12月3日、愛知県豊田市の元市職員で、在職中に探偵業を「副業」として行っていた男性が、地方公務員法違反(守秘義務)容疑で愛知県警に逮捕された。
報道によれば、男性は市役所での勤務中、業務用端末を使って市民の個人情報を数十人分にわたり不正に照会・取得し、探偵業の顧客約70人に提供していたとされる。
こうした情報提供による売り上げは3000万円以上とみられている。

個人情報保護違反で損害賠償を請求することは可能?

男性の行為により数十人の市民が不正に個人情報を取得されてしまったが、この「損害」について、賠償を請求することはできるのだろうか。
民法に詳しい杉山大介弁護士によると、原則として、個人情報が不法に用いられた場合には損害賠償を請求することは可能だという。具体的には、「精神的な苦痛」に対する賠償である慰謝料(民法710条)を請求することができる。
ただし、その金額は低い。氏名や住所、電話番号やメールアドレスなどの一般的な個人情報(単純情報)の場合には一人当たり数千円が相場だ。ただし、病歴が間接的に明らかになる通院歴といったセンシティブな情報が含まれる場合には、1万円を超えることもあるという。
いずれにせよ、数十万円といった損害賠償が当然に認められるわけではない。慰謝料はあくまで「被害者の受けた精神的苦痛」に対する賠償金であるため、その個人情報を利用した相手(加害者)がどれだけの利益を得ていても、損害賠償の金額には直結しないのだ。
また、通常、地方公務員の職務上の行為については、国家賠償法に基づき地方公共団体が賠償することになっている。
今回のケースにおいては、男性が「副業」として行っていた探偵業自体は、市職員としての職務上の行為ではない。
「しかし、情報を照会するなどの行為は公務員の職務権限を用いて行っているようにも見えるため、微妙な論点を生みそうに思います。
この点については、当事者が誰に損害を賠償してもらいたいかによって、組み立てる論理構成が変わるでしょう。
個人情報関係は、法はあれども、それを執行するのが難しい類型の一つです。今回、刑事事件となっているのも『公務員としての守秘義務(地方公務員法)』に違反したことが理由であり、個人情報を不正に取得したことそのものではありません」(杉山弁護士)
なお、刑事事件では、犯罪に関連する物の所有権を奪って国庫に帰属させる刑罰として「没収」が科される場合がある(刑法19条に定められた付加刑)。今回の事例において、市職員の男性が得た3000万円も、没収の対象となるのだろうか。
「理論上は犯罪行為によって生じた利益として没収の対象となるように思われます。しかし、3000万円の全てが『個人情報の提供』だけで得たものとは限らないため、仮に没収を科されるとしても、全額没収という話にはならないかもしれません」(杉山弁護士)


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