「とにかく、生き抜いて欲しいんです」
これは、神戸市内のある児童養護施設の施設長の言葉です。かつてご自身が担当した子どもが2人、将来に絶望して自ら命を絶ったといいます。その痛切な経験から紡がれた言葉に、現実の重みが込められていました。
わが国の法制度は、出自にかかわらず若者が学びの機会を得られるよう、幾重にもセーフティーネットを張り巡らせています。しかし社会には、時折沸き起こる「生活保護バッシング」に象徴されるように、「セーフティーネットに頼るのは恥ずかしいこと」という誤った認識が蔓延しています。「福祉に頼ること」への罪悪感も根強く存在します。
また、公的な支援の現場においてさえ、「子どもたちに誇りを持って自立して生き抜いてほしい」という善意からの「想い」が、若者をセーフティーネットから遠ざけ、選択肢をせばめ、取り返しのつかない苦境へと追い詰めてしまうケースが見られます。(行政書士・三木ひとみ)
「生活保護は最後の手段」という“善意”が若者を追い詰めることも
たとえば、若者が心身を病んだ場合、「生活保護よりも、まずは障害年金を」と言われることがあります。その言葉自体は、支援者の善意や優しさから発せられるものかもしれません。しかし、それらが社会に根強く存在する「生活保護」への誤解と結びつくと、かえって若者の選択肢を狭め、未来への可能性を奪う危険性をはらむことになります。
なぜなら、若者の自立支援において、「生活保護」が果たす役割は非常に大きいからです。
この問題を考える上で、まず二つの重要な事実を確認する必要があります。
第一に、制度上の現実です。
そもそも、何らかの障害がある人や20歳前に傷病を負った人が受け取る「障害基礎年金」の支給額は、満額でも、国が定める最低生活費(生活保護の基準額)を下回るケースが多いのです。
生活保護制度は、障害年金など他の制度を活用してもなお生活が困窮する場合に、その不足分を補うという役割を持っています(補足性の原理)。つまり、障害年金と生活保護は、対立するものではなく併用できるものなのです。
むしろ、先に生活保護を申請することで、ケースワーカーが連携し、公費で専門家(社会保険労務士など)のサポートを受けながら障害年金の手続きを進められるメリットもあります。
「生活保護を安易に勧めたくない」という想いが、結果として、若者をより低い生活水準に留め、利用できたはずの公的サポート(専門家による申請支援など)から遠ざけてしまうことがあります。
第二に、私たちの心に潜む「偏見」「スティグマ(負の烙印)」の問題です。こちらが、より本質的かつ根深い課題かもしれません。「努力をしない、頑張らない人のためのもの」「一度頼ったら抜け出せない」という生活保護制度への偏見が、多くの人の中に深く根付いています。
しかし、その認識は、制度の本来の目的とは大きくズレています。
誇りを持って生きるための制度
生活保護法1条には、最低限の生活を保障するだけでなく、その「自立を助長すること」が目的であると、はっきり書かれています。セーフティーネットは、比喩を用いて言えば、足腰の骨を骨折して治療し、再び歩き出すまでの間のリハビリに使う松葉杖と同じくらい必要不可欠なものです。
それなのに、正しい情報が得られず選択肢が与えられない上に、社会に蔓延する「頼ってはいけない」という無言の圧力が加わると、人を孤立させ、追い詰めるという、誰も得をしない最悪の効果をもたらします。
支援者の「若者に誇りを持って生きてほしい」という願いを真に実現するには、若者自身が未来を選び取れるよう、前提としてすべての選択肢を正確に伝えることが欠かせません。
この視点は、心身に困難を抱える子どもたちを前にした時、より一層重要性を増します。現に、私が取材した神戸市内の施設では、子どもたちの約3分の1が療育手帳を持っており、複雑な困難に直面していました。
加えて、施設などを退所した⼈への公的⽀援は、原則として22歳の年度末までで終了するという厳しい現状があります(※)。
※ただし、2024年4月施行の改正児童福祉法により、都道府県知事が必要と認めれば、22歳を超えても支援を継続できるほか、一部の自立支援事業では年齢制限がなくなっています。
だからこそ、彼らが利用しうるセーフティーネットのすべてを、最初から等しく選択肢として提示しなければならないのです。特に生活保護を利用することについては、社会に蔓延する偏見を取り除く必要があります。
AI時代だからこそセーフティーネットの役割が増大
偏見やスティグマの問題を考える上で、「AI時代」という視点は欠かせません。海外の巨大テック企業では、AIの進化を背景に、これまで「安泰」とされてきた高度な専門職でさえ、リストラが相次いでいます。この大きな変化の時代を生き抜くために必要とされるのは、AIにない、人間にしか備わっていない性向だと考えられます。たとえば、変化に適応する能力、新しいことを学び続ける姿勢、身体感覚、対人スキルなどです。
AIは、膨大なデータを処理し、瞬時になんらかの「答え」を提示します。しかし、その答えが正しいとは限りません。
だからこそ私たちは、上述した人間ならではの特性を、よりブラッシュアップしていく必要に迫られています。
