「Xフォローしてよ!」上司の要求に困惑…管理職が部下のSNSに“介入すべきでない”明解なワケ
善意のつもりで始めた部下や同僚とのコミュニケーションが、いつの間にか「ソーシャル・ハラスメント(ソーハラ)」につながるケースがある。
LINEやX(旧Twitter)などSNSは身近なツールだからこそ、職場での使い方を誤ると、相手のプライベートを侵害し、強い不快感や圧力につながりかねない。

今回は実際の事例をもとに、ソーハラを防ぐための注意点を整理する。
※この記事は公認心理師の宮本剛志氏による著作『「ハラスメント」の解剖図鑑』(誠文堂新光社、2024年)より一部抜粋・再構成しています。

部下と仲良くなりたい思いが行きすぎ、ソーハラした上司

配属されたばかりで仕事に慣れていないAさん(女性)のことを、リーダーのBさん(男性)は親身になって教えていました。
Bさんは、Aさんが困ったときに助けてあげたいと思い、「仕事で困ったことがあればいつでもLINEで相談して」と伝え、LINEの交換を提案しました。Aさんは、それは助かると思って交換に応じました。
しかしBさんは、だんだんとプライベートで出かけた場所の写真や自撮り写真を、休日にAさんにLINEで送るようになりました。Aさんは「なんで!?」と戸惑い、どうしていいのかわからず、返事をしませんでした。
さらにBさんはX(旧Twitter)でAさんをフォローしました。AさんはBさんをフォローバックしなかったので、Bさんは職場で直接「Aさんもフォローしてよ!」と要求してきたのでした。

プライベートなSNSへの介入はソーハラの要因になる

SNSは簡単に始められる交流手段として、多くの人が当たり前に使用しています。しかし、今回のケースはソーハラに該当するでしょう。
もし私用のLINEの交換禁止など、SNS利用の社内規定があり、それに違反しているのであれば、ただちにAさんとのやりとりを中止する必要があります。
さらに今回のケースには、もっと大きな問題が2つあります。
1、目的外使用
Bさんは「仕事で困ったことがあれば」と言って交換しています。
仕事の目的で交換したLINEを、Bさんはプライベートで利用してしまっています。
2、プライベートなSNSへの介入
個人のXやInstagramはプライベートなものです。SNSへの介入はプライベートへの干渉と捉えられかねません。
私は、管理職は部下のSNSに介入しないことをおすすめします。立場が上の人の要求は断りづらいからです。ソーハラの要因になりかねません。

ソーハラ防止のポイントは、リスペクト

Bさんは自分の行為が、交流を深めるために良いことだと思っていました。そのため、「まさか私がソーハラをしているなんて」と驚いていました。
SNSやメールの利用に関しては、根本的な考え方として、以下の2つを心がけるとソーハラ防止につながります。
1、私たちは仕事の関係
仕事での関係とは、「仕事の時間内での、仕事を通した関係」ということです。仕事から離れたときには関係は成立していません。仕事を通した関係は、友人関係とイコールではないのです。
そのように考えれば、緊急の連絡以外に、時間外・休日にSNSやメールを使って連絡をするのは控えたほうがいいことがわかります。

2、リスペクト
リスペクトとは、単に「尊敬する」だけではなく、「それぞれの人格・人権を尊重すること」と私は管理職に伝えています。
人には仕事以外に、友人関係・家族関係、個人の空間があります。それも大事な人格・人権です。
つまり、時間外のSNSやメールは相手の仕事以外の人格・人権を尊重していないことになりかねません。
リスペクトする相手は、全員です。上司・部下・先輩・後輩など、地位はまったく関係ありません。お互いがリスペクトし合える職場であれば、ソーハラが起きることはありません。
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イラスト:髙栁浩太郎(宮本剛志『「ハラスメント」の解剖図鑑』誠文堂新光社より)

仕事でよく使うSNSの注意点

会社の業務で使用するSNSが、問題になることもあります。例えば、teamsやチャットワークです。
teamsのチャットは、既読したのかどうかがわかります。チャットワークはリアクションした人としていない人がわかります。
時間外にteamsのチャットが送られてきて既読をつけなければ、「上司に悪い印象を与えるのでは」と悩む部下もいます。もちろん、緊急事態であれば、時間外でも連絡が必要なことはあります。

また、「返信を求めていなければいいですよね?」と言われることもあります。しかし、たとえ返信を求めなかったとしても、部下は時間外にもかかわらず仕事のことを考えざるを得ませんので注意が必要でしょう。

コンプライアンス=法令遵守」では物足りない

コンプライアンスとは、一般的に法令遵守と言われます。しかし、今の時代にそれでは不十分です。
そもそもコンプライアンスとは英語で「従うこと」です。つまり、法令だけに従えば良いという意味ではありません。
私はコンプライアンスにはレベルがあると思っています。
レベル1:法令遵守
レベル2:社内規範(社内規定やルール)
レベル3:社会規範(良識など)
レベル4:企業理念・社会的意義(パーパス)
セクハラ・パワハラ・マタハラなどは法的根拠があるので、レベル1の話にすぎません。レベル1だけを守っていてもよい職場とは言えません。
目指すべきコンプライアンスは、レベル4です。つまり、管理職は企業の理念・社会的意義を体現するということです。
ソーハラはレベル1には違反しないのかもしれません。
しかし、レベル4を遵守した行為でしょうか。
レベル4を遵守すれば、そもそも「ハラスメント加害者になってしまわないか」と悩む必要がなくなりそうですね。


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