「再び豪雪なら選挙どころではない」の懸念も… “分断”抱え衆院選に突入した保守王国・福井の実情
街の色彩を奪う白銀の世界の下で、福井の政治地図はかつてないほど激しく燃え上がっている。
「保守王国」と呼ばれた福井に走った大きな亀裂。
それは、直前に行われた福井県知事選挙という名の「保守分裂」が残した深い爪痕だ。
雪が溶ければ春は来る。しかし、県民に生まれた政治的な「しこり」は大きく、溶けるどころか膨らみ続けている。春を待たずして公示された第51回衆議院議員総選挙によって、状況は再び混沌(こんとん)を極めているためだ。(ライター・岩田いく実)

衆議院福井選挙区を襲う特殊な地域事情

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雪の積もった福井1区の様子(撮影・岩井いく実)

福井の冬は時に「豪雪」に見舞われる。
2018年2月の豪雪で自衛隊の災害派遣を要請したことなどをきっかけに、県内交通網の大動脈である国道8号線や北陸自動車道を中心に、タイヤが雪にはまり空転し走行不能になる「スタック」による交通不能を防ぐために、大雪が予想される場合には「計画的通行止め」が実施されるようになった。陸の孤島のように封鎖されるため、県外はおろか、県内であっても自由な往来が制限される。
計画的通行止めによってスタックは避けられるものの、豪雪はJRや地元第三セクター鉄道にまで影響を及ぼす場合も多く、県内の交通網全体が「麻痺(まひ)」に陥りやすい。通勤・通学はもちろん物流にも甚大な影響を及ぼしている。県民にとってこの時期は雪かきに追われる日々であり、選挙どころではないのが本音だ。
衆議院選挙直前の1月22日~25日頃は強い冬型の低気圧配置によって豪雪が予想されたため、集中除雪や計画的通行止めが嶺北(れいほく)南部から嶺南(れいなん)にかけて実施された。この地域は衆議院選挙では「福井2区」にあたる。
福井2区のある候補者陣営は衆議院選挙2日目、「再び豪雪になると選挙どころではない。
候補者が移動できず、演説会もできないかもしれない。雪で道路幅も通常より小さく、選挙カーの運転も大変だ。嶺北と嶺南をまたがる選挙区なのに、どのように移動の戦略を組み立てるべきか手探りだ」と話した。
36年ぶりに2月投開票となる衆議院選挙は早くも後半戦だが、天候に選挙活動が大きく左右されることは必至だ。

福井県知事選がもたらした「分断」と「疲れ」

他県の衆議院選挙と比べ、福井県は天候以外にも特殊な事情を抱えている。今、県内は福井県知事選における保守分裂の影響が残っているのだ。
1月25日に投開票が行われた福井県知事選を巡る自民党内の対立は、単なる候補者選定の枠を越え、地域社会そのものを二分する事態へと発展した。
立候補した3名のうち、前越前市長の山田賢一氏(67)と新人の石田嵩人氏(35)の間で揺れ動いた保守層は、かつての強固な結束を失った。自民党本部で高市首相から必勝の色紙をもらい、組織票を固め優勢と見られていた山田氏は、新人で元外務省職員の石田嵩人氏の勢いに敗れる事態となった。
参政党の支援も受けた石田氏は現職知事として最年少の35歳の若さであり、大きな期待を寄せられた結果といえる。一方で、福井県知事選の投票率は雪の影響も大きかったと考えられ、過去最低の46.29%であった。
親戚、友人、そして隣近所までもが「どちらに付くか」で翻弄(ほんろう)され、息の詰まるような選挙戦を繰り広げた。長年自民党の支援を続ける福井市内の農業関係者は「知事選では身内や近所の人にまで電話をかけ続けた。
福井市は県議会の補選もあったため疲れている。もうしばらく選挙はやりたくなかった」と語る。
一方、福井1区で1月31日に期日前投票を済ませたある30代女性は、「誰に投票しても同じ、という空気が少し変わったのではないか。投票すれば変わる。とにかく新しい顔になるのも良いと考えるようになった」と笑顔を見せた。

福井1区:保守の地殻変動は継続するか

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福井1区の掲示板(撮影・岩田いく実)

福井1区は4陣営による混戦となっている。自民党現職の稲田朋美氏(66)、中道改革連合の現職の波多野翼(41)に2名の新人、参政党の藤本一希氏(29)、国民民主党の山中俊介氏(42)が挑む格好だ。
国民民主党の新人である山中氏は2025年の参議院選挙でも立候補経験がある。筆者の取材に応じた陣営関係者は「前回より名前の浸透に手応えがある、巻き返しを図りたい」と話す。
参政党支援のある50代の女性は「福井県議会議員での経験がある若手男性候補者を擁立できた。29歳という若さを全面に押し出し、知事選で生まれた波を取り込みたい」と答えた。
現在、自民党現職が優勢と報道されているが、自民党陣営は知事選の結果を踏まえて保守層の地殻変動の影響を懸念している。

福井2区:高市首相の「息子」の不出馬の影響は

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福井2区の掲示板(撮影・岩田いく実)

福井2区は全国でも要注目の選挙区である。
高市首相の夫の長男である山本建氏(41)は当初福井2区からの出馬を表明していたものの、一転して断念に至った。結果、前回の衆議院選挙で日本維新の会から出馬し次点となり比例復活当選したものの、除名処分を受け自民党会派に入会した斉木武志氏(51)が、自民党の支持を受けて立候補している。
選挙公報、選挙カーに「高市早苗と書いた責任を氏と共にこれからも果たしてまいります」と記し、首相に近い存在であることを懸命にアピールしているが、過去に複数の党を渡り歩いた経歴があるため冷ややかな視線を向ける政治関係者は少なくない。だが、保守票は斉木氏に結集すると考えられ、優勢が伝えられている。
一方、現職の辻英之氏(55)は政党名が立憲民主党から中道改革連合に変わったことで、党名の浸透に苦戦する様子が見られる。Instagramを使ったライブ発信では県民からの質問も受けているが、選挙直前での結党に疑問を持つ声が届いていた。
1月30日に織田町で行われた演説会には連合福井の橋岡克典会長や公明党鯖江市議の参加も見られ、組織票を固めようと模索している。支援を続ける労組関係者は「自民党が長年にわたって盤石の基盤を創り上げてきた福井2区での一騎打ちは大変だ。雪で街頭演説もままならない」と話す。
しこりが残る中で行われている福井県内の衆議院選挙。現在も雪は降り続いており、各陣営は期日前投票を呼びかけているものの、県民の足取りは重い。保守分裂の影響や首相の息子の不出馬がもたらす結果は、2月8日に判明する。

■岩田いく実
損害保険会社、法テラス、一般民事系法律事務所に勤務後、ライターに転身。パラリーガル経験を活かし、年間60人を超える弁護士・税理士を取材。相続や離婚、不動産売却、債務整理、損害保険などのテーマを中心に執筆。第一法規『弁護士のメンタルヘルスケアの心得』で記事執筆、自主出版に『ルポ豊田商事』がある。


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