新商品のぬいぐるみに「パクリ」疑惑…?(・◡・)目が黒点+にっこり笑顔は「ありふれた表現」か
「ぬい活」ブームである。老若男女を問わず、お気に入りのぬいぐるみを飾ったり、一緒にお出かけしたり、写真を撮ったり、思い思いに楽しむ様子はかなり日常的になったといえよう。

市場も活況で、2025年6月の日本玩具協会の発表によれば、昨年対比115.3%の伸長率でぬいぐるみ市場の規模は拡大しているという。
当然、参入者も増えており、国内の老舗メーカーに加え、「ラブブ」のポップマートを始めとする海外勢、新興の玩具・雑貨メーカー、ハンドメイド作家の手によるものまで、さまざまなぬいぐるみがあふれている。
これだけ商品が増えてくると、先行商品と「似たぬいぐるみ」が出てくることも容易に想像がつくが、どこまで似ていたら不正といえるのだろうか。(本文:友利昴)

新商品のぬいぐるみに「パクリ」の指摘が寄せられたが……

今年1月、東京・渋谷区のキャラクター雑貨会社が発表した「ティーニーフレンズ(teeny friends)」は、ケーキやカステラなどのスイーツを擬人化したぬいぐるみのシリーズだ。
文明堂のカステラやトップス(Top’s)のチョコレートケーキ、鈴懸の最中といった実在の人気スイーツをモチーフにした商品展開もあり、注目を集めている。
このティーニーフレンズによく似たぬいぐるみが、イギリスにある。ジェリーキャット社が2018年から販売する「アミューザブル フード&ドリンク」シリーズだ。こちらもスイーツや野菜などのさまざまな食料品に、顔と足をつけたぬいぐるみである。
SNSでは両者を見比べて、類似性を指摘する声や、「パクリ」などあたかも不正であるかのような論調も見受けられた。1月28日からは伊勢丹新宿店で“お披露目イベント”が行われるはずだったが、運営会社は27日、「予想を遥かに上回る多大な反響をいただいており、伊勢丹様と検討しました結果」として、急遽中止を発表した。
新商品のぬいぐるみに「パクリ」疑惑…?(・◡・)目が黒点+に...の画像はこちら >>

【図1】左:アミューザブル(Jellycatウェブサイト)、右:ティーニーフレンズ(FASHION PRESS 2026年1月22日)

たしかに、一見すると「よく似ている」ように見えるアミューザブルとティーニーフレンズのぬいぐるみ。
しかし、「似ている」という一事をもって、そう簡単に不正視してよいものではない。ポイントは、「その類似点を一社に独占させるべきか、そうでないか」という視点だ。

菓子やパンのキャラ化といえば、わが国には1973年からの歴史がある「アンパンマン」があるし、「こげぱん」「パンどろぼう」なども有名だ。この発想の共通性を不正視する人はあまりいないだろう。
「パンどろぼうは、しょくぱんまんのパクリ」などと言う人がいないことは、「お菓子やパンに顔を描いてキャラ化することを誰かに独占させることはおかしいよね」という認識が社会で共有されていることを示している。
ティーニーフレンズとアミューザブルを比較して疑問を覚えるむきは、発想のみならず、具体的な表現においてもまた似ていると感じたからに違いない。しかし、その類似点にしてもまた、果たして一社に独占させてよいものなのだろうか。

黒点2つと円弧1本で笑顔をつくったらだいたい似るのでは?

アミューザブルの造形で目を引くのは、ぬいぐるみ化した食料品に付された「黒点のみのつぶらな瞳」と「にっこりした口」だ。しかし、瞳を黒点で、にっこりとした口を黒い一本の円弧で表現しようとすることは、いまだ発想の域である。
そしてその発想を具現化した表現が【図1】の左の顔だが、「人の笑顔」を2つの黒いプラスチック製ボタンと、1本の黒い糸を縫い付けて表現しようとすれば、誰でもだいたいこのような表現を採らざるを得ない。
「黒点2つと円弧線1本で笑顔をつくる」という命題上の制約、ボタンと糸という素材上の制約、縫製という工程上の制約があるからだ。このような表現を特定一社に独占させると、実質的にはアイデア独占に近い弊害を生むことになる。
選択の余地が限られているがゆえに誰でも似たようなものとなる表現は、著作権の法理では「ありふれた表現」「創作性が低い」と評される。これは、芸術的・商業的価値が低いという意味ではなく、あくまで独占に適さない(独占の余地が狭い)という観点からの評価である。

どこまで似ていたら不正行為になるのか?

それでも、あらゆる類似品や模倣品までもが許されるわけではない。
基本構成はありふれていても、その細部に創作性が宿る場合はある。
ただの点や線でも、その大きさ、各要素との位置関係、顔やボディに占める割合といった細部を総合的に見れば個性が表れることは少なくないのだ。
細部を比較し、総合的に見て、原作品の個性といえる部分が似ていたとき、はじめて不正の可能性を疑えるのである。
逆にいえば、シンプルな造形であればあるほど、「パッと見で似ている」と思ったときの印象の方こそ疑わなければならない。思い込みで、あたかも不正・違法な商品であるかのように発信すれば、かえって名誉毀損や営業妨害にもなりかねないのだ。
なお、ティーニーフレンズは公式SNSで「本プロジェクトの製品は、関係各社様と正規の契約に基づき、独自の意匠(デザイン)として製作されたものです。著作権や商標権等の知的財産権を保護する観点から、法的にも第三者の権利を侵害していないことを確認した上で展開しております」と説明している。

