見た目が「怖い」人物を“レンタル”できるサービスとして話題になった「レンタル怖い人」。連日SNSで注目の的になっていたが、8月末に公式X上で突如サービスの終了を発表した。

見た目が「怖い」人物がハラスメント、ご近所トラブル、男女間のもめ事、金銭トラブルなどの解決を促すというサービスに対し、SNSでは「面白い」と好意的な反応があった。
しかし一方では、公式サイト上に特定商取引法で義務付けられた表示が確認できず、紹介されているサービスについても「反社会的勢力に近いのでは」「法律的に危なくない?」と懸念も相次いでいた。
サービス終了の理由は語られていないが、“怖い人”のレンタルという業務内容に何らかの問題があったのだろうか。

サービス終了の理由は?

刑事事件に多く対応する岡本裕明弁護士は、サービス終了の理由を次のように推察する。
「今回のサービスについては、特定商取引法で義務付けられている内容が適切に表示されていないなど、特定商取引法上の問題があったと指摘されています。
これはサービスの主体や内容についての十分な説明がなされていないことを問題視するもので、『レンタル怖い人』という業務内容自体の問題ではありません」
さらに岡本弁護士は、怖い人を貸し出すというサービス自体が、何らかの法律に「必ず違反する訳ではない」と続ける。
「公式サイトの解決事例の中に、
〈職場で舐められないようにするため、職場の飲み会に偶然を装って出くわして友人のふりをして欲しい〉
との依頼例が記載されていました。詳細は分かりませんが、この場合、怖い人が職場の人間に対して、直接的な働き掛けは行っていないようですので、何らかの法律に違反しているとまでは評価できないように思います」

「レンタル怖い人」が違法になる場合も…

しかし、岡本弁護士は、「こうしたサービスの利用を検討される方は、抱えているトラブルを解決したいと考えている」とした上で、サービス利用者が、怖い人を使って「相手方を畏怖させ」何かしらをさせる(または承諾させる)といった場合には、犯罪行為に抵触する可能性があると説明する。
「民法上の強迫(民法96条1項)も刑法上の脅迫罪(刑法222条)も、他人を畏怖させる行為について適用される規定です。
また、脅迫行為がお金や財産を入手するために用いられた場合には、恐喝罪(刑法249条)や強盗罪(刑法236条)という、より重い犯罪が成立することになります。義務のないことを行わせるために用いられた場合には、強要罪(刑法223条)に該当する可能性もあります。
『怖い人』をレンタルしようとしている以上、利用者には、『怖い人』の外観で畏怖させようという目的が、ほとんどの場合で認められるのではないかと思いますから、上記各犯罪が成立する可能性は否定できません」(岡本弁護士)

怖い人側が「配慮しても」犯罪成立?

公式サイトのQ&Aでは〈相手を脅してほしいのですが、、?〉という質問に対し、〈脅迫などの違法行為に当たる可能性のある行為はお断りしています。〉との回答がある。
これに対し岡本弁護士は、「たとえ怖い人側が配慮したとしても、利用者がそもそも相手方を畏怖させる目的でレンタルすることが多いでしょうから、状況によっては脅迫罪が成立してしまう可能性があります」と話す。
「脅迫罪の成否は、日時・場所・方法、相手の年齢等の事情を総合的に判断しますが、『怖い人』から発言されたという事実は、脅迫罪の成立を認める方向に作用する事実といえるでしょう。

また、たとえば、入れ墨を示した行為が脅迫行為の一部と捉えられて起訴されたケースもあります(東京地裁立川支部判決 平成30年(2018年)5月7日)。この裁判では証言の信用性などが問われた結果、無罪判決が言い渡されましたが、脅迫的な発言がなかったとしても、入れ墨を示す行為が他の言動と相まって脅迫罪が成立する余地は十分にあるといえます」

「後ろ盾」は怖い人より専門家が心強い

“怖い人”を貸し出す/借りること自体に違法性はなくとも、借りた依頼者の思惑によっては、依頼者、そして“怖い人”も罪に問われる可能性がある。企業としてはリスクの大きなサービスだったといえるだろう。
問題を解決するために、自らが法に抵触しては元も子もない。
トラブルに巻き込まれた人は、“怖い人”ではなくトラブルの分野に合わせた専門家を頼り、安全にそして根本的に問題解決を図るのが肝要だろう。


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