愛知県豊明市がスマートフォン(以下スマホ)やタブレット端末の余暇時間での利用を一日2時間を目安とする条例案を25日、市議会に提出した。
その内容について、市に寄せられた電話やメールによる意見は約7割が「反対」の声だったという。

世界的にも珍しい、時間を示してのスマホ使用規制。果たして、これは「家庭内の意思決定への介入」か「子どもの健全な育成」なのか…。(ITジャーナリスト:井上トシユキ)

利用時間を示して制限する条例は初めて

スマホの使用を規制する条例としては、これまでに「歩きスマホ」「ながらスマホ」を規制するものが、2020年7月に施行された神奈川県大和市、東京都足立区を皮切りに7例ある。
これらは道路交通法で自動車や自転車の乗車時にスマホのながら使用が違反行為となるのに対し、歩行中は対象外だったことを補完するなどがその目的だった。禁止されたのはあくまでも「画面を注視しながら歩行すること」であり、単に「通話」や「操作」をしながら歩行することは可能となっている。
豊明市のように、利用時間を具体的に示し、制限する条例案は今回の豊明市が初めてとなる。
諸外国ではどうなっているのか。
フランスやブラジル、フィンランド、デンマークなどで学校内でのスマホの使用が禁止されている。そのほか、アメリカの一部の州でも使用禁止となっている。イギリスでは、公的機関から子どものスマホ使用の制限が呼びかけられているが、具体的な動きにまでは至っていない。
韓国では27日に、授業中のスマホ等の携帯端末の使用を禁止する法案が国会で可決。2026年の新学期から施行予定となっている。
大人も含め、スマホ使用を規制しようとする豊明市の条例案は、世界を見渡しても突出した試みといえる。
そもそも、「仕事や勉強以外」という制約を設けての使用規制には、「やり過ぎだ」との声も大きい。

使用時間規制は「やり過ぎ」なのか

条例案が報じられるとネットで賛否が巻き起こった。堀江貴文氏や井川意高氏がすぐさま否定の意見を投稿。豊明市内にある中京競馬場での勝ち馬投票でスマホを利用した場合、「余暇時間の利用」にあたるのかと心配する声もあがった。本稿執筆時点でも物議を醸す事態が継続している。
ネットでの論議を受け、同市・小浮正典市長はメディアの取材に対し、「(生活等に)支障がなければ2時間が3~5時間になったところで問題ない」と回答したものの、識者や議員からは「行政による家庭内の意思決定に対する介入」「憲法違反の可能性」「エビデンスを示せ」といった苦言が呈され、条例案の上程をあきらめるよう諭す声も上がった。

「利用時間2時間」の根拠とは

では、そのエビデンスはどこにあるのか。
条例案にある「利用時間を2時間」については、総務省の調査などを参考にしたという。公開されているデータからわかるのは以下の内容だ。
平成25年度(2013年度)から毎年公表されている「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、最新の令和6年度(2024年度)の調査結果で全年代の平均が3時間1分となっている。
また、NHK放送文化研究所による2021年の「メディア利用の生活時間調査」では、「スマートフォン・携帯電話」の利用時間は全体で1日あたり平均1時間18分という。
このあたりから「2時間」という数字を算出してきたのではないかと推測できよう。
さらに、小浮市長は条例案について、「不登校の子供たちがスマホを手放せないがため家に閉じこもってしまう」という問題意識が端緒になったとメディアに語っている。
厚生労働省研究班が2013年に行った調査では、成人の約421万人にスマホやパソコンに没頭する「ネット依存」の傾向があり、13~18歳では約52万人いると推計している。

子どもの「スマホ依存」については、学力低下、生活リズムの乱れ、不登校、うつ病などになっているとの指摘が医学界からあるものの、アルコール依存や薬物依存のようにスマホ依存という医学的な言葉があるわけではなく、病気として認定、あるいは広く認識されたものでもない。
ただ、世界保健機関(WHO)は2019年にゲームへの依存を「ゲーム障害」という名前で疾病認定している。スマホでの「オンラインゲーム」が隆盛していることを踏まえれば、ゲーム障害を引き起こす大きな要因としてスマホ依存の規制が検討されることは、あながち無理筋というわけでもなさそうだ。
とはいえ、現状でスマホ依存が明確に病気と認定されているわけではない以上、対策としては啓発や呼びかけを強化するくらいが妥当ともいえる。条例にして「家庭での適正利用を促す」という縛りを設けるのは「やり過ぎ」と指弾されても、いまの段階では仕方ないのではないか…。

罰則はないが、誰がどうチェックする?

豊明市側は、自治の目指す方向性を示し、行政運営の土台となる「理念条例」であり、罰則等があるわけではないことを強調する。
単純比較はできないが、前述の“歩きスマホ禁止条例”は、大和市が施行後に調査を行い、市内の歩きスマホ減少が確認されたことを報告している。同様に罰則はないものの、同市は「啓発活動を続けたことで、条例の効果が出ているのではないか」と考察している。
それでも豊明市のケースでは、実際の運用に目を向ければ疑問点が残る。
たとえば、個人の余暇時間の定義が曖昧だ。仕事や学習以外がすべて余暇時間なのか、副業等ダブルワークを持つ人の場合はどうカウントするのか。
そもそも、余暇を過ごしている市民がスマホを使用する2時間を、誰がどのようにチェックするのか…。個人の意思に任せるというのなら、行政に口出しされることではないという批判に分があるのではないだろうか。

さらにいえば、中国では子どもに対するスマホ使用の規制への対抗手段として、子が親の所有機器を勝手に使うことや、祖父母に頼み込んで登録や決済を代行してもらうことが頻繁に起きていると報じられている。
日本でも、同様のことが起きる懸念もぬぐえない。

韓国の調査ではスマホ高依存は「伝染する」

2024年8月には、韓国で親子のスマホ利用に関する調査研究が行われた。それによると、親がスマートフォン「高依存型」の場合、子どもの78.5%が「高依存型」だった。「スマホ依存」は親から子へと「伝染する」ことを示す結果といえる。
この調査結果からいえるのは、スマホの使用を規制するなら、まずは大人から範を示す必要があるということだろう。「家庭内でルールづくりを」と呼びかけたところで、肝心の大人がだらしなければ意味がない。それどころか悪化の懸念さえあり得る。
昭和の時代、「テレビは子どもの健全な成育に悪影響がある」と喧伝されたことがあった。「子どもを守るため」という錦の御旗の下、スケープゴートが設定されるのは、いつの時代も変わらないようだ。
規制による排除より、適切な共存を目指す――。多様性の時代にはそうした方向性がフィットしているように思うのだが、いかがだろうか。

■ 井上 トシユキ
1964年京都市生まれ、同志社大学卒業。会社員を経て1998年より取材執筆活動を開始。IT、ネットから時事問題まで各種メディアへの出演、寄稿および 論評多数。企業および学術トップへのインタビュー、書評も多く手がける。


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