2024年に成立した改正民法により、2026年5月までに「共同親権」が導入される予定。この法改正が実現するまでには、離婚後は子どもの親権を父母の片方しか持てないと定める「単独親権」制度に異議を唱える訴訟がいくつも行われてきた。

その一つである「自然的親子権国賠訴訟」が提起されたのは2020年10月。東京都などに住む男女6人の原告が、「自然的親子権と人格的利益を侵害する単独親権制度を国会が放置しているのは立法不作為であり、違法である」として、国に総額900万円の損害賠償を請求した集団訴訟である。
原告の男女2名に、訴訟を提起するまでの経緯や、判決に対する所感を聞いた。

原告女性Aさんの経緯

原告女性のAさんは、婚姻中、夫から暴力を受けていたという。離婚は、マイホームの購入をめぐって意見が割れたことをきっかけに、夫の方から言い出した。また、Aさんの子どもを跡取りにしたいと望む義父母の干渉もあったという。
当初Aさんは子どものことを考えて離婚に反対していたが、夫側が離婚訴訟を起こした結果、「子どもとは毎月会えること、参観等の学校行事にも参加できること」を和解文に明記されたことから離婚を了承した。
しかし、離婚の2か月後に、元夫が一方的に大幅な変更を提示してきたという。
「『親権者が許可を出す側、非親権者は親権者に許可をもらう側』の構造になっている状態では、別居親である私はどうすることもできませんでした。
『面会を毎月1回行い、学校行事に参加できる』という旨の和解文が裁判所のなかで作られたにも関わらず、約束を守るよう裁判所が夫を指導しないことにもショックを受けました。私たちが1年半かけた離婚訴訟の時間も、夫が約束を守らないことを裁判所が『よし』とするなら、意味のないものにしかなりません」(Aさん)
また、Aさんは別居時に「DV等支援措置の住所非開示措置」を夫に使用され、子供の住所を知れない状況になり、居場所が分からなくなった。どのような根拠で非開示としたのか役所に問い合わせたところ、第三者機関の有識者から「親権が取れなかった親にはそれなりの問題があるに違いない」と決めつけたような対応を受けたという。

子の「奪い合い」ではなく「分かち合い」を求める

「最近では『まち保育』という言葉があるように、子育てには親や祖父母などの親族以外だけでなく、地域で育てるという考え方があります。
しかし、子供の親権を父と母のどちらが持つかを決めてから離婚をする今の単独親権の状況では、親権を持たないことになった親は子育てに関わる術を失います。
血縁でもない人が子どもに関わることができる一方で、私は、自分が産んだ子を近くから見ることも許されていないのが現実です」(Aさん)
当初、子どもが通う学校はAさんが授業参観に参加することを認めていたが、元夫が抗議をしたため、学校側はトラブルの回避を優先して参加を拒否するようになったという。
現在では「離婚したら子どもは親権を持った親が育て、親権を持たない親は関わらない」ことが常識となっており、周囲の人も親権を持たない親を子どもから遠ざけようとするため、離婚時に子どもを「分かち合う」のではなく「奪い合う」のも当然の成り行きになっている、とAさんは指摘する。
「(親権をめぐる争いは)大人が作り出している、人災のようなものだと思います。
このようなつらい思いをする人は私が最後であってほしい、子どもの世代にこの悪習慣を残したくないと思い、自然的親子権国賠訴訟で現状を変えたいと思っておりました」(Aさん)

原告男性Bさんの経緯

原告男性Bさんには息子と娘がいる。ある日、妻が子どもを連れて遠方の実家に帰省したまま帰ってこないので、訪ねていくと、妻から裁判をしてでも離婚する意向であることを伝えられ、義母にも「孫はこちらで育てるから離婚しろ」と言われたという。
別居生活となりながらも生活費を毎月欠かさず妻や長男の口座に振り込み続け、子どもの服や玩具を送ったり保険証の手続きも行うなど、父親としてできる限り子どもを支えていた。
妻と子どもたちが住む地域までの交通は往復で12時間かかり労力を要する。また妻が子どもたちと会わせてくれなくなったことから、仕方なく調停を申し立てたという。申立後は子どもに会えるようになったが、調停中でも面会当日に拒否されるなどが続いたため、再び子どもと断絶した。
家庭裁判所の審判を経て、面会を半年ほど再開できたが、事前に日程連絡しても妻が返事をくれず、理由もなく拒否されることもあった。プレゼントを贈っても返送されてしまうなど、非常に消極的な対応を取られたという。面会交流実施要領に基づいた対応をしても、妻によって反故(ほご)にされ、また親子断絶となった。
役所や病院などに遠方から子育てをする方法について相談しても、別居親であるBさんへの対応は冷たかった。
息子が通う学校の校長からも「離婚して非親権者となったら対応できない」と伝えられた。「別居してる側の親に対する行政の差別的扱いや理不尽さについて、理解に苦しみました」(Bさん)
妻との離婚訴訟は最高裁まで争ったが、離婚が成立、非親権者となった。親子断絶の間に、DV支援措置を悪用され住所非開示措置となり、元妻と子どもたちは転居していた。
「私は妻や子どもたちの住所すら分からなくなり、面会交流の条件変更はおろか、親権者変更など裁判手続きすらできない状況にあります。
離婚後単独親権制度は、親子を断絶させるための制度にしか思えず、構造的な欠陥があるとしか言いようありません。合理性なき過度な制約であり、法改正が必要であると、強く思いました」(Bさん)