パッと見が似ていても「問題なし」とした裁判例

過去の裁判例を見てみよう。
LINEスタンプで使われたシンプルなデザインのキャラクターの類似性が争われた事例において、原告作品の「キャラクターがサツマイモを食べている様子を描くこと」などは「アイデア」であり、「眼を小さい黒点のみで描く点」「口唇部分を全体的に厚く、口を横に大きく描く点」などの基本構成における表現は「ありふれた表現」とされ、細部の相違点から「似ていない」という判決になった(*1)。
新商品のぬいぐるみに「パクリ」疑惑…?(・◡・)目が黒点+にっこり笑顔は「ありふれた表現」か

【図2】左:『From A』2007年11月5日号(リクルート)コエミ「Mr.ビークの突撃!ワキワキ現場」、右:mame&co「うるせぇトリ」

ぬいぐるみに関するものでは、バンダイが販売していたペンギンのぬいぐるみに似た商品を巡って、「黒色円形状の目がくちばしのすぐ上にある」「その目の周りに白色部分がある(白目がある)」「側面の全体的形状がおおよそ卵形」などの基本構成が共通するとしつつ、目の大きさやくちばしの形などの相違点から、やはり類似性なしとした裁判例がある(*2)。
新商品のぬいぐるみに「パクリ」疑惑…?(・◡・)目が黒点+にっこり笑顔は「ありふれた表現」か

【図3】左:コーポレーションペンギン、右:ムニュ・ムニュ(〔編〕日本著作権協議会『判例で分かる著作権 最新版』出版ニュース社 345~346頁)

これらを踏まえて、アミューザブルとティーニーフレンズのうち、最もよく似た印象のケーキのぬいぐるみ同士を比較しよう。
両者の基本構成は確かに共通するが、ボディに占める顔部の位置(中央か下方か)、口角を表す円弧の形状、瞳と口の位置関係といった相違点があるし、ケーキのデザインも、トッピング部や、スポンジ部とクリーム部の配置において異なる。
こうした点は慎重に評価すべきであるし、ましてデザインの機軸を同じとするシリーズ全品が不正というのは行き過ぎた指摘であろう。
ちなみに、(原作のない)工業量産品としてのぬいぐるみは、そもそも著作権で保護されにくいという性質もある。

実際に「ファービー」に似た「ポーピィ」なる商品を巡る裁判では、似てる・似ていない以前にこの理由で侵害が認められなかった(*3)。一方で、量産可能なぬいぐるみは、意匠権(※)の保護対象になる。
※工業利用可能な物品や建築物等の形状等について独占する権利
意匠権は、特許庁において登録されなければ権利にならないが、ジェリーキャット社は、ぬいぐるみメーカーとしては比較的珍しく、自社製品の意匠登録に積極的である。よって、同社の意匠権については注意しなければならない。
もっとも、意匠権においても、抽象的なデザインコンセプトは保護されず、具体的形状においても、既知のありふれた部分の共通性は重視されないという点では著作権と近い。

作り手、権利者、消費者それぞれに求められる寛容性

どのジャンルにもいえるが、最近のデザイナーには、既存商品に似てしまうことを過剰に忌避するむきがある。オリジナリティの追及を目的にするならよいのだが、「似てる」「パクリ」と言われることを避けたいという消極的なモチベーションに囚われるのは問題だ。
過去にまったく例のない作品を出すことに執心すれば、必要以上に創作コストが上がるし、無駄に複雑なデザインしか世に出せなくなってしまう。消費者もまた、シンプルで良質な作品を享受する機会を失うことにもなる。
特にぬいぐるみのように、製品仕様・製造工程上の制約から、複雑なデザインを表現できない造形物は、どれもある程度は基本構成が似たり寄ったりになることは避けられない運命だ。
「似る」ことを無理に避けるのではなく、細部のオリジナリティに自信を持つことも大切ではないだろうか。
消費者も同様だ。
「ぬい」を愛する人は、たとえ量産品の同じ型のぬいぐるみであっても、自分の子と、他の子の区別がつくという。「一見すると似ていても、それぞれ違う」という感覚は消費者目線でも分かるはずなのだ。
一見、自分のパートナーである「ぬい」によく似た子を見つけても、安易に不正視することなく、その「ぬい」が誰かにとっての大切なパートナーになることを寛容する豊かな心を持ってほしい。
(*1) 東京地裁令和元年(ワ)26106号
(*2) 東京地裁昭和60年(ワ)8776号
(*3) 仙台高裁平成12年(う)63号。ただし本件では電子玩具としての機能・実用性を保持するためのデザインを持っている事が著作権で保護されない理由として強調されており、愛玩のためのぬいぐるみは、(本文の通り権利範囲は狭い場合が多いとしても)基本的には著作権の対象でよいのではないかというのが筆者の立場である。
■友利昴(ともり・すばる)
作家。企業で知財実務に携わる傍ら、著述・講演活動を行う。ソニーグループ、メルカリなどの多くの企業・業界団体等において知財人材の取材や講演・講師を手掛けており、企業の知財活動に詳しい。『明治・大正のロゴ図鑑』『知財部という仕事』『エセ著作権事件簿』の他、多くの著書がある。1級知的財産管理技能士。


編集部おすすめ