2011年の東日本大震災および原発事故で全町避難の対象となった「福島県浪江町」。
この浪江町で昔から親しまれてきたご当地グルメ「なみえ焼そば」の商標管理をめぐって、インターネット上で議論が活発化した。

2017年に「地域団体商標」登録

町の商工会が「なみえ焼そば」を地域団体商標として登録したのは2017年3月だった。
地域団体商標とは、地域ブランド振興を目的に2006年に創設された制度だ。
通常、「地域名+商品(サービス)名」の組み合わせからなる文字商標は、「全国的に周知」されていなければ登録することができない(商標法3条1項3号)。
しかし、この地域団体商標制度では、地域の名称と商品(サービス)に関連性があり、一定の地理的範囲で、ある程度有名であれば、地域に根ざした団体による出願が可能となっている。
「なみえ焼そば」に関しても、これまでは他の地域団体商標と同様、問題なく運用されていた。しかし、今年4月から町内の会社が業務委託を受けて商標管理を行うようになり、今年10月からは、なみえ焼そばを提供する飲食店や製麺所等から1社3000円の登録料とロイヤリティー(売り上げの2.5%)を徴収している。

SNSで拡散、きっかけは貼り紙

このことがSNSで大きく拡散されたのは、10月後半。
Xユーザーが福島県二本松市にある「なみえ焼そば」を提供していた「杉乃家」に掲示されていた、「なみえ焼そば」の名称を使えなくなった旨の貼り紙をシェアしたのがきっかけだった。
二本松駅前の杉乃家さん、ほんとに「浪江焼きそば」の名称使えなくなってたのね

もっと何とかできなかったのかねぇ pic.twitter.com/DrFWzWumUS
こいつ (@UAIjodYKr1coR6c) October 20, 2025
杉乃家は、もともと浪江町で営業していたが、全町避難での避難先だった二本松市に移転し営業を続けていた。
報道等によると、同店には今年5月、突然商標管理を委託された会社から「『なみえ焼そば』商標権使用許諾及びロイヤリティー徴収のご案内」が届いた。悩んだが、応じない代わりに、メニュー名を「杉乃屋の焼そば」に変更して提供を続けることにしたという。
こうした経緯が明らかになると、SNSでは「昔からその名称を使っている老舗からもロイヤリティーを取るのはえぐい」「ロイヤリティーが高すぎるのでは」と疑問の声が多く上がった。
実際に、地域団体商標には、出願される前から不正競争の目的なくその名称を使用していた人には、地域団体商標の権利が及ばない「先使用権」がある(商標法32条の21項)。
それでもなぜ、商工会や委託を受けた会社は「ロイヤリティー徴収」に動いたのか。

商工会の立場:ロイヤリティ徴収方針や経緯

商工会は、弁護士JPニュース編集部の取材に文面で以下のように回答した。
「東日本大震災の被災前より、当商工会青年部を中心に、『なみえ焼そば』を活用したまちおこし活動に取り組んでまいりました。
『なみえ焼そば』は、B-1グランプリへの出場を契機として全国的に広く認知されるようになり、その後、規格の統一と品質の維持を目的として、地域団体商標として登録いたしました。
現在も青年部の主要事業として、各種イベントへの出店をはじめ、『焼そばマップ』の作成、『焼そばサミット』の開催、小学校での『焼そば授業』の実施など、多方面から『なみえ焼そば』の普及活動に取り組んでおります。
特に『焼そばマップ』は、『なみえ焼そば』提供店を掲載した観光マップとして、地域内外の皆さまにご活用いただいており、普及促進や販売拡大に大きく寄与しております。
これらの活動費用につきましては、青年部の部費に加え、各種補助金、企業協賛、クラウドファンディング等、毎回、大変苦労しながら資金調達を行ってまいりました。
今後も青年部事業として持続的に活動を展開していくため、本年10月より、『なみえ焼そば』の販売事業者および提供飲食店の皆さまに対し協賛をお願いすることといたしました。
一部の事業者の中には、これを機に名称の使用を控えられた方もおり、今後も引き続き関係事業者の皆様に今回協賛をお願いした経緯と趣旨をご説明させていだきたいと考えております。
私たちは『なみえ焼そば』を通じた地域活性化と、東日本大震災からの復興の象徴として、関係事業者の皆さまとともに、より良い協力関係を築きながら活動を継続してまいります。
なお、この件に関しまして、当商工会ホームページにて近日中に経緯説明させていただく予定としております」(編集部注:11月19日現在、浪江町商工会のHP上に〈地域団体商標「なみえ焼そば」に関する報道について〉というPDFファイルが掲載されている)

杉乃家「今後の普及は浪江の人たちに任せたい」

ロイヤリティー徴収に応じず名称変更を余儀なくされた杉乃家にも、騒動後、商工会から連絡があったという。
杉乃家の店主は「商工会からは、騒動について謝罪をしてもらいました。それを受け止め、私たちも貼り紙などの掲示をやめました」と説明。
「また商工会からは、『なみえ焼そば』の名称を再び使ってくれとも言ってもらいましたが、一度取り下げたものなので、やはりこれからは『杉乃家の焼そば』として提供していくことに決めました。
そのことも商工会の方にはお話ししました。謝ってもらったことなので、もうこれ以上騒動には言及しません」
そう語った後、「なみえ焼そばの普及は浪江の人たちに任せたいと思います」と穏やかな声で付け加えた。
原発事故前、約2万1500人いた浪江町の居住人口は、現在約2400人にまで減った。かつての中心街「新町商店街」は閉鎖を決め、今月除幕式が行われた。
「なみえ焼そば」は、“復興のシンボル”として、今後も地域を盛り上げることができるのか。騒動を経たこれからの浪江町の歩みに注目したい。


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