外資系生命保険大手のプルデンシャル生命において、1991年~2025年の間に100名を超える営業社員が顧客から総額約31億円をだまし取っていたことなどが判明した問題で、同社は10日、外部の弁護士4名により構成される第三者委員会を設置すると発表した。事実関係の調査や原因分析を行った上、再発防止策を検討・策定するという。

一連の不祥事はプルデンシャル生命に特有の問題なのか、それとも、同社に限らず保険業界全体にかかわる問題なのか。
ごく最近まで、十数社の生命保険会社を取り扱う、いわゆる「乗合代理店」で営業マンとして約10年間働いていたB氏(40代)に話を聞いた。ちなみにB氏は退職前、優秀な保険営業マンの証とされる「MDRT(※)」の成績資格会員だった。
※「Million Dollar Round Table」の略称。生命保険業界では、卓越した生命保険および金融サービスの専門家の国際的組織と位置付けられている。
B氏は退職後、法人顧客の対応をする過程で身に付けた税務・会計に関する知識を生かした仕事をしたいと、税理士法人に勤務しながら、税理士試験合格をめざし受験勉強をしている。

プルデンシャル生命の商品力と営業マンの提案力は?

B氏は、顧客から保険相談を受けた際、しばしばプルデンシャル生命の営業マンと競合し、競合相手の中には、前述の「MDRT」等の有資格者や、業界で名前が知られた営業マンもいたという。
B氏の目に、同社の商品力、営業マンの力量はどう映ったのか。
B氏:「プルデンシャル生命の保険商品自体は、他の生保各社と比べ、競争力が決して強いとはいえないと思います。保障内容は看板商品とされる『米ドル建てリタイアメントインカム』を除くと、突出して目新しいとも、優れているともいえません。
しかも、保険料も割安というわけではありません。その時点で同業他社、特に複数の保険を扱える乗合代理店と比べ、大きなハンディキャップを負っていると思います」
加えて、営業マンの営業力も、他の代理店ないしは保険会社と比べて特に優れていたという印象はないという。
B氏:「営業力をどうとらえるかにもよりますが、『顧客のニーズをくみ取り、それにフィットした提案をする力』という意味であれば、正直言って、不十分と思われるケースもありました。

MDRTの成績資格会員だという人も例外ではありませんでした。MDRTはあくまでも、販売手数料もしくは保険料または収入の額を基準とする販売実績の指標であり、提案の質や倫理観を保障する仕組みではありません。事実上、『売ることが正義』となってしまっています。一般社会の常識とは乖離がある気がしてなりません。そこに、保険業界内部での評価軸の歪みがあると思います。
また、プルデンシャル生命は『ライフプランニング』といって、ソフトを使用して現在の貯蓄額や年収等をもとに、老後までのシミュレーションを行うことを売りにしているようですが、実のところ、他の生保会社の同種のソフトも十分に高性能にできています。
結局、ソフトを使いこなせることはもちろん、個人の力量、つまり、社会保障制度やお金にまつわることを、どれだけきっちり勉強しているのかにかかっています。
しかし、中にはそれらの基本さえ不十分との印象を受ける営業マンもいました。もっとも、その点は生命保険会社・保険代理店一般にもまったく同様にあてはまります。決して、プルデンシャル生命に特有のものではありません」

「思い」「情熱」だけでは顧客の役に立たない

顧客への提案の中には、その人の本来のニーズに合致しているのか疑問視されるものも見られたという。
B氏:「一例を挙げると、妻子のいる30代の自営業のお客様に、保険料が割高で万一の場合の保障額が低い『終身保険』を契約させていたケースがあります。お客様が『掛け捨てはもったいないので、お金が貯まる保険がいい』との意向を示していたからのようです。
このお客様は、奥様が専業主婦で、3人の幼いお子様がいました。
子育て世代でお金がいくらあっても足りません。また、自営業でケガや病気で休んだら即、収入がゼロになります。しかも、そもそも貯蓄・投資と保険は分けて考えるべきものです。今は『NISA』や『iDeCo』、自営業者なら『小規模企業共済』『国民年金基金』もあります。
このお客様が本来検討すべきなのは、低額な保険料で大きな額の保険金を受け取れる掛け捨ての『定期保険』や『収入保障保険』、働けなくなった時のための『所得補償保険』(生命保険ではなく損害保険の一種)などでした。
結局、ライフプランニングの結果をもとに『貯蓄性の保険ではなぜだめなのか』ということも含め丁寧に説明し、納得のうえで、掛け捨ての『収入保障保険』と『所得補償保険』に、必要十分と考えられる保障(保償)の額で加入していただきました」
B氏は、その顧客に貯蓄性の保険を提案した営業マンが、必ずしも、自分の営業成績のため顧客の利益を犠牲にしようとしたとは思っていないという。
B氏:「100%の善意で、お客様のニーズに応えようと思って、貯蓄性の保険を提案したのかもしれません。
しかし、『思い』や『情熱』だけではまったくお客様の役に立ちません。保険のプランを立てる前提となる周辺知識をしっかり学び、使いこなせなければならないと痛感しました」

