「盗撮カメラ発見器」校内に導入検討の自治体も…専門家が“有効性”に疑問示すワケ 学校施設での検挙「年間556件」求められる対策は
教員による学校内外での盗撮事件が止まらない。どこよりも安全であるべき場所での違法行為の横行に、防犯カメラ設置も珍しくなくなりつつあるが、併せて盗撮発見器の導入を決めた自治体も出てきた。

もはや末期的ともいえる、学校における盗撮対策の実情。各種機器等による盗撮対策は本当に有効なのか。盗聴器発見やスマホのハッキング調査などを行い、盗撮事件にも詳しい、現役探偵がハード・ソフト両面から検証する。(本文:Akai探偵事務所代表・継野勇一)

校内に潜む見えないレンズ

栃木県の県立高校で、前任校とあわせて30台を超える小型カメラを女子トイレや更衣室に設置していた教諭が8月13日に逮捕された。
盗撮事件は、警察庁によれば2024年だけで8323件が摘発され、そのうち556件が学校施設だった。これは事件として発覚し、表面化した件数に過ぎないが、水面下ではさらに多くの被害があったと考えられる。

安全なはずの教室に潜む盗撮リスク

近年の盗撮は、機器の小型化や偽装技術の進歩によって周囲から容易には気づかれにくいほど巧妙化し、発見が困難になっている。
今では、指先に乗るほど小さなカメラが、インターネットで簡単に入手できる。たとえばペンやモバイルバッテリーに埋め込んだカメラは1万円を切る値段で販売されており、とある商品は、過去1か月の購入数が400点以上であることが確認できた。
9月9日には、京都府内の公立中学校の教員が勤務先の教室にモバイルバッテリー型の小型カメラを仕掛け、着替え中の女子生徒5人を盗撮した疑いで逮捕された。
最近では、生徒が盗撮をするケースも増えている。これまではスマートフォン持ち込みが禁止されていた学校でも、文部科学省が進めるGIGAスクール構想による1人1台の学習用端末の整備により、カメラ機能付きデバイスを簡単に利用できるようになったことなども一因とみられる。
実際、2023年7月に性的姿態撮影等処罰法が施行された後、中高生どうしの盗撮で摘発された人数は今年5月までに550人に上り、その約4割(219人)が校内で発生したと報道されている。
また、東京都内の公立小学校では、男子児童が学習用に配布されたデジタル端末で女子の着替えを撮影するという事案が取り上げられ、文部科学大臣が対応に言及する事態となった。

盗撮発見器で対策は十分か

学校内での盗撮が続発する中、横浜市教育委員会は教員らが盗撮した事件を受け、カメラ探知器を40台導入することを盛り込んだ対策の方針を示した。もはや末期的ともいえるが、盗撮アイテムを発見する機器の導入は対策になり得るのか。
「極めて難しい」。それが筆者の結論だ。
盗撮発見器には、電波を検知する無線式やレンズのわずかな反射光を拾う光学式など、さまざまな特性のものがある。適切に使えば一定の効果は見込める。だが、無線を使わないオフライン録画型や極小レンズのカメラには途端に弱く、照明環境や角度によっては見逃しも起きてしまう。
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数多くの盗聴・盗撮アイテムを検証している継野氏

実際に筆者が大手通販サイトで販売されている盗撮カメラ発見器を用い、検証したところ、カメラの特性や周辺環境によって、発見が難しくなるものが相当数、存在した。
つまり盗撮カメラ発見器は使いどころを見極めて活用する道具であり、それだけでは対策として十分とはいえない。

学校内の防犯カメラの“死角”

学校における盗撮対策としては、防犯カメラの設置が有効だと考えられている。確かに防犯カメラには犯罪抑止や証拠保全に効果がある。一方で、設置範囲外に死角が生じやすく完全な監視はできないという欠点がある。
カメラの台数を増やせば解決できそうだが、たとえ設置カメラの数を増やしても、建物の凹凸や柱、ロッカーなどの什器、掲示物、照度のムラなどが重なることで、どうしても映らない範囲が生じてしまう。またカメラの台数を増やすことは学校に大きな経済的負担を強いることにもなる。

