらに、“軽い症状”に対し、市販薬で対応する「セルフメディケーション」についても、橋本副会長は危険性を指摘。
「一見、軽そうに思われる症状でも、肺結核、肺がん、胃がんなど大きな疾患が隠れている場合があります。
医師の場合は疑うべき疾患を想起して、診断に必要な検査をきちんと行います。ですが、セルフメディケーションでは、こうした重大疾病の早期発見が遅れる恐れがあり、ときとして非常に危険です。
だからこそ、医師の診断を気楽に受けられ、安心して薬を処方してもらえる環境が重要なのではないでしょうか」(橋本副会長)
加えて、OTC類似薬が保険適用外になれば、現在各自治体で導入されている子ども医療費の助成制度からも対象外となる恐れがあるとして、橋本副会長は以下のように続けた。
「これまで各自治体での取り組みが広がり、子どもの医療費負担は軽減されてきました。政府も子どもの医療を重視すると言っていますが、適用除外は、まさにこうした流れに反する行為であり、子育て世代の負担増につながるのではないでしょうか」

「参院選が重要な局面に」

この日の会見では、保団連の本並省吾事務局次長から、参院選での一部政党の公約についても報告が行われた。
参院選では3党合意を結んだ日本維新の会が「OTC類似薬の保険適用除外をはじめ、費用対効果に基づく医療行為や薬剤の保険適用除外を進める」と公約に掲げた。
また、本並次長によると、同党の前原誠司共同代表は、7月7日の奈良市内での演説でOTC類似薬の見直し議論について、全国比例に医師会推薦候補のいる自民党議員から「参院選の後にしてください」と頼まれていたことを明かしたという。
国民民主党も「市販薬類似の医療用医薬品(いわゆるOTC類似薬)について公的医療保険の対象から見直す」と主張。
参政党も「保険診療において、必要以上に過剰な治療・投薬(ワクチンを含む)は原則不可とし、患者の希望により応じる場合の診療報酬は通常の半分以下に設定する」「薬局で購入可能なOTC医薬品で対応可能な疾病は、原則処方しない」としている。

立憲民主党は直接言及していないものの「高額療養費の自己負担限度額の引き上げは行わない」代わりに「軽症患者の医療費を優先して見直す」としており、そこにOTC類似薬の保険適用の見直しも含まれる可能性が考えられる。
一方、共産党は適用除外に対して反対を表明。「保険外医療を拡大して、患者負担増と医療の市場化をすすめる改悪に反対します」とした。
社民党とれいわ新選組は公約に明記していないものの、保団連の参院選政党アンケートの設問「医薬品を公的医療保険給付から外さないこと」に対して賛成を表明しているとのこと。
「今日要請書を受け取った厚労省の担当者も、具体的なことは何も決まっていないと述べていましたが、この参院選の結果次第で、OTC類似薬の適用除外に関する議論がどう進むかが決まるといえます。
そうした意味で、これからこの問題は、重要な局面を迎えることになりそうです」(本並次長)


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