背景に「契約獲得至上主義」の風潮? 無意味な「ロープレ」も

ただし、B氏は、上記のようなことはプルデンシャル生命の営業マンに限らず、生命保険業界全体にみられる現象だという。そして、その背景として、契約獲得を至上の価値とする風潮がみられること、それによって営業マンが厳しいストレスにさらされている現状があることを指摘する。
B氏:「私の勤務先でも月ごとにノルマ・目標が設定されていましたが、私は心の中で完全に無視していました。未達の月もありましたが、上司に叱責されたらうわべだけ、いかにもしおらしく反省したようなふりを見せていました。
しかし、そういう割り切りができない人もいます。
多くの営業マンが、新規契約の獲得ノルマに追われ、本来身に付けるべき知識やスキルを付ける余裕がない状態に追い込まれているのではないでしょうか」
特に、プルデンシャル生命等のような、フルコミッション(完全歩合)制の下で働く営業マンの置かれた状況の過酷さと理不尽さが憂慮されるという。
B氏:「営業成績が自分の食い扶持に直接影響するので、まずは目先の契約を獲得して数字を上げなければ、となるのは必然でしょう。
そのために、『こうすれば売れる』というたぐいの小手先の営業テクニックばかりが重視されているように思います。たとえば、早朝から『ロープレ(ロールプレイング)』と称して、お客様とのやりとりの練習なんかしています。『こうすれば相手に心を開いてもらえる』『断られたらこう返せ』みたいなものをやっているところが多いです。
『本当は保険が必要なのに気付いておらず、しかも保険にネガティブな印象を持っている人に、まず話を聞いてもらうためのロープレだ』という理屈が用いられています。
しかし、実際には、お客様を丸め込み、不要な保険を売りつけるためのテクニックとして機能していないか、大いに疑念があります」
B氏も、ロープレに誘われて何回か参加したことがあるが、「何の意義も感じられず時間のムダだった」という。
B氏:「はたから見ていて異様だし滑稽です。互いに採点し合うのですが、参加者のなかで営業マンとしての実績が最も高いはずの私の点数が最も低かったりして、笑えません。
そんなことより、お客様の役に立つための知識、つまり社会保障制度や税金の知識、自社商品や他社商品の内容を知ることに時間をかけるべきでしょう。
お客様からの信頼は、ニーズを的確に汲み取り、有益な提案を行うことによってしか得られないものだと考えます。そこに集中すべきです。
呑気にロープレなんかにうつつを抜かすヒマがあるとは思えません」

プルデンシャル生命の不祥事は「起こるべくして起きた」

B氏が働いていた代理店は、もともと、基本給に加え、業績に連動したインセンティブ給が支払われるしくみだった。
退職したきっかけは、報酬制度の改定によりインセンティブ給の比率が大きくなったこと。それにより年収は大幅に上昇したものの、『このままではお客様を値踏みするようになってしまうのではないか』と危惧感を覚え、退職することにしたという。
保険営業マンとして積み上げた実績やスキルがあり、高い年収を得ていたものの、「生命保険業界を去ることに未練はまったくなかった」と言い切る。
B氏:「私はもともと、インセンティブ給があること自体に疑問がありました。
他の業界は知りませんが、生命保険の営業に限っていえば、インセンティブ給の比率を大きくすることは、お客様にとっても、営業マン自身にとっても、マイナスにしかならないと思います。ましてやフルコミッションともなれば、営業マンが、いざという時にお客様よりも自分の利益を優先するようになるのも、やむを得ない面があるでしょう。
今回のプルデンシャル生命の一連の不祥事は、そのような土壌の中で、起こるべくして起きたとしか考えられません。100人超、総額31億円というのは、いくらなんでも異常事態です。決して、個人の資質で片付けてはならない構造的な問題だと思います」
B氏は、「友人知人から信頼できる保険営業マンを紹介してくれと言われたときに、自信を持って紹介できる現役の人は限られている」と嘆く。そして、生命保険業界の一部に根強い利益至上主義と顧客軽視の体質があることに、強い懸念を示す。
プルデンシャル生命は1月24日の記者会見で、報酬体系の抜本的見直しとチェック体制の強化を約束した。
また、2月1日付で就任した得丸博充社長は10日の記者会見で、「顧客の被害の補償、原因の徹底究明、再発防止を最優先で進める」と述べた。同社にはこれらの約束を、誠実かつ徹底的に履行することが厳しく求められる。
同時に、他の生命保険会社や代理店も、生命保険が事実上、多くの人にとって重要なインフラとなっていることに鑑み、顧客軽視・利益至上主義の体質が払拭されていないこと、一般社会での保険営業への不信感が根強いことを認識し、克服していくことが求められるだろう。


編集部おすすめ