「黒字リストラ時代」2026年に加速? 退職か残留か…“50代社員”が取るべき「選択と戦略」は
2026年が幕を開けた。今年はどんな1年になるのか…。
もはや、そうしたぼんやり、のんびりしたムードではいられないのかもしれない。特に50代会社員は。
2025年に吹き荒れた「黒字リストラ」の嵐。これは一過性のモノでなく、今後も続くとみられている。その性質が、経営難によるクビきりでなく、今後を見据え、会社が生き残るための構造改革の意味合いが強いからだ。
東京商工リサーチの集計によると、2025年9月末までに早期退職や希望退職を募った上場企業の募集人数は1万人を超え、2024年の総数を上回った。

2025年の主なリストラ

この動きが従来のリストラと一線を画すのは、多くの企業が業績好調の中で人員削減に踏み切っている点だ。2025年に希望退職を実施した企業のうち、6割超が直近の通期最終損益で黒字だったことが判明している。
なかには、三菱電機のように最高益を記録しながら希望退職を募集する例もある。パナソニックホールディングス(HD)は、国内社員の半数が50代以上といういびつな年齢構成を解消し、「定年ラッシュ」への対策として大規模な人員削減を断行した。

業績好調でも人員削減1万人超え、50代襲う「組織再構築」の不合理

企業側は名目として、「構造改革」や「中長期的な競争力強化」を掲げるが、その矛先が向かうのは、主に50代以上の管理職年代だ。
長年、日本の大手企業がジョブローテーションで育成してきた彼らは「ゼネラリスト」と呼ばれてきた。特定の領域に特化せず、幅広い業務に対応する。
それが、終身雇用・年功序列がベースの昭和から平成にかけての会社組織上、都合がよかったからだ。
ところがいまやそうした人材の市場価値は暴落。転職市場で年収を半減させてさえも再就職が困難なケースが多いという現実が露呈している。
会社の都合で育成されたオールマイティ人材。当人には非がないからこそ、会社側も冷徹にクビを切れない。せめて業績が安定しているうちに、退職金を積み増しし、希望を聞いたうえで最低限の恩義をかぶせて去ってもらう。それが、定年を前に、50代社員と縁を切る「黒字リストラ」の真実だ。
整理解雇とは異なり、あくまでも社員の意思を尊重しており、拒否権はある。だが、希望退職を実施した多くの企業では、多数が退職に手を挙げている。会社に残った場合のよりよい未来を描きづらい社員が少なくないのだろう。

「負の遺産」としての日本型雇用と、企業責任の終焉

人事コンサルタントの新井健一氏は、こうした厳しい現実の背景に、終身雇用や年功序列といった「日本流雇用慣行」が、50代社員の市場価値を担保できない「負の遺産」を生み出した可能性があると指摘する。
「かつて企業は強力な人事権を持ち、ジョブローテーションを通じて人材を育成してきました。しかし、VUCA(※)の時代に入り、企業人事は社員のキャリアに対する手綱を放棄しつつあります。

その結果、50代社員が負の遺産となるか、引き続き戦力として残れるのかは、企業の人事ではなく、他ならぬ自分で考えなければならなくなりました。企業側が負うべき責任としては、せいぜい退職金の増額や転職先のあっせんといった形式的な措置にとどまるでしょう」
※Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、現代のビジネスや社会が予測困難で不安定な状況にあることを指す。
冷たいようだが、それが現実だ。逆にいえば、忍び寄る昭和・平成型組織体制の危機に気づかず、生ぬるい会社の状況にあぐらをかき続けていたのだとすれば、半分は自己責任ともいえるのかもしれない。

AI時代における「エクセルの達人」の末路と習得すべき専門性

人手は不足ぎみながら、人員を削減する背景には、トランプ関税などの事業環境の変化に加え、人工知能(AI)時代の到来を見据えた構造改革もある。
AIは書類作成やデータ入力などのルーティン業務を代替し始めており、今後、この傾向はさらに加速することは避けられない。社内で頼りにされていた「エクセルの達人」のようなスキルを持つ50代社員は、もはや風前の灯火といえ、職務消失のリスクに直面していることを自覚すべきだろう。
「彼らは本当に社内で頼りにされていたのでしょうか? むしろ本来の役割に対して任せる仕事が少なかったために消去法的に『エクセルの達人』になってしまったのではないでしょうか?」。新井氏は厳しく問いかける。
そのうえで新井氏は、「この構造的危機を乗り切るため、50代社員が急いで身につけるべきは、『AIに振り回されない、AIを使いこなす専門性』です」と忠告する。

退職組は「生き方」の設計、残留組は「企業収益」の理解

こうした状況を踏まえ、身の振り方を考えあぐねている50代社員に対し、新井氏は「退職」または「残留」という決断別に、それぞれのケースで取るべき戦略を次のようにアドバイスする。
(1)退職を選択する場合
「現在の50代には、バブル崩壊後の就職難や年功序列の崩壊など、社会構造の変化に次々と直面してきた『就職氷河期世代』が含まれています。彼らは『課題先取り世代』としての経験を持っており、これは、雇用流動化の加速やAI失業という『次の危機』への備えとなり得ます。

退職を決断するなら、次の行動をとってみてください。
『人生100年時代、自分がどう生きていきたいか』。それを一度とことん考え抜いてみる。自分らしいキャリアの設計はそこからはじまります。
まずは、自分の内面に深く向き合い、『きみの人生に作戦名を』付けるような、根本的な生き方の設計を行うことが、市場価値が厳しい転職活動を成功させるための最初の決断となります」
(2)残留を選択する場合
「早期退職の波を免れ、会社に残った50代社員には、若手との共存と、『業績に貢献しない窓際社員』と見なされないための徹底した意識と行動の変革が求められます。
人件費削減や定年ラッシュ対策(パナソニックHDのように国内社員の半数が50代以上という企業もある)の波を乗り越えて残留した以上、もはや曖昧な立場は許されません。企業は、収益に貢献しない人材を抱える余裕は持てなくなっています。
組織全体の収益に直結する専門性を発揮し続けるための具体的な行動戦略は、シンプルに『上位方針とその背景を完璧に理解できていること』。その第一歩としてやるべきは、自社の過年度から現在にいたる有価証券報告書を熟読することです」
2026年は、日本の雇用慣行の限界がいよいよ鮮明になり、個人にキャリア設計の責任が大幅に移譲される時代の本格スタートとなる。
厳しい現実に目を向けつつも、自分自身の人生の「作戦名」を明確にし、能動的に企業内外で価値を発揮する。その覚悟を持ち、行動することが、50代社員が新年から前向きに仕事に向き合うための望ましい戦略となる。
<新井健一(あらい・けんいち)>
経営コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役。
1972年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大手重機械メーカー人事部、アーサーアンダーセン(現KPMG)、ビジネススクールの責任者・専任講師を経て独立。人事分野において、経営戦略から経営管理、人事制度から社員の能力開発/行動変容に至るまでを一貫してデザインすることのできる専門家。著書に『働かない技術』『いらない課長、すごい課長』(日経BP 日本経済新聞出版)『事業部長になるための「経営の基礎」』(生産性出版)など。


編集部おすすめ