泥酔してホームから転落した男性と、この男性を助けようとした日本人カメラマンと韓国人留学生が、山手線の列車にはねられ3人全員が死亡したという痛ましい事故であった。
事故を受け国土交通省は、列車速度が速くかつ運行本数の多いホームについて、列車非常停止装置や転落検知マットの設置、ホーム下に待避スペースを確保するよう指導するなど、ホーム安全対策への関心が高まった。
その後、山手線では2010年からホームドアの設置が始まり、新大久保駅でも2013年9月に使用が開始されたが、ホームドア整備への社会的要請が高まるきっかけのひとつだったとも言えるだろう。
だが本事故で、それ以上に問題視されたのが酔客の存在だった――。(鉄道ライター・枝久保達也)
ホームでの「酒類販売中止」求める運動も
そもそも泥酔してホームから転落した人がいなければ事故は起こらなかった。鉄道事業者は酔客への対応、対策を強化すべきだとの声があがったのである。その筆頭がアルコールをはじめとする依存症問題に取り組む特定非営利活動法人「日本アルコール問題連絡協議会」だった。
協議会は事故直後の2001年2月8日、日本アルコール関連問題学会、主婦連合会と連名で「通勤線駅構内での酒類販売中止を求める要望書」を国交省とJR6社に提出した。
要望書は「(報道によれば)今回酔って線路に落ちた男性は、飲酒しての帰路に新大久保駅構内の売店で酒を買い、ホームで飲んでいた」とした上で、多くの駅では「ホームや構内の売店で酒が売られており、その周辺で立ち飲みをしたり、床に座って酒盛りをしている人」がいると指摘した。
そして「ホームでの人身事故の7割弱が酔客」であり、「酔客が増えれば事故の可能性が高まることは明らか」として、「通勤線の駅構内での酒類販売を中止すること」「ホームでの飲酒を禁じること」「転落等の事故の危険性を訴えるなどとして、酔客を減らす積極的な努力をすること」の3点を求めた。
これに対し、JR東日本は同年2月、各方面からの指摘をふまえ山手線・中央線・総武線ホームの売店で酒類販売を自粛。しかし、販売を要望する声を多数受けたとして、2003年2月に再開した。
同社は「年齢確認等、未成年者への販売防止について徹底するとともに、お客さまのご様子等に十分配慮して販売するよう店舗指導を行ったうえで、鉄道を利用されるお客さまのニーズを勘案し販売しております」と説明する。
では、酔客のホーム転落事故はその後、減ったのか。
JR東日本は事故当時、発生する事故の約7割が酔客によるものと回答していた。これに対し、現在は首都圏で発生した鉄道人身傷害事故の約3割だという。
この「鉄道人身傷害事故」とは、ホームからの転落、ホーム上での接触、ドア挟み、引きずり、線路立ち入りなど、列車事故や自殺を除く「列車又は車両の運転により人の死傷を生じた事故」一般を指すため、これだけでは、酔客によるホーム転落事故が、当時と比べどの程度減ったかは明らかではない。
「接触事故」が増加…ナゼ?
JR東日本は人身傷害事故件数の推移を公開しているが、その内訳は示されていない。そこで、国交省の「鉄軌道及び索道輸送の安全に関わる情報」を参考に読み解いてみよう。報告書によれば、2024年度に関東1都6県と山梨県で発生した人身傷害事故は154件だ。過去20年の総件数の推移を見ると、2004年度から2014年度まで増加してから減少に転じ、コロナ後に再び増加している(ちなみにこの傾向はJR東日本の公表データと一致する)。
国交省資料より筆者作成
人身傷害事故の内訳をみるとホーム上の接触事故が最も多く、2004年度から2014年度の10年間で件数は3倍以上に増えたが、コロナ禍の行動制限で鉄道利用者が激減した2020~2021年度は大幅に減少し、2022年度以降もコロナ前を下回る水準で推移している。
首都圏の輸送人員は2000年代以降、都心回帰の影響で1割以上増加しており、ホーム上の混雑が接触事故の増加につながった可能性がある。輸送人員は2014年度以降も増加したが、同時期に地下鉄でホームドア整備が本格化し、JR、大手私鉄でも設置が始まったことが発生件数の減少に影響していると考えられる。
転落事故は2005年度から2014年度まで概ね30~40件の範囲で推移していたが、以降は30件を下回り、近年は20件以下まで減少している。割合は2005年度の30%から2015年度の12%へ、2016年度に増加したが再び減少に転じた。2000年代以降の転落対策は功を奏したと評価できる。
ではそのうち酔客に起因するものはどれくらいだったのか。国交省の報告書は人身傷害事故全体に占める酔客の割合も示しているので見てみると、2010年度の61%をピークに2019年度は44%まで右肩下がりで減少。コロナ禍で飲酒機会が激減した2021年度は19%まで減少している。
社会経済活動の正常化とともに件数はやや増加したが、コロナ禍を経て「宅飲み」の習慣化、職場飲み会の減少、「若者のアルコール離れ」など、外出先での飲酒頻度が減少した結果、2024年度は23%にとどまっており、コロナ前より大幅に低い数字を保っている。この傾向は今後も変わらないだろう。
「ホーム転落」酔客の割合減らず…
とはいえ酔客が危険なのは変わらない。報告書は「人身傷害事故に至らなかったホームからの転落」の総件数(全国)と内訳を示しているが、酔客の割合は一貫して5割強である。
国交省「鉄軌道輸送の安全に関わる情報(令和6年)」より引用
つまりホームドア設置駅では物理的に落ちなくなったが、それ以外の駅ではこれまでと同じ割合で酔客のホームへの転落が発生していると推察される。
今回、日本アルコール問題連絡協議会に現状認識と今後の取り組みについて取材を申し込んだが、回答は得られなかった。
ただ2024年5月に京急電鉄とサントリーが京急蒲田駅で実施したコラボイベント「京急蒲タコハイ駅」に対し、「駅は不特定多数が利用する極めて公共性が強い場」としてイベントの中止を申し入れるなど、駅構内での飲酒について警鐘を鳴らし続けている。
一方の鉄道事業者にも問題意識がないわけではない。
JR東日本と関東私鉄各社は合同で、飲酒機会が増加する年末年始に「プラットホーム事故0(ゼロ)運動」を展開し、飲酒は事故につながりやすいと注意喚起している。
中長距離の鉄道移動には依然として酒類のニーズが高く、駅構内飲食店も利益率向上に酒類販売が欠かせないのも現実だ。そもそも駅・車内だけで泥酔する人は稀で、酔客による事故も多くは鉄道利用前の飲酒が主要因だろう。鉄道側だけでは問題は解決できない。
その意味でホームドアの整備拡大に加え、コロナ禍を機に日本の飲酒文化に変化が見られたことは、今後の酔客に起因する事故防止に大きな影響を与えるかもしれない。
■枝久保達也
1982年、埼玉県生まれ。東京メトロで広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして活動する傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心に鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。近著に『JR東日本 脱・鉄道の成長戦略』(2024年 KAWADE夢新書)。

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