女優の趣里さんと、ダンス&ボーカルグループ「BE:FIRST」のRYOKIこと三山凌輝さんが、先月29日にインスタグラムで結婚、および趣里さんが第1子を妊娠中であると発表した。
しかし趣里さんの妊娠をめぐっては、本人が発表する以前から、一部週刊誌が「お腹ぽっこり」「授かり婚」など、妊娠を示唆するような報道を展開していた。

一般社会に置き換えれば、本人の意思に反して妊娠情報を勝手に言いふらす行為は「妊娠アウティング」と呼ばれ、問題視されているが、芸能人であれば甘んじて受け入れるしかないのだろうか。

趣里さんだけではない…繰り返される「妊娠アウティング報道」

趣里さん自身は、メディアによる「妊娠アウティング報道」について直接的な言及をしていないが、インスタグラムに投稿した結婚・妊娠発表のメッセージには、次のように記されている。
〈何よりも無事に第1子が誕生してから、皆様にお伝えしようと思っていたのですが、出産までの間、少しでも穏やかな環境で過ごせるようにとの思いから、このタイミングでご報告させていただくことになりました〉
芸能人の妊娠をめぐるアウティング報道は、趣里さんのケースだけではない。たとえば、昨年6月には、女優の仲里依紗さんがインスタグラムのストーリーズを更新し、〈10年以上前だけど〉〈2ヶ月目とかで安定期入ってないのに勝手に報道されてすごく悲しかった記憶あるなぁ…〉と、当時の辛い心境を振り返っている。

「妊娠アウティング」の法的問題

まず一般的に、「妊娠アウティング」という行為そのものに法的問題はあるのか。自身も出産経験のある遠藤知穂弁護士に聞いた。
「妊娠については非常に個人的なことであり、時期によっては流産の危険などもあることから、当事者にとっては『隠しておきたい』という気持ちも非常に強いものだと思います。
妊娠を当事者の意思に反して公表するというのは、個人のプライバシー権を侵害するものと言えますので、民法上の不法行為(民法709条)となり、損害賠償責任が生じる可能性があります」
これが職場で行われた場合は、ハラスメントの問題にも発展し得る。
厚生労働省は、マタニティハラスメント(マタハラ)について「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」として位置づけている。具体的には、妊娠などを理由に就業環境が害されることを指し、事業主には防止措置を講じることが義務づけられている(男女雇用機会均等法11条の3、育児・介護休業法25条)。
妊娠アウティングをきっかけに就業環境が害される懸念もあり、また妊娠アウティング自体も「マタハラ」に該当する可能性があるため、注意が必要だ。

メディアが「勝手に妊娠報道」することに法的問題はある?

一般社会においては問題意識を持っている人も少なくない「妊娠アウティング」だが、趣里さんや仲里依紗さんのような芸能人の場合は、本人が公表していないのにもかかわらず、メディアの報道によって公になってしまうケースもある。こうした報道に法的問題はないのか。遠藤弁護士は次のように話す。

「一般の方と同じく、当事者のプライバシー権を侵害するものと言えますので、民法上の不法行為にあたる可能性があります。一般の方と異なるのは、そのニュースについて公益性や公共性があると言える場合には、違法ではなくなる可能性があるということです。
もっとも、政治家であればそれらが認められる可能性があるように思われますが、芸能人の妊娠のニュースに公益性や公共性があるとは言いにくくなっているのではないでしょうか。この傾向や感覚は、時代を追うごとに強まっているように思われます」
では、当事者の意思に反した「妊娠報道」がなされることで精神的な負担がかかり、流産などにつながった場合、妊娠報道を展開したメディアに法的責任を問うことはできるのか。
「まず刑事の観点からは、アウティングを犯罪とする法律はありませんので、メディアに何らかの罪を問うことはできません。
次に民事の観点から考えると、アウティング報道は民法709条の『不法行為』であるとして損害賠償が認められる可能性があります。ただし、流産の理由を確定することは非常に難しく、行為と結果との因果関係(アウティング報道が流産を引き起こしたということ)が認められるのは困難です。
仮にアウティング報道について、不法行為に基づく損害賠償請求をしたとしても、流産までは因果関係のある結果としては認められず、結局はそのアウティング報道によって心情を害されたということについて、少額の慰謝料が認められるのにとどまる可能性が高いように思います」(遠藤弁護士)
趣里さんの結婚・妊娠をめぐっては、夫となった三山さんの過去の婚約破棄騒動や、趣里さんの両親である水谷豊さん、伊藤蘭さん夫妻の心情などが世の中の大きな関心事となり、本人が発表していない妊娠について報道がなされているという問題については見落とされていた向きもある。
芸能人の私生活には人々の注目が集まりやすいが、一般社会におけるコンプライアンス意識が向上する中、彼らにも守られるべきプライバシーがあることを、改めて考える段階に来ているのかもしれない。


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