ただし、人にはそれぞれ、特性や向き不向きがあります。加えて、いわゆる「失敗」や「つまずき」のリスクもこれまで以上に増大することが想定されます。
したがって、公的支援のこれからの役割は、若者一人ひとりが、自らの特性に合った「武器」を身につけられるよう、あらゆる選択肢を提示することにならざるを得ません。
大学進学、専門学校での職業訓練、現場での実務経験…。いずれの選択肢も、本人が希望するならば等しく尊重されなければなりません。
その土台となる生活を安定させるために生活保護を受けることは、「甘え」などでは断じてありません。未来が予測困難な時代だからこそ、若者が何度でも挑戦し、社会の担い手として自立するための、最も戦略的な「社会投資」なのです。
すべての若者に、すべての選択肢を
本来、若者の前には、実に多様な選択肢の数々が広がっています。どんな境遇に生まれ育っても、自らの手で未来を掴むための道が整備されています。大学や専門学校で知識を深める道については、かつて経済的な理由で諦める人が多かったのですが、今日ではずいぶんと制度が整えられてきています。
まず、生活保護世帯の子どもが大学進学を目指す場合、「世帯分離」という特別な仕組みがあります。これは、学生本人が一時的に保護の対象から外れ、奨学金や学費免除等を受け、働いて収入を得るなどして学校に通うことで、残された家族が生活保護を受け続けられる制度です。
これに対し、身寄りがない若者の船出は、学ぶ以前にまず、生活の土台が整えられる必要があります。そこで、生活保護が活用されることになります。
アパートを借りる際、必要に応じ、敷金・礼金などの初期費用は生活保護の「住宅扶助」から支給され(※)、布団や調理器具など最低限の被服費、家具什器費は「一時扶助」から支給されます。
※安定した住居のない要保護者が居宅生活できると認められた場合、住宅確保に必要な敷金等は、「家賃の限度額×3」の範囲内で支給が可能
次に、施設を退所して大学などに進学する場合、国や自治体等から、返済不要の支援金としてまとまった金額の「進学・就職準備給付金」が支給されます。
これと、国の高等教育無償化制度や民間の財団による支援などを組み合わせることで、借金を背負うことなく大学を卒業することも十分に可能なのです。
また、夜間大学(夜間大学、通信教育、一定の専修学校・各種学校等)であれば、生活保護を受けながらの就学も認められることがあります。
一方で、大学等へ進学せず、社会で生き抜くための実践的な技術を身につけたいと願うなら、職業訓練校の費用などが生活保護の「生業扶助」からまかなわれます。
「生業扶助」のうち「技能修得費」は、技能修得の期間が原則1年以内(世帯の自立更生上特に効果があると認められる場合は2年以内)であり、生計の維持に役立つ生業につくために必要な技能修得を目的とする場合に支給されます。
ただし、専門学校等に就学する場合は、原則として生業扶助の給付対象とはなりません(※)。
また、生活保護を受けながら就職し、収入が安定したことなどにより保護を必要としなくなった時には、「就労自立給付金」が支給されます。
正しい情報が、それを必要とする人に届くようにするために
ここまで述べてきたことは、必要な情報の一部に過ぎません。生活保護、障害年金、各種給付金、貸付制度、就労支援…。存在する全てのツールを、偏見なく、正確な情報として若者の前に提示することが重要です。そのためには、冒頭で紹介した児童養護施設の施設長が指摘されたように、「本当に必要な、正しい情報が、必要としている人に届くようなマッチングのシステム」が不可欠です。
ところが、制度は存在するのに、その情報が当事者である若者や、彼らを支える現場の職員にすら、正確に行き届いていない現状があります。
だからこそ私たちは、福祉事務所が一人ひとりの状況に合わせた支援計画を立て、本人に丁寧に説明し、納得を得ながら伴走する責務を負っていることを、社会としてもっと強く求めていくべきです。
支援は「組織としての判断」で行われるべきであり、たまたま担当した職員個人の知識や価値観に左右されることがあってはなりません。
真の支援とは、管理し、誘導することではありません。全ての選択肢をテーブルの上に広げ、若者が自らの意思で選んで進むことができるようサポートすることです。
生活保護を利用することは恥ずかしいことでも、人間の尊厳を捨てることでもありません。
この命綱の存在を隠したり、使うことに罪悪感を抱かせたりする社会は、あまりにも冷たく、そして脆弱だと言えます。
もし、ご自身が今、苦しい状況の中にいる当事者なら、どうか知ってください。あなたには、利用できる全ての制度を使い、自分にとって最善の道を選ぶ権利があります。ためらわずに、助けを求めてください。あなたの前には、ただ生き抜くだけでなく、あなたらしく輝くための、無限の未来が広がっています。
■三木ひとみ
行政書士(行政書士法人ひとみ綜合法務事務所)。官公庁に提出した書類に係る許認可等に関する不服申立ての手続について代理権を持つ「特定行政書士」として、これまでに全国で1万件を超える生活保護申請サポートを行う。著書に『わたし生活保護を受けられますか(2024年改訂版)』(ペンコム)がある。

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