10月8日、欧州議会が食品業界に大きな波紋を広げる決議を行った。植物由来の代替食品に対して「バーガー」「ステーキ」「ソーセージ」といった動物性食品の名称使用を禁止する提案が、355対247の賛成多数で可決されたのだ。

この動きの背景にあるのは、植物性食品の表示が消費者の誤解を招くこと、その結果として畜産業者の利益が脅かされる懸念だ。急成長するプラントベース食品市場に対し、伝統的畜産業界は「本物と偽物の境界が曖昧になる」と危機感を募らせてきた。
実際、BBCの報道によると欧州議会内の保守系会派EPP所属のイマール氏は、植物由来製品を従来通りの肉の表示で販売することは「消費者にとって誤解を招く」と述べたという。
法案が最終的に欧州委員会およびEU加盟国の承認を得て成立すれば、「バーガー」「ステーキ」「ソーセージ」といった表現に変わる名称を使用しなければならなくなる。
では、日本においてはどうなのか。植物由来代替食品の表示について、景品表示法の観点から問題となり得るポイントを、景品表示法に詳しい宮寺翔人弁護士に聞いた。

景品表示法が守る「消費者の適正な商品選択」

景品表示法の意義について、宮寺弁護士はこう説明する。
「商品や役務の内容等について事業者と消費者との間で情報や知識に格差があるため、事業者による表示を参考に商品や役務を選択する消費者が、適正な商品選択を行うことができるよう、適正な表示を確保することにあります」
景品表示法の規制内容は大きく3つに分かれる。①優良誤認表示、②有利誤認表示、③優良誤認表示と有利誤認表示を除いた指定告示にかかる不当表示だ。
このうち「優良誤認表示」とは、事業者が自己の供給する商品・サービスの取引において、その品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、または事実に相違して競争関係にある事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示を指す。
景品表示法が定める不当表示規制に違反した場合、不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる措置命令及び課徴金納付命令といった行政処分が科される可能性がある。

「○○ミート」「○○ミルク」はどこまでOK？

では、日本における植物由来代替食品の表示において、どのような点に注意が必要なのか。
消費者庁が公開している「プラントベース食品等の表示に関するQ&A」によれば、植物由来の原料から作られた代替肉は食肉ではないため、食肉と誤認する表示になっていなければ景品表示法上問題にはならない。
しかし、宮寺弁護士は注意点を指摘する。

「日本における植物由来代替食品の表示においては、消費者が『肉製品』や『乳製品』でないのにそれらの製品と誤認しないように気を付ける必要があります」
具体的には、実際には使用していない「肉製品」や「乳製品」の原材料を写真、イラストで商品のパッケージに掲載することは避けるべきだという。
また、商品のパッケージに「○○ミート」や「○○ミルク」といった商品名を記載する場合には、別に原材料に肉や乳製品を使っていない旨表示するなどして、消費者がパッケージ全体から「肉製品」や「乳製品」の製品であるかのように誤認しないようにすべきと宮寺弁護士は指摘する。
消費者庁のQ&Aでは、「大豆ミート」と表示し「100％植物性」と併記する場合でも、食品添加物の香料が植物由来でない場合、一般消費者が誤認する可能性があると指摘している。
そのため、「原材料の一部に動物由来のものがあります」などと表示し、消費者が表示全体から誤認しないようにする必要がある。
店内・店頭のメニュー上の表示、陳列物、説明も景品表示法の表示に該当し、規制対象となることにも注意が必要だ。

これからの“食の選び方”は…？

代替食品の表示問題が世界的にクローズアップされるようになった背景には、単なる食品表示ルールの問題だけではない、より大きな社会構造の変化がある。
植物をベースにした代替食品市場は、この数年で成長を遂げており、株式会社富士経済の調査によると、2030年の代替タンパク食品市場は2024年比18.9%増の1473億円が予測されている。
しかし、市場が拡大し、商品が多様化する一方で、消費者の知識や理解が追いついていないという現実もある。
「代替食品」という新しいカテゴリーが社会に浸透していく過渡期だからこそ、事業者はより一層、誠実で分かりやすい表示を心がける必要がある。
そして私たち消費者もまた、商品のパッケージに書かれた情報を鵜呑みにするのではなく、「これは何からできているのか」「自分や家族が本当に食べたいものは何か」を注意深く見極めるリテラシーが求められているのではないだろうか。
EUの決議は、食品表示のあり方と、これからの時代の“食の選び方”を、私たちひとりひとりに問いかけているのだ。


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