「吉村前知事は弁護士なのに法律を理解していない」大阪ダブル選の“法的問題点”を地方自治法の専門家が指摘
日本維新の会代表を務める大阪府の吉村洋文前知事と、大阪市の横山英幸前市長が、いずれも任期途中で辞職したうえで、出直し選挙に出馬している。投開票は衆議院の解散に伴う総選挙と同じ2月8日(日)に行われる。
なお、当選者の任期は1年3か月となる。
いわゆる「大阪都構想」への3度目の挑戦を掲げての「大阪ダブル選」だが、識者や一般市民等からの批判がみられるのみならず、「身内」である日本維新の会の国会議員からも反対ないしは疑問の声が上がり、大阪維新の会の大阪市議団も全会一致で批判的な決議を行うなど、波紋が広がっている。
今回の大阪ダブル選の「法的問題点」はどこにあるのか。元総務省自治行政局行政課長で弁護士でもある神奈川大学法学部・幸田雅治教授(地方自治法)に聞いた。

「都構想実現のため制定された法律」を無視している

まず、幸田教授は、今回の「大阪ダブル選」は、大阪都構想を実現するための事実上の法的根拠である「大都市地域特別区設置法」を無視するものだと指摘する。
同法は、大都市地域において、特別区を設けるための手続、特別区と道府県の事務の分担、税源の配分等について定めることにより、「地域の実情に応じた大都市制度の特例を設けること」を目的としている。いわば「大阪都構想を実現するため、必要な手続きを定めた法律」である。
同法は、大阪府知事(2008年~2011年)・大阪市長(2011年~2015年)を務めた橋下徹氏が大阪都構想を提唱し、同構想の機運が高まった影響を受け、国会で審議・議決を経て制定され、2012年9月に公布・施行された。過去2回(2015年と2020年)の大阪都構想の住民投票は、この法律に定められた手続きに基づいて行われている。
幸田教授は、この法律のしくみに照らし、都構想の内容を詳細まで定めた「特別区設置協定書」が作成・提示されない限り、住民投票を行うそもそもの前提を欠いていると説明する。
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神奈川大学法学部 幸田雅治教授

幸田教授:「大都市地域特別区設置法の特色は、制度設計の自由度にあります。大阪圏の地域事情を踏まえた『オーダーメイドの都区制度』を設計できるのです。
『大阪都』と『特別区』にそれぞれどのような権限を配分するかを検討するとともに、事柄によっては国の権限を『大阪都』に与えることも可能となっています。

そのような重大な事項を決めるものなので、手続きとして、住民投票を行う前に、具体的な制度設計の案を各自治体の議会で審議して決定し、住民に提示するプロセスを踏まなければならないのです。
具体的には、各市と都道府県の議会議決に基づき『特別区設置協議会』を設置し、そこで審議を行って『特別区設置協定書』を作成し、各自治体の議会の審議・承認を得た上で、住民投票にかけるというものです(【図表】参照)。
つまり、住民投票の対象となる制度設計を提示することなく、議会を無視して、首長だけが選挙で信を問うということ自体が、法理論的に成り立ち得ません。吉村氏は法律の専門家である弁護士のはずなのに、大都市地域特別区設置法の制度の内容を全く理解していないといわざるを得ません」
「吉村前知事は弁護士なのに法律を理解していない」大阪ダブル選の“法的問題点”を地方自治法の専門家が指摘

【図表】大都市地域特別区設置法のしくみ(総務省HPより)

なお、吉村氏は21日の知事定例記者会見で、「衆院選と同時に実施することで12億円のコストを削減できる」「国レベルの選挙があって副首都の議論が深まる。それに合わせ設計図を作る必要がある」と述べている。
これに対し幸田教授は「上述した法のしくみを前提とすれば、そもそも『設計図』なくしては、『議論』自体が成り立ち得ず、ダブル選を正当化する理由になり得ません。したがって、コスト削減どころか、膨大なコストを浪費していることになります」と指摘する。

「再挑戦すること自体に民意を問う」は「理由にならない」

なお、この点については、「都構想自体ではなく、もう一度住民投票を行うこと自体について民意を問う」との反論が容易に想定される。しかし、幸田教授は「詭弁であり、理由になっていない」と述べる。
幸田教授:「吉村氏は22日の演説の際に『大阪をよくしたい思いで、審判を仰ぐ決断をしました。都構想への挑戦の第一歩を踏み出させてください』と述べています。明確に、都構想自体に対する賛否を先取りする意図を持った発言です。
実際上も『住民投票を行うことの賛否』は、本来あってはならない『大阪都構想の賛否』に無理やり繋げようとするもので、理屈の通らない不当な選挙と言わざるを得ません。

また、そもそも、住民投票の対象となる内容が審議もされず、提示もされていない以上、住民投票の実施自体の是非を問うことも、論理的に不可能です。
大都市地域特別区設置法の趣旨からも、地方公共団体の意思決定を議事機関である議会に委ねた憲法・地方自治法の趣旨からも、討議を通じてより良い選択を行うという議会制民主主義の見地からも、議会での審議は不可欠です。民意を問う前に、まずは議会で制度設計についての議論を行い、提示するのが筋です」
そして、「都構想」が過去2回、住民投票で否決された経緯も軽視すべきではないという。
幸田教授:「過去2回も『ダメ出し』されているならば、なおさら、今回は前回と何がどう違うのかなどの内容が煮詰められている必要があります。
ところが、吉村前知事も横山前市長も、そのプロセスを踏んでいません。与党である大阪維新の会の大阪市議団さえ、2023年の市議選で都構想を公約に掲げていなかったことを理由に、全会一致で反対の決議を行っています」

首長選挙は「都構想の是非」を問うものではない

幸田教授は、その他にも、首長選挙を「都構想ないし住民投票の是非」を問う場にすることの問題等を指摘する。
幸田教授:「首長選挙はそもそも、行政の代表者・統括責任者を選ぶ選挙であって、大阪都構想のような特定の政策課題を選択するための選挙ではありません。首長選挙の趣旨、目的を全く理解していません。
また、辞職願の提出が1月16日で告示日が1月22日と、その間がわずか6日しかなく(市長選告示は1月25日で間が9日間)、他の陣営は選挙の準備自体がほぼ不可能です。任期満了による選挙や、不祥事等の責任をとって退任することに伴う選挙とは根本的に異なるのです。これでは選挙結果に民意が的確に反映されようがありません。
さらに、議会における政策議論もなしに、一方的に事実上『都構想』のみについて住民の判断を求めることはあり得ません。憲法に基づく長と議会の二元代表制を否定する行為です。
加えて、住民との間の議論もまったくありません。憲法が定める地方自治の本旨(憲法92条参照)の核心をなす『住民自治』を真っ向から否定する行為です」

2回の住民投票での否決に示された「民意」を受け止める「責任」も

また、大阪都構想は、上述の通り、過去2回にわたって住民投票で否決されている。前回の住民投票の際(2022年)も大阪府知事だった吉村氏は、当時、明確に「今回が最後」と述べていた。
幸田教授:「2回も住民投票で否決された事実は重く、民意として受けとめるのが政治家である首長の責任です。自らの考えに固執して、実現するまでチャレンジするという姿勢は、民意を無視する姿勢、民主主義を否定する姿勢に他なりません。
民主主義を否定するのであれば、政治家である資格がありません、また、二元代表制を否定し、住民自治も否定する行為ですので、首長としても不適格です」
このように、大阪ダブル選については、法的な問題点が様々に指摘される。大阪都構想に対する賛否は別としても、民主主義において、意思決定のプロセスが何より重視されるということは、強く留意される必要があるだろう。


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