警察庁によると、2025年の小中高生の自殺者は532人(暫定値)となり、過去最多となった。小中高生の自殺者数は2020年に急増。
以降も高止まりが続いている。
文部科学省は2025年12月、12年ぶりに「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」を見直し、新指針となる「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の指針」を策定した。
文科省は、新指針に、調査全体のフロー図を掲載。これにより、学校側も遺族側も調査の流れを把握しやすくなった。また、調査がどこまで進んでいるのか確認できる「チェックリスト」も作成中だという。
さらに、背景調査の内容、日本スポーツ振興センター(JSC)の災害共済給付(死亡見舞金)に関連する内容、相談窓口について掲載した説明様式を作成。学校側が遺族への説明を的確に行えるよう工夫されている。
指針に基づく調査結果は、遺族の同意の下で文科省に集約され、文科省はこども家庭庁と連携し、こどもの自殺対策に役立てる方針だ。(ライター・渋井哲也)

旧指針の問題点

旧指針のもとでは、学校側の遺族への説明が不十分で、調査が行われても長期化したり、経過が不透明な状況になっていたり、調査内容・報告にばらつきがあることが課題だった。
過去には、調査委員会の設置を報道で知ったという遺族もいたほか、遺族が要望しても調査委が設置されないこともあった。
ただ、旧指針から、学校に通う児童生徒の自殺が起きた際、学校の設置者(教育委員会や学校法人、国など)および学校は、背景調査を実施する必要があると明言されていた。
背景調査は、「基本調査」と「詳細調査」の二段構えで構成されている。まず学校による情報収集・調査である「基本調査」が行われ、その基本調査の結果を踏まえ、心理の専門家など第三者性が確保された専門家を加えた調査組織において「詳細調査」が行われる。
(背景調査のどこかの段階でいじめの疑いが生じた場合は、「いじめ防止対策推進法」による「重大事態調査」の枠組みでの調査となる)
児童生徒の自殺または自殺が疑われる死亡事案すべてで「詳細調査を実施することが望ましい」とされており、少なくとも①学校生活に関係する要素が背景に疑われる場合、②遺族の要望がある場合、③その他学校の設置者が必要と判断した場合については、詳細調査を行うよう示されていた。
しかし、文科省が背景調査の実施状況を調査したところ、学校が認知した自殺者(警察統計の同年代の自殺者数とは誤差が生じている)の「基本調査」は毎年度、100%実施されていたものの、「詳細調査」の実施率は2022年度が4.6%、2023年度が8.1%、2024年度が5.6%にとどまっていた。
さらに、この調査では「自殺した児童生徒が置かれていた状況」について、十分な調査がされず「不明」が半数近くに上っていたことも明らかになった。

「考える会」の要望から新指針策定へ

教職員による不適切指導をきっかけに自殺(指導死)した生徒の遺族らでつくる「安全な生徒指導を考える会」(以下、「考える会」)は23年10月、文科省に「指針」の見直しを要望し、青山周平・文科副大臣(当時)と面談。
その後文科省は「児童生徒の自殺防止に関する調査研究協力者会議」で新指針の策定について議論を重ねてきた。「考える会」と、学校事故・事件の問題に取り組む「一般社団法人ここから未来」にもヒアリングを行い、さらにパブリックコメントを実施した上で、新指針の策定に至った。
なお、「考える会」は新指針の策定にあたり、死亡事案が発生した学校に通う児童生徒への「アンケート」を「基本調査」に組み込むように要望していた。記憶が新しいうちに調査したほうが、他の情報に影響されにくいとの主張だ。
これを受け、新指針ではアンケートは「詳細調査」に組み込まれたものの、遺族の希望があれば「基本調査」段階でもアンケートを実施できると明記された。

指導死遺族「遺族は原因を知りたいだけ」

策定を受けて、「考える会」は1月末、都内で記者会見を開いた。共同発起人の一人、はるかさんは「旧指針では、遺族が(学校等に対して調査を要望するなど)頑張らないといけないものでした」と新指針で遺族らの負担が軽減されたことを評価。
しかしその一方で、アンケートが基本調査ではなく、詳細調査に組み込まれたことについて、「基本調査で実施できると書かれても、結局は学校の判断に委ねられます。アンケートを行わずにまとめられた基本調査報告書を『こどもの自殺対策』に活用しようとする国の姿勢は残念です」と述べた。

他方で、「フロー図」の掲載や、確認のための「チェックリスト」は「考える会」が要望してきたものだ。
また、体罰・不適切指導が背景にあると疑われる自殺事案の場合、当事者となる教職員は基本調査を行う担当に含めないなど、調査の公正性に疑義が生じないよう対応すること、学校の設置者が主体となり、第三者委員会方式での調査を検討することが示された。
ただ、調査主体を「首長直轄部局(教育委員会から独立した、市長や知事直属の部署)」でも可能にすべきと要望した点は叶わなかった。
鹿児島市の中学校に通っていた息子を指導死で亡くした遺族は、新指針を評価しつつも、「読み手によって、(解釈など)受け取り方が違う部分がある。遺族はなぜ(生徒が)亡くなったのか、原因を知りたいだけ。不適切な指導が疑われる事案の場合は、それに特化した指針があってもいいと思う」と語った。
■渋井哲也
栃木県生まれ。長野日報の記者を経て、フリーに。主な取材分野は、子ども・若者の生きづらさ。依存症、少年事件。教育問題など。


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