先ごろXで、ラーメン二郎府中店の公式アカウントが「お食事は最大で20分以内にお願いします」という投稿を行い、かつ、異論を投稿した人に対し高圧的なコメントを付けるなどして炎上し、投稿を削除し謝罪するという、ちょっとした騒ぎがあった。
同店舗に限らず、飲食店の中には「独自ルール」を設け、客にそれを遵守することを求めている店も多い。
店を訪れる客にはそのような独自ルールに従う法的義務があるのか、客が従わない場合に店はどのような手段をとれるのか。
自身もラーメン・つけめんを愛好し、豊島区目白の某有名店に学生時代から常連として通い続ける荒川香遥(こうよう)弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)に聞いた。

「独自ルール」の法的な性質は?

まず、前提として、飲食店と客との間の法律関係は、一般に「飲食物提供契約」とよばれる。店側が店内で客に飲食物を提供して食べさせる義務を負い、これに対し、客が代金支払い義務を負う。
店を構え看板を掲げ、「営業中」の札を出すことは「申し込みの誘引」にあたる。そして、客が店に入って飲食物を注文することは「契約の申し込み」あたり、店側が注文を受けることで「承諾」したことになり、飲食物提供契約が成立する。
では、この飲食物提供契約において、店側が客に課す「独自ルール」は、どのような意味をもつのか。
荒川弁護士:「店側の独自ルールを守ることは、飲食物提供契約を結ぶ際の『条件』ととらえることができます。もし、客がルールを守る意思がないことを表明した場合、条件が満たされないので、店はその客との間の飲食物提供契約を締結しないことができます。
ただし、契約条件である以上、契約締結する前に、すべての客が明らかに認識できることが必要です。常連客等のみが分かるいわゆる『暗黙のルール』は無効です。また、店のホームページや公式SNS等で宣言するだけでもダメです。それを見ていない客や、一見の客もいるからです。

注文前に客が明らかに認識できる場所、たとえば、店の入り口近くの目立つ場所や、店内、券売機の最上部などに、デカデカと貼り紙等で掲示しなければなりません」

独自ルールは「法的義務」か「努力義務」か?

では、独自ルールは、守らなかった場合の何らかの制裁等をもって強制される「法的義務」か、それとも、結果はともあれ守るよう努力すれば足りる「努力義務」なのか。
荒川弁護士は、ルールの内容により個別具体的に解釈すべきとしながらも、多くの場合は「努力義務」にとどまると説明する。
荒川弁護士:「たとえば、『お食事は最大で20分以内にお願いします』といった時間制限の場合、食べる速度に個人差があることと、『お願いします』という文言から、合理的に解釈して、せいぜい努力義務にとどまるといわざるを得ません。
特に『二郎系』のような“デカ盛り”の店の場合、デフォルトでもボリュームが極めて多いことなどを考慮すれば、なおさら努力義務と解するほかありません。
私も、学生時代から行きつけのラーメン・つけめんの店がありますが、麺もチャーシューも野菜も二郎系に負けず劣らず多く、すべての人が20分以内に完食するのは無理だと思います。ちなみに私は10分くらいです。
それなのに、もし、罰金等を科したり、守らなかった場合に店を追い出したり叱責(しっせき)したりすれば、公序良俗違反にあたり、逆に客から慰謝料等を請求されても文句は言えないでしょう」
では、例外的に、独自ルールを客が順守することが「法的義務」だととらえてよいのは、どのような場合なのか。
荒川弁護士:「以下の3つの要件をみたす場合だと考えられます。
①義務の内容が社会通念にてらし合理的である
②ルールを守るか否かが客の自由意思と能力によって確実にコントロール可能である
③ルールを守らなかった場合のペナルティーの内容が明確かつ常識的である

この基準によると、たとえば、『食べ放題』で『食べ残しは1000円いただきます』というルールを設けた場合には、法的義務と考えることができる余地があります。
すなわち、①食べ残しは店に損害を与える行為であり、②客は自分で食べる量をコントロール可能であり、③ペナルティーとして課される金額が明示されていて、かつ額も過大ではないからです。
しかし、そのようなケースはごく限られるでしょう。実際には、努力義務と解釈されるケースが大半だと考えられます」

客が従わない場合に店がとれる手段は?

では、客が独自ルールに従わなかった場合、店はどのような手段をとることができるか。
荒川弁護士:「まず、いかなる場合でも、無理やり店から放り出すなどの実力行使はNGです。

また、前述の通り、多くの場合、独自ルールを守ることは客の努力義務にとどまるので、『制限時間が過ぎたから出ていけ』と追い立てることはできません。無理やり食器を片付けることも許されません。
以後『出禁』にするのは自由ですが、故意でルール破りをした場合やあまりに非常識な場合など、よほど悪質な場合を除いてやめておいた方がよいでしょう」
つまり、独自ルールの多くは「努力義務」と解される以上、実際には、独自ルールを守れなかった客に対して店側ができることは限られているといわざるを得ない。
では、「食べ放題での食べ残し禁止(罰金あり)」などの「法的義務」と解される場合はどうか。
荒川弁護士:「罰金等のペナルティーがある場合は、客側はそれを履行する義務を負います。もし履行しなければ、費用対効果は別として、民事訴訟を提起して判決を得るなどして、それをもとに強制執行をすることもできます。
なお、程度にもよりますが、悪質な客や、著しく非常識な客に対しては、約定のペナルティーに加えて、慰謝料等の損害賠償請求をすることもできる場合があるでしょう」
店と客は対等の立場であり、互いに持ちつ持たれつの関係である。そのことを肝に銘じ、店側も客側も互いに良好な関係を築きたいものだ。


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