会見に臨んだのは、全国空襲被害者連絡協議会、民間戦争被害の補償を実現する沖縄県民の会、韓国・朝鮮元BC級戦犯者「同進会」、シベリア抑留者支援・記録センターの4団体。
4団体は2020年から「残された戦後処理問題の解決」を訴え、政府への要請活動を展開しており、この日に出された共同アピール文では太平洋戦争について「臣民が動員された総力戦」とし、民間人空襲被害者以外にも、台湾や朝鮮半島など外国籍の元BC級戦犯、ソ連抑留被害者らの救済を訴えた。
民間人空襲被害者の救済法案「臨時国会でなんとか成立を」
国は戦後、元軍人・軍属やその遺族に恩給や援護年金など60兆円以上の補償を実施してきた。一方、空襲や艦砲射撃で被害を受けた民間人には一切の補償はなく、同じ戦争被害者でありながら、国との雇用関係の有無で補償に天と地の差が生まれている。この格差を正当化する根拠が「戦争被害受忍論」だ。「戦争という非常事態では、国民は等しく被害を受忍(我慢)しなければならない」との理屈で、司法の場では、この受忍論に基づき、民間人への補償を拒んできた(※)。
※ 最高裁昭和43年11月27日判決(在外財産補償請求事件)、最高裁昭和62年6月26日判決(名古屋空襲訴訟)など
ただし、国が救済措置を講じる余地に言及した判決(※)も出ており、こうした状況を受け、超党派による「空襲議連」では空襲や艦砲射撃による被害を受けた人を対象とした救済法案を作成。6月19日に空襲議連の総会が開かれ、最終的な法案が確定した。
※ 大阪地裁平成23年12月7日判決など
一時金50万円の支給に加え、空襲等による被害の実態を明らかにするため必要な調査を行うことなどが盛り込まれているほか、前文では戦後80年を迎えるにあたって、被害者を救済する旨を明記。
しかし、通常国会中の法案提出・成立には至らなかった。
全国空襲被害者連絡協議会の運営委員長で、弁護士の黒岩哲彦氏は「野党各党は全党法案に賛同している」としつつ、提出見送りの背景と今後について次のように説明した。
「自民党、公明党の賛同は得られず、そのため、通常国会では野党だけの提案で議会に提出するのか、それとも超党派の足並みをそろえていくのか判断が求められ、その結果与野党と共同の一致を求めて法案提出を目指すという判断に至りました。
だからこそ、今年の秋の臨時国会ではなんとしてでも、戦後80年にあわせ、与野党一致で救済法案を成立させたい」
「国民は等しく戦う義務を課せられていたのになぜ…」
この日会見に出席した、東京大空襲犠牲者の遺族、河合節子さんは「戦争孤児も超高齢者であり、国は、私たちがいなくなるのを待っているかのようです」と述べ、こう続けた。「戦争中、防空法によって国民は自分の住む町が空襲に襲われたら、火を消さなければならない義務を課せられていました。つまり、召集令状はなくても、国民は等しく戦う義務を課せられていたのです。
それなのに、なぜ、『民間人は国との雇用関係になかったから』『戦争という非常時には国民は等しく我慢しなければならないから』という理論を押し付けられなければならないのでしょうか。
また、この戦後80年間、民間人空襲被害者の実態調査さえ行われてこなかったことには怒りを覚えます。
救済法案の内容は、被害者へのささやかな給付金と、空襲の実態調査、そして追悼のための事業の実施です。
孤児を含む遺族は法案による給付の対象者ではありません。それでも、民間人戦争被害者をなかったことにしないためにも救済法が成立する日を待ち望んでいます」
100歳の抑留体験者「戦争の後始末はまだ終わっていない」
会見ではほかにも、4団体のメンバーらが登壇。「民間戦争被害の補償を実現する沖縄県民の会」の瑞慶山茂(ずけやま・しげる)弁護士は救済法案の対象となっている沖縄本土だけでなく、フィリピンや南洋戦での民間人被害者の救済も実施するよう訴えた。「同進会」の朴來洪(パク・ネホン)会長らも、朝鮮半島出身のBC級戦犯148人(うち23人が死刑)の名誉回復と補償を求める。
「戦争中『日本人』として動員されながら、戦後、都合が悪くなると『外国人』として扱われた。しかし、死刑となった人たちは1946年から1948年に刑が執行されており、そのころはサンフランシスコ平和条約の発効前であり、当時は日本人でした。
こうした当時の状況を今の日本に伝えるとともに、立法措置による救済を求めたいです」(朴会長)
そして、この日の会場で、もっとも大きな声を張り上げて戦後補償の必要性を訴えたのは、シベリア抑留を体験した100歳の西倉勝氏であった。
戦後、旧ソ連に約60万人が連行され、約6万人が死亡したとされるシベリア抑留問題。2010年に制定されたシベリア特措法では、日本国籍者のみが特別給付金の対象とされ、旧植民地出身者は除外されている。
「現在、ロシアによるウクライナ侵攻でも、民間人や捕虜の取り扱いを定めた国際人道法が無視され、簡単に人が殺され、病院や学校が破壊され続けています。
80年前に私たちがシベリアで体験した出来事が、教訓として生かされていません。
力で他国を侵略するとき、自国民も必ず犠牲になります。
日本では310万人が亡くなりました。犠牲を強いられた民間人、旧植民地出身の元抑留者、外国籍元BC級戦犯の方々への当然の補償ができておらず、戦争の後始末はまだ終わってません。
動員や犠牲を強いた国家として、長年の無視と不作為を反省するとともに、将来ウクライナなどで行われるであろう、戦後処理の見本として、法律を制定して速やかに解決してほしいです」(西倉氏)
戦争資料の海外流出にも警鐘
会見では、戦争関連資料の保存問題も取り上げられた。全国空襲被害者連絡協議会とシベリア抑留者支援・記録センターを含む複数の組織や学者ら10団体、24個人は、同日付で石破茂首相あての要望書を提出。戦争体験者の高齢化に伴い、貴重な証言記録や当時の用具が散逸の危機にあり、「一部は韓国や中国の研究機関に移管されている」として、民間が収集した戦争関連資料を総合的に収集・保管・活用する国立施設の設立を求めた。
シベリア抑留者支援・記録センターの有光健氏は「世界各国、大体どこの国でも首都に戦争博物館がある」と指摘。
「都内には厚労省所管の昭和館、しょうけい館(戦傷病者史料館)や総務省所管の平和記念展示資料館などがあり、それぞれに毎年数億円ずつの予算が使われています。来訪する人の視点、利用する人の視点にあわせた形で、これらの施設を一度整理し、最終的には、日本でも都内に戦争博物館のような施設を造る、ということを目指していきたいです」(有光氏)