3月4日の「世界肥満デー」に合わせ、公益社団法人日本糖尿病協会(JADEC)が同日、都内で「肥満アドボカシー(※)活動の開始」をテーマに会見を開いた。
※社会的な課題に対して、知識の普及や制度改善を求めて声を上げる啓発・政策提言活動
JADECは会見で厚生労働省などと連携し、肥満に対する社会の偏見――「肥満スティグマ」の解消に乗り出すと訴えた。

背景には、30~50代の働き盛り世代で肥満が急増し、糖尿病の発症リスクが高まっているにもかかわらず、当事者の約9割が「太ったのは自分のせい」と自責に陥り、医療にたどり着けない深刻な現状があるという。

健康増進法に基づく「肥満対策」、国の枠組みは

会見には厚生労働省健康・生活衛生局健康課の丹藤昌治課長も登壇した。丹藤課長は、健康増進法第7条に基づき厚生労働大臣が定める「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」の枠組みを説明。
この基本方針は「国民健康づくり運動プラン」と呼ばれ、食生活・運動・休養・飲酒・喫煙といった生活習慣に関する正しい知識の普及をはじめ、都道府県・市町村が策定する健康増進計画の根拠にもなっている。
同法の下、都道府県には健康増進計画の策定が義務づけられ、市町村にも努力義務が課されるなど、国から自治体まで一体的に健康づくりを推進する法的な仕組みが整備されている。
2024年度からは第5次の国民健康づくり運動「健康日本21(第3次)」がスタートし、「誰一人取り残さない健康づくり」をビジョンに掲げており、適正体重の維持も目標の1つに位置づけられている。丹藤課長は国としても食生活改善や栄養指導の強化を進めていく姿勢を示した。

30~40代の糖尿病患者、7割超が治療受けず…根強い「自己責任論」

JADECの清野裕理事長は、厚生労働省が公表する糖尿病のデータを示しながら、問題の深刻さを訴えた。
2024年の調査では、30代・40代の糖尿病患者のうち7割以上が治療を受けていないという。さらに、滋賀県医師会の糖尿病実態調査によれば、50歳未満の糖尿病患者の約70%が肥満を伴って発症しており、高度の肥満も多く見られるという。
問題をさらに複雑にしているのが、肥満に対する「自己責任論」の根強さだ。
JADECの肥満部会が実施したアンケート調査では、肥満症患者の約87%が「肥満は自分の責任」と回答。一般消費者でも約70%、医師でも約64%が同様の認識を持っていた。
肥満症の治療の必要性については、患者・医師・一般消費者のいずれも6割以上が認めているにもかかわらず、診療の場で、体重について気軽に話せるかという問いに対し、「気軽に話せる」と答えた患者はわずか25%。
医師側も20%にとどまった。
虎の門病院病院長の門脇孝氏は、こうした問題の背景に誤解や偏見があると指摘する。門脇氏は2019年に11か国で実施された国際調査の結果を紹介。同調査では、肥満のある人の81%が「減量は私の責任」と回答した一方、医療スタッフの68%は「患者は減量への意欲に欠ける」と認識していたという。
「肥満の約50%は遺伝因子、残りの約50%は社会文化的要因を含む環境因子で決まると科学的に示されています。
それにも関わらず、肥満の原因が性格の欠点や、個人の責任感の欠如であったり、自己管理能力のなさにあるとする"自己責任論"には二重、三重に誤解・偏見が含まれています」(門脇氏)

「意思の問題だと思い込んでいた」

この日の会見には過去に肥満を経験した50代男性のAさんが出席。自身の体験について、次のように語った。
「私も以前は、肥満は自分の意思の問題だと思っていた部分もありました。
ですが、実際には、仕事環境の変化や生活リズムの乱れなど、さまざまな要因が重なり、体重が増えていました。肥満は単なる自己責任ではなく、生活や環境、体の状態が影響するものだと、身をもって感じました。
そして、医療のサポートを受けながら、改善に取り組めば、身体はきちんと応えてくれるということも実感しています。
もし今、肥満治療をためらっている方がいれば、1人で抱え込まず、まずは医師に相談してみてほしいです」
JADECは今後、厚生労働省や経団連などと連携し、就労世代を中心に肥満の正しい理解を促すアドボカシー活動を本格展開していく方針。

清野理事長は会見の終盤「これからは『一人で悩まずに、皆で肥満や糖尿病の問題に取り組んでいきましょう』と訴えかけていきたい」と述べた。


編集部おすすめ