10月15日は「きのこの日」だ。日本特用林産振興会が1995年に制定したこの記念日は、きのこの消費拡大と健康食品としての有用性を広めることを目的としている。

秋の味覚の王様と呼ばれるマツタケは、猛暑と少雨の影響で、全国的には不作と見られているものの、岩手県など一部の産地では局地的な豊作傾向がみられるという。
マツタケの他にも、様々な美味しい食用きのこが秋に旬を迎える。山へ「きのこ狩り」に行く人も多いだろう。
しかし、この秋の「きのこシーズン」には毎年、「毒きのこ」による食中毒事故や山岳遭難、野生動物による被害など、生命・身体に関わる事態が相次いで発生し、中には法的責任が問われるケースもある。​

毒きのこ誤食による食中毒が多発

厚生労働省の統計によると、毒きのこによる食中毒は夏の終わりから秋にかけて多発しているという。
2019年から2023年にかけて発生した事例では、ツキヨタケ(ヒラタケやムキタケと間違えられやすい)やクサウラベニタケ(ウラベニホテイシメジやハタケシメジと間違えられやすい)による中毒が特に多い。​
また、2020年には種類不明の野生きのこを原因とした死亡事例が、2023年にはドクツルタケ(推定)を原因とした死亡事例がそれぞれ発生。
昨年も、ツキヨタケ、オオシロカラカサタケ、ドクツルタケ等の毒きのこの誤食による食中毒事例が報告されている。​
毒きのこの中毒症状には、種類によって、嘔吐、下痢、腹痛などのほか、唾液の分泌、瞳孔の収縮、発汗などがある。
また、厚労省の別のデータによると、毒きのこのほか山菜や野草を含んだ有毒植物による食中毒事故は、2014年から2023年の間で約1500件発生しており、うち20人が死亡している。
毒きのこを摂取して食中毒を起こすと、場合によっては死に至ることもあるため、厚労省は「食用のきのこと確実に判断できないきのこは、採らない、食べない、売らない、人にあげない」という4原則の徹底を呼びかけている。​

毒きのこを人に食べさせた場合の法的責任

もし、毒きのこを人に食べさせた場合、その人が食中毒を起こせば過失傷害罪(刑法209条)、死亡したら過失致死罪(同210条)に問われる可能性がある。不注意の程度が著しい場合には重過失致傷罪(同211条後段)が成立し得る。不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任も生じる。

また、飲食店のスタッフが毒きのこを提供し、客に食中毒を発生させた場合や、農産物販売施設や直売所等で事業者がきのこを販売し、それを購入客が調理して食べて食中毒が発生した場合は、業務上致死傷罪が成立し得る(同211条前段)。もちろん、民事上の不法行為責任も負う。
さらに、食品衛生法6条2項違反として、営業停止命令や毒きのこを含む可能性のある食品の回収命令が出され、営業停止などの行政処分が科せられる可能性がある(同60条1項参照)。加えて、「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」(同81条1項1号)に処される可能性がある。

きのこ採り中の滑落・遭難事故も深刻

きのこに関するリスクは「毒」だけではない。警察庁の統計によると、2024年の山岳遭難者3357人のうち、目的別では山菜・きのこ採りが8.8%を占めている。
加えて、きのこ採り中の遭難事故では、急斜面での滑落といったリスクも存在する。実際に、10月8日には岩手県山田町の山林できのこ採りに出かけていた87歳の女性が遺体で発見された。
地元メディアの報道によると女性は同日、家族に「きのこ採りに行く」と言って1人で山に入っていたという。

クマ襲撃のリスクも増大

さらに、きのこ採り中のクマ襲撃事故も深刻化している。​10月3日には、宮城県栗原市の山中できのこ採りをしていた女性2人がクマに襲われ、1人が死亡。1人が行方不明になった。
本年度のクマ被害による死者数は、2023年度(6人)をすでに上回るなど(10月14日時点)、過去最多を更新。
また、北海道では1962年以降、過去64年間でヒグマによる死者が61人に上り、そのうち最も多いのが山菜やきのこ採りで山に入って襲われたケースだという。

秋の味覚を楽しむには…?

秋の味覚を安全に楽しむためには、専門知識と十分な準備が不可欠だ。
なかには、「虫が食べるきのこは、人間も食べられる」「香りの良いきのこは、食べても問題ない」「加熱や塩漬けなどすれば、毒きのこでも食べられる」「茎が縦に裂けるきのこは食べられる」といった、“言い伝え”もあるが、これらは迷信であり、誤った情報だ。
また、きのこ採りのため、山に出向く際には、単独や無計画の入山を避け、複数人で行動し、行き先の共有や、熊鈴・スプレー・ヘルメットの携行、通信手段と地図アプリの確保、日没前の下山を徹底するとともに、危険を感じたら撤退する判断が命を守るだろう。


編集部おすすめ