昨今、既存の飲食店の休業日や空き時間を利用するなどして営業する「間借り飲食店」が話題になっている。一般人でも気軽に「自分の店」を出し自慢の腕を試すことができる一方で、食品衛生法の規制を受けることに留意する必要がある。

少し前にも、間借り飲食店の店主が自宅で仕込みの一部を行っている様子がテレビで放映され「食品衛生法違反ではないか」と炎上したことがあった。
仕込みや調理などの過程について、法的観点から、どのような点に注意しなければならないのか。飲食業法務の専門家であり、自身でも飲食店を経営している石﨑冬貴弁護士(法律事務所フードロイヤーズ代表)に聞いた。

基本的に「営業許可を受けた場所」でしか許されない

食品衛生法は、飲食物の提供や製造にあたっての細かい基準や条件について、基本的に全て都道府県の条例に委任している。
石﨑弁護士は、そういった条例の定めのうち「仕込み」や「一次加工」について参考になるのは、自動車による食品営業(いわゆるキッチンカー、フードトラック)に関する要綱であると説明する。
石﨑弁護士:「自治体によって表現は異なりますが、『食品を営業車内において簡単な調理、加工をすることにより提供することができる状態または形状に調理しまたは加工すること』や、『営業施設内で加熱処理等の簡易な調理の工程により客に提供できる状態、形状にするために、あらかじめ食品を加工すること』などと定義されています。
つまり、『仕込み』ないしは『一次加工』とは、『最後に簡単な調理をすれば客に提供できる状態になるくらいまで調理加工すること』を指すと言えます」
そこで問題となるのが「営業」の定義である。
食品衛生法上、「営業」とは、「業として、食品若しくは添加物を採取し、製造し、輸入し、加工し、調理し、貯蔵し、運搬し、若しくは販売すること又は器具若しくは容器包装を製造し、輸入し、若しくは販売すること」(同法4条7項)とされている。
石﨑弁護士:「食品の加工、調理は『営業』の一部にあたり、飲食店なら飲食店の営業許可が必要です(同法55条、同政令35条1号)。
これは『間借り』かどうかとはまったく関係がありません。飲食店の仕込み作業である以上、『営業』なので、営業許可を受けた場所で行わなければならないということです。
したがって、たとえば、間借り先で手打ち麺の料理やピザを提供する場合、麺やピザの生地を作ることは、食品の調理・加工にあたるので、営業許可を受けて行う必要があります。
自宅で生地を作るなら自宅での営業許可を受けなければなりません。
そうでなければ、生地を作る段階も含めすべての調理・加工の工程を、間借り先で行わなければなりません」

自家製調味料・食材や、仕込みに長期間かかる場合は?

ここで一つ、問題が生じる。料理の下ごしらえには、長期間かかるものがある。たとえば、自家製の調味料(味噌・醤油)や漬物(梅干し等)を用いる場合や、乾物の戻しや塩蔵物の塩抜きなどに複数日を要する場合などである。
そのような場合、間借り先の店舗やシェアキッチンを利用することは難しいことも多いと考えられる。
石﨑弁護士は、「食品の種類によっても、自治体によっても判断基準が異なるので、一概に言えない」としつつ、基本的には、手間や所要時間にかかわらず、すべて営業(または製造)許可が必要と考えなければならないと説明する。
石﨑弁護士:「少なくとも、たとえば味噌等の発酵調味料の自家製造、梅干し等の漬物の自家製造、干物の自家製造、複数日を要する乾物の戻しや塩蔵品の塩抜き等は、すべて営業許可を受けて行う必要があると考えられます。
食品衛生法が食品の製造や飲食店の営業等について許可制としているのは、食品が人の体内に摂取されるものであることから、食品の安全性を確保して、消費者の健康を守るためです。
いわゆる『仕込み』は、単なる保存や、転売のために保管するのでもなく、触る、切る、分ける、混ぜる、など何かしらの調理を行うはずなので、そのどの過程でも、汚染されたり、腐敗したりする可能性があります。
したがって、それを『仕込みだから』という理由で、営業許可を受けていない場所ですることを認めてしまうと、製造や営業を許可制度としている意味がなくなってしまいます」
食品についての各種基準はそれぞれの自治体が条例等で定めている上、管轄の保健所単位でも判断が異なる場合があると指摘する。
石﨑弁護士:「それだけ、食は気候や文化などと密接に関連しており、地域性があるということです。不明な点がある場合、必ず管轄の保健所に相談するようにしてください」
調理・加工の過程がある場合には、基本的にそれらは営業許可を受けた場所でしか行ってはならないと考え、かつ、少しでも判断に迷う点があれば、最寄りの保健所に問い合わせるという態度を徹底すべきであるといえる。
間借り営業も、自ら店舗を持ち経営するのと完全に同レベルの衛生管理が要求される。
もし、趣味と実益を兼ねて間借り営業をすることを考えるのであれば、食中毒を起こすリスクが絶えずつきまとうことを意識したうえで、食品衛生法ないしはそれに基づく条例の規制を厳守する態度が求められるといえる。


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