「親子の断絶」を引き起こす制度を改善したい

自然的親子権国賠訴訟を提起する約3年前から、原告を含む数十人の当事者たちは定期的に集まり、法律や判例について学ぶ勉強会を開催してきた。
「どの当事者も、離婚や別居などに伴い十分に子どもと接することができず、『親子のつながり』が法的に守られていないという共通点がありました」(Bさん)
Bさんは、子どもたちと引き離される前は子育てによって幸せを感じてきたと説明しつつ、訴訟にかけた思いを語る。
「お金を払うこと以外、子どもたちの養育に全く関われないことについて、血のつながった唯一の父親として今なお苦しみ続けています。
単独親権制度や連れ去り別居で発生している問題は『親子の断絶』です。親子にとってごく当たり前に守られるべき『親子のつながり』が法的に守られず、むしろ蔑(ないがし)ろにされた結果、自然な親子関係は一切なくなってしまうという悲惨な被害が広がらないよう、早急に、元凶である離婚後単独親権制度に基づいた運用を改めてもらいたい。
単独親権制度が存在する限り、子を持つ親の誰にも、子から断絶されてしまい親子関係を構築できなくなる、悪夢としか思えない状況が訪れる可能性があります。このような問題を、子どもたちが親になる代にまで引き継がせたくないと思います」(Bさん)

訴訟は上告棄却で終了したが…

東京地方裁判所の第1審判決(2023年4月)では、原告らの請求が棄却される。その後、東京高等裁判所の第2審判決(2024年2月)でも控訴棄却。
最高裁でも上告が棄却された(2025年1月)。
関連記事:来年導入の「共同親権」を“先取り”する判決が出されていた 「自然的親子権国賠訴訟」の意義とは【担当弁護士解説】
Aさんは「憲法に基づき単独親権の影響が判断されるはずであった最高裁で、検討もされずに終わったことはとても残念です」と所感を述べる。
また、『情報非開示措置などによって、非親権者の子へのアクセス権が侵害されて、子を養育・監護する自由が妨げられたとはいえない』と判断されたことについては、「私の身に起きたことがなかったこととされて、言葉遊びをしているように感じました」という。
一方、裁判所が「親子はそれぞれ、自然的親子関係をみだりに妨げられないことについて人格的利益を有するというべきである」「親権は(中略)子の利益に合致する非親権者と子との交流を合理的な理由なく制限する権限ではない」と認めたことについては「大変うれしく思います」と述べる。
「しかし、上記の2点は長年国民に浸透せず、『親権』という言葉が誤解され続けていて、家族関係の紛争も年々増えています。そのため、『単独親権』という言葉が作り出すイメージの悪さを認めて、根本から改革をしていただきたいと感じています」(Aさん)
Bさんも判決について「不当です。裁判所は全く機能していません」と語る。
「単独親権制度によって起こる『親子の断絶』という社会問題については、国際社会からも批判され続けています。また、国側の反論も判決文も具体性や合理性がなく、説得力に欠けたものでした。
自然的な親子関係は、法律ができる前から存在しています。『親が子どもを育てる』ということは疑いようがなく当たり前のものです。暴力や虐待といった例外を除き、裁判所や裁判官がみだりに遮ってよいものではありません。

日本の家族の在り方について、法曹界全体でしっかりと改善に向けて検討・審議するべきでした」(Bさん)
Bさんは「国家の最小単位であり、もっとも絆が深い『家族』の関係について真剣に考えてほしい」とも述べた。


編集部おすすめ