文部科学省の施設整備指針には、「設置目的・場所・運用体制を総合設計しつつ『目の届きにくい場所』を前提に配置せよ」と明記されている。更衣室やトイレのような撮ってはならない場所の周辺は、なおさら監視設計が難しい。だからこそ死角を把握し、補う運用が必要とされている。

防犯カメラの課題

なんとか課題をクリアし、学校に防犯カメラを張り巡らせたとしても、「つけただけ」では安全は守れない。
最大の課題は、運用ルールの欠如だ。
誰が映像を確認し、どの範囲に閲覧を許すのかーーこの基本が決まっていなければ、いざというとき「映っていたのに誰も見ていなかった」という最悪の事態になる。ルールがないまま放置すれば、録画データが不正に閲覧・流出する危険すらある。
もう一つ、忘れてはならない大きな課題がある。プライバシーへの配慮だ。
学校は未成年が大半を占める場所であり、カメラは常に彼ら彼女らの日常を撮影し続ける。設置目的や映像の扱い方を明確に示さなければ、「守られている」ではなく「監視されている」という印象を与えてしまい、保護者や生徒の不信感を招く。
防犯カメラは、機械ではなく運用でこそ意味を持つ道具。その力を発揮させるには、まずルールと信頼を築くことが欠かせない。

防犯カメラはハッキングされる可能性があるのか

防犯対策として設置されたカメラが、逆に悪用されてしまうーー。そうした可能性はあるのか。実はその懸念は現実のものになっている。
近年では、ハッキングされたカメラの映像がインターネット上に無断公開されたり、違法サイトやSNSを通じて拡散されたりする事例も報告されている。
知らぬ間に、自分や子どもが「いつ・どこで・何をしていたか」が世界中に筒抜けになるという事態も、もはや絵空事ではない。
IPカメラはネットワークに接続して動作するため、いわば小さなコンピュータのような存在だ。そのため、セキュリティーの穴や初期設定の不備があると、外部から侵入される危険性が生じる。
防犯のためのカメラが、適切に管理されなければ「新たなリスク」へと裏返ってしまう。防犯カメラ設置を防犯対策と妄信することは、むしろ、新たな盗撮リスクを誘発しかねない。そのことは念頭に入れておいた方がいい。

学校での盗撮を無くすために本当に必要なこと

小型カメラやGIGAスクール構想によるタブレット等の端末の普及など、学びを支えるはずの技術が、悪用されるリスクをも抱える時代になった。
学校の安全を保持することが困難な状況に対しては、人と機械の両方の力を組み合わせた総合的な取り組みが有効策として求められる。
防犯カメラや盗撮発見器は、死角を意識した配置やAIによる不審行動検知、通報フローと組み合わせることで、単なる記録装置ではなく「守るための装置」として機能する。

同時に、人の側でも取り組みが必要だ。たとえば、
・生徒への情報モラル教育で「無断撮影の違法性」や「被害者の心の傷」について学ばせる
・教職員研修で「カメラの死角に注意する視点」や「発見時の初動対応手順」を共有する
・学習端末の管理ルールとして「カメラ部分に物理カバーを配布」「更衣時は端末をロッカーに保管」など具体策を導入する
・保護者への周知で「学校は安全を守る責任を果たしている」という安心感を届ける
といった取り組みを行えば、技術と人が互いの弱点を補い合い、より堅牢な安全環境が築けるだろう。
機械が目となり、人が心となって、教室を守る。
どちらか一方では足りないが、両方がそろえば、子どもたちが安心して過ごせる環境をつくることができるはずだ。
■継野勇一
Akai探偵事務所・盗聴器の発見PRO・スマホ盗聴の発見PRO代表
盗聴器発見やスマホのハッキング調査、浮気調査を行っている。


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