投稿は、参院選での投票について、〈私の管轄するChocolat、Deep、Chocolat名古屋(※編集部註:いずれもホストクラブの店舗名)約150名も参政党に投票したいと思います。
この投稿に対しては「投票行動まで管轄できるんですか?」「組織票やめなよ」と否定的なコメントが多く寄せられ、現在は「投票は本人の自由意思によるものでなければならず、職場の上下関係を利用した選挙活動は、重大な法令違反に当たる可能性があります」などと記したコミュニティーノートも表示されている。
実際に、企業の経営者や上司が立場を利用して従業員や部下に対し、特定政党への投票を呼びかけたり、強制したりする行為はどのような法的問題をはらんでいるのか。
従業員への投票指示「複数業界で行われている」
選挙制度に詳しい杉山大介弁護士は「すでに指摘されている通り、公職選挙法に抵触するおそれのある行為」とする一方で、「『大っぴらに特定政党への投票を呼びかけるべきではない』と共通認識されているだけで、実態としては複数業界で行われている」と言及する。企業ではないが、組織的な投票行動が問題になった例として、安倍晋三元総理大臣の銃撃事件を契機に表面化した「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」と政治家の“蜜月状態”がある。統一教会の役職者らが、信者に対し特定の候補者の選挙支援や投票を求めていたことがわかっている。
この例に限らず、多くの企業・団体で特定政党への投票を呼び掛けている実態もあることから、杉山弁護士は「選挙は各個人が1人1票として行うべきものであるという理念からすれば問題のある行為ではありますが、本件だけを法的問題としてとりあげるには躊躇があります」と述べる。
「結局のところ、企業や上司も投票する場面を監視し誰かに書かせることまでは強要できず、言われた人がこっそり他の政党や候補者に投票していてもわかりません。このように、実際の“強制力”には限度があるため、取り締まりまでには至らないかと思います」(杉山弁護士)
特定政党に投票せず“不利益取り扱い”受けたら…
しかし、たとえば「投票用紙の写真を撮って送れ」などと「投票した証拠」を求める場合には話が違ってくるようだ。「前提として、投票所での撮影は各投票所で禁止されている場合が多く、“やってはならない行為”です。
もし、特定政党に投票した証拠を求められ、その提出を断ったことなどを理由に会社内などで不利益な取り扱いを受けた場合には、労働法上争う余地があります」(杉山弁護士)
ホストによる参政党支持は「風営法改正」背景?
杉山弁護士は参政党について「公開した創憲案が、現行の民主主義国家の基本となる条項がことごとく抜けているなど現実にあてはめられない主張や、他候補を攻撃する目的で事実に基づかない主張をするなどアナーキーな政党」と評した上で、「ホスト業界がアナーキーな勢力を支持するのには、合理的な理由があるとも思う」と話す。「直近の風営法改正では、色恋営業やそれに伴う売掛金問題などに対する『被害者救済』を目的として、勧誘方法だけでなく広告規定などもかなり規制されました。
こうした『被害者救済』がお題目となった時の立法に、既存の与野党の間で対立はあまり生じていません。それどころか、いずれも乗り気になります。
業界全体が法規制の“攻撃”を受けたホストクラブ経営者が、合理的に思考して既存の体制を攻撃するアナーキーな政党を支持する理由はちゃんとあると思ったので、それで同業界にプラスになるかはわかりませんが、不思議な納得感はありました」(杉山弁護士)