イリュージョニストのプリンセス天功さんが今月14日に放送された『爆笑問題の日曜サンデー』(TBSラジオ)でホワイトライオンを飼っていることを明かし、太田光さんが「許されているのですか?!」と仰天した。
実際に、個人が猛獣をペットとすることは許可されているのか。
動物に関する法律に精通する青木敦子弁護士に聞いた。

猛獣をペットとして飼うことは「原則禁止」

「日本では、トラやライオンなどの危険性の高い猛獣は『特定動物』に指定されており、改正法施行後である2020年6月以降は、新たに愛玩(ペット)目的で飼育することが禁止されています」
太田氏が抱いた疑問に対する青木弁護士の回答は、ズバリ「No」だ。
ライオンなどの人の生命、身体等に危害を加えるおそれのある動物は「特定動物」と呼ばれ、トラ、ワニ、マムシなど哺乳類、鳥類、爬虫類の約650種が対象となっている。その飼養または保管は、「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)によって厳しく規制されており、原則として都道府県知事または政令指定都市の長の許可が必要とされている(動物愛護管理法26条1項)。
2020年6月1日以降は法改正により、特定動物とその交雑種を愛玩の目的で新たに飼養または保管することが法的に禁止された。
改正の背景として、特定動物自体が主に野生動物であり、不適切な状況で飼育されているケースが多く、動物福祉に反することや、災害時の同行避難の困難さなどがあるといわれている。
また、一般人がライオンを飼育できること自体がおかしい、という素朴な意見も考慮されているという。
したがって、一般の個人が趣味やペットとしてライオンなどの猛獣を新たに飼い始めることは、現在、法律上許されていない。ではなぜ、天功さんはそれが可能なのか。

天功さんが猛獣を飼える理由

実は、同法には例外がある。法改正以前から許可を得て飼育を継続している場合や、「特定の目的」がある場合だ。
「天功さんのホワイトライオンの事例のように、長年飼育を続けているケースは、法改正以前からの継続飼養や特殊な目的(展示など)で許可を得ていると考えられます」(青木弁護士)
個人がこれから新たに特定動物を飼育することは愛玩目的では許されていないものの、そもそも、どのように入手するのか。
「たとえば動物園などの施設が、他の施設へ提供するケースもあると聞きます。海外から輸入というルートもあります。
ただし、現状では飼育は『特定の目的』がある場合に限定されています」(青木弁護士)
「特定の目的」は以下のケースとなる(動物愛護管理法第26条第1項、同施行規則第13条の2)。
  • 動物園などでの展示
  • 試験研究(生物学的製剤などの製造を含む)
  • 生業の維持(法改正以前から行っていた事業の継続など)
  • すでに許可を受けていた個体の継続飼養や相続

特定動物飼育の前に立ちふさがる高い壁

仮に許可されたとしても、特定動物の飼育は、人の安全確保と動物の適正な管理を目的としており、非常に厳格な基準が設けられている。
たとえば飼養施設は、その動物が逸走するのを防ぎ、人への危害を防止するために、環境省令や告示(特定飼養施設の構造及び規模に関する基準の細目など)で定められた厳格な基準を満たす必要がある。
飼育者には、事故防止のための厳重な管理体制も義務付けられている。定期的な施設の点検、標識の掲示、もちろん施設外での飼養は原則禁止となっている。
特定動物の所有者を明確にするため、飼養を開始してから30日以内に、マイクロチップ(鳥類は脚環も可)等による個体識別措置を行い、届け出ることも義務づけられている。逃げ出した場合の捕獲方法や連絡体制など、具体的な対応計画をあらかじめ定めておくことも必須だ。

施設外への連れ出しは可能?

こうした厳格な規定があるなかで、天功さんはラジオ番組内で「今度連れてきます」とホワイトライオンの局への帯同を宣言していた。本当に可能なのか?
「原則として施設外飼養は禁止されていますが、例外として、取り扱い者が立ち会い、かつ十分な逸走防止措置(首輪や引き綱など)を講じ、展示目的などで一時的に施設外に連れ出すことが認められる場合があります。
なお、東京都の細目規定では、この場合『1時間未満』であることが要件とされています(特定動物の飼養又は保管の方法の細目第3条2号ロ)。全国一律のルールではなく、自治体ごとの運用により異なる可能性があります。
この際、都道府県知事への事前届出が必要となることも。天功さんがラジオ局に連れてこようとしたり、私有地で散歩させたりしている行為は、この例外規定に基づき、安全措置と時間の制限を守って実施されると考えられます」(青木弁護士)

もし逃げ出した場合の法的責任

もしも、飼育している施設から逃げ出してしまったらどうなるのか…。
逃げ出したこと自体を直接罰する規定はないが、逸走防止の基準に違反していた場合には、行政処分や罰則の対象となる可能性がある。

しかし、逃走が発生した場合、飼養施設の構造や管理方法が基準に適合していなかった(基準違反)ことを意味するため、この基準違反が認められた場合、行政処分として、許可の取り消し等の措置がとられる。
では逃げて、人に危害を加えてしまった場合の法的責任はどうなるのか。
「飼育していた特定動物が逃げ出し、他人に損害を与えた場合、飼育者は民事責任と刑事責任の両方を問われる可能性があります。
民事では民法718条により、動物の占有者は無過失に近い形で責任を負います。条文上は『相当の注意』を尽くした場合に免責される可能性がありますが、猛獣のケースでは管理義務が極めて厳格に課されるため、実務上は免責が認められることはほとんどありません。
損害(治療費、慰謝料など)は飼い主が賠償することになります。
刑事責任については、逸走の原因が、飼育施設の不良や飼い主による管理義務の怠慢にあった場合、その結果として他人に傷害を負わせてしまったときには、過失傷害罪などが成立する可能性があります」(青木弁護士)
万一、飼い主自身が襲われたとしても基本、自己責任。一方で、動物とはいえ、危険性が高い種を飼う以上、重い責任がある。
個人が新たに愛玩(ペット)目的で飼育することはNGだが、もし飼うにしても高い順法意識は当然として、潤沢な財力、強い責任感、そしてなにより、動物に対する深い愛情がなければ、とうてい遂行は困難。そう認識しておいた方がよさそうだ。


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