日本共産党から除名処分を受けたジャーナリスト松竹伸幸氏(69)(まつたけ・のぶゆき)氏が、党員としての地位確認と、名誉毀損による損害賠償を求めた民事訴訟で8月4日、第6回口頭弁論期日と非公開の弁論準備手続が開かれ、裁判所が被告側の共産党に対し、「証拠文書を提出すべき」と要求したことが明らかになった。
松竹氏側は同日午後、都内で会見。
終了後には、支持者らを交えた報告集会も開いた。
2023年1月、松竹氏は『シン・日本共産党宣言 ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由』(文藝春秋)を出版。
同年2月6日、日本共産党は、松竹氏の書籍に記載されている党首公選制などの主張は「分派活動等」にあたり、同党の規約(※)に違反しているとして、松竹氏を除名処分とし、2024年1月の党大会でも処分の再審査が却下されていた。
※ 「党内に派閥・分派はつくらない」(3条4項)、「党の統一と団結に努力し、党に敵対する行為はおこなわない」(5条2項)、「党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない」(5条5項)など

「証拠文書を出すべき」裁判所が共産党に要求

原告側によると、本件訴訟で共産党側は過去の判決(※)をもとに、司法権が及ばない「党内部の問題」として裁判所による司法審査を拒んできたという。
※ 「政党が党員に対して行った処分は、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権が及ばない」「政党が党員に対してした処分の当否は、政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り適正な手続きに則って処分の判断がされたか否かによって決すべき」とした最高裁昭和63年12月20日判決(いわゆる共産党袴田事件判決)
しかし、原告側代理人の平裕介弁護士によると、非公開の弁論準備手続きで裁判長は「少なくとも被告の立場からしても、適正手続きに関する証拠文書や主張については出すべきだ」と発言。
「除名処分や、処分に関する、再審査の手続きが適正に行われたかどうかを『正面から審査する』という意向が裁判所の側から示された形であり、画期的な前進と言えます」(平弁護士)
また、これに合わせて同じく原告側代理人の伊藤建弁護士は「訴訟提起から現在にいたるまで、なぜ松竹氏が処分されたのか、党規約の解釈・運用はどうなっているのかが、不明のままだ」と指摘。
「もし、被告人が証拠文書を出さなかった場合、文書提出命令を申し立てる(民事訴訟法221条、222条)」と意思表明したことを明らかにした。
「この申し立ては、被告側が資料を持ってるのに出さない、所持が明らかなのに出さない時に使用するものです。国や、“怪しい”企業を相手にした訴訟で、相手側からあまり証拠を出してもらえないケースなどに用いられることがあります。
仮に文書提出命令の申し立てが認められ、裁判所が文書の存在を認めたにもかかわらず、被告側が文書を提出しなかった場合、(当該文書に関する)こちらの主張が真実と認められるという強力な武器です(民事訴訟法224条1項)。
ただし、この文書提出命令に関して、被告の共産党側が『結社の自由の侵害である』と反論する可能性も考えられます。ですが、その主張が認められるかどうかは、今日の裁判所の態度から考えると疑問が残るところです」(伊藤弁護士)

「再審査の議論、志位和夫前委員長らが密室で実施」

また、この日の第6回口頭弁論期日では原告・弁護士それぞれに約10分ずつの意見陳述時間が設けられた。
意見陳述では平弁護士から「除名処分の再審査請求手続きは無効である」ことが述べられ、松竹氏からは「党による名誉棄損」についての陳述が行われた。
原告側は意見陳述や準備書面等で、松竹氏の除名処分に関する再審査手続きに重大な瑕疵(かし)があったと主張する。

党規約55条では「被除名者が処分に不服な場合は、中央委員会および党大会に再審査をもとめることができる」と定められている。
しかし、原告側によると、松竹氏の再審査は、600人以上のメンバーで行われる党大会ではなく、事実上、志位和夫前委員長らわずか21名の「大会幹部団」によって、密室で行われ、その結果を大会幹部団の一員で、党筆頭副委員長の山下芳生参院議員(当時。7月の参院選で落選)が党大会に報告。
原告の再審査請求書等についての説明はなく、意見陳述も行われず、山下氏の報告後即座に“拍手による採決”が取られ、再審査を却下することが承認されたという。
この一連の手続きについて、平弁護士は「一般の会社の株主総会であれば考えられない」としつつ、次のように述べた。
「最低限挙手、できれば圧力をさけるため、秘密投票によって実施されるべきでした。ですがこのような経緯と手段で行われた再審査請求手続きには明らかに瑕疵があるとしか思えません。
また、地方議員の方が再審査の却下に対し『反対意見を表明する』と予定していたのですが、これも大会幹部団の一員である山下氏が党大会の10日ほど前に約3時間、議員に対し反対意見の発言中止を“お願い”するという、圧力がかけられていました。
こうした部分から考えても異常な手続きであると考えます」

「政策論争なら中身を批判すべき」

一方、この日自身が受けた名誉棄損について意見陳述を行った松竹氏は次のように述べた。
「被告側は『原告の間で政策論争が戦われており、その中では過激な言葉が用いられることもありうる』と釈明してきました。
ですが、党首公選制や安保問題について政策を論じるのであれば、中身について議論すべきであって、そうではなく、意見を表明した私に対して『党を攻撃、破壊、攪乱(かくらん)している』といった被告側の主張はまさに名誉棄損だと思います。
加えて、1947年の第6回党大会では『全ての機関の委員は全ての党員による、直接の選挙で行う』という規約を決めたことがあります。

そして、規約には『民主集中制を組織の原則とする』と明記されており、少なくとも1940年代の共産党は、『民主集中制』と『党員による直接選挙』は矛盾していないと考えていたと推察されます。
被告は、私が主張していた党首公選制を捉え『党を破壊している、党を攻撃している』と述べていますが、この経緯を考えれば、被告側の主張は正当性を欠くのではないでしょうか」(松竹氏)
次回期日は9月22日を予定。ただし、弁護団によると、これまで原告側が提出した準備書面への、被告側の対応が遅れており、今回の期日になされた、原告側の主張に対する、被告側の対応は次々回期日以降になりそうだという。


編集部おすすめ