大手企業の正社員に「満額回答」が相次ぐ2026年春闘。その陰で、非正規労働者の賃上げは依然として進んでいない。

3月16日、全国37の労働組合で構成する「非正規春闘実行委員会」が都内で記者会見を開き、大企業を含む10社以上に対し、ストライキを集中的に実施すると発表した。

10%以上の賃上げなど要求

「非正規春闘」は、ナショナルセンター(全国的な労働組合の中央組織)の系列を超え、個人加盟ユニオンや単産(単一産業別労働組合)が集結する取り組みで、2023年の開始から4年目を迎えた。北海道、宮城、新潟、首都圏、愛知、大阪、福岡、沖縄と全国に広がりを見せ、今年の交渉先は160社・10自治体にのぼる。
今年の非正規春闘の方針は下記の5点だ。
第一に、10%以上のベースアップ。「以上」としているのは、10%でも不十分なケースが多いためだ。時給1100円の労働者が10%上がっても1210円。フルタイムで働いても総支給は月19万円程度にしかならない。実行委員会は「生活できる賃金」を目指し、20%、25%の要求も積極的に掲げる方針を示した。
第二に、総額人件費(※)の引き上げ。飲食や小売りなどシフト制労働者が多い産業では、賃上げの時期にシフトの本数を減らしたり早上がりを要請したりして、総労働時間を削減する企業が増えているという。
※給与に加え賞与、退職金、法定福利費、福利厚生費等、すべての人件費の総額
賃金の単価が上がっても、働く時間を切られれば手取りは変わらない。一方で現場の労働者は少ない人数で同じ業務をこなすことになり、労働強化が進んでいると訴える。

第三に、正規・非正規の均等待遇(同一価値労働同一賃金)。大企業が初任給を30万円、40万円に引き上げる例が相次ぐ中、非正規労働者との格差はむしろ拡大していると指摘。賞与や一時金がほとんどの場合、非正規には支払われていない実態も問題視した。
第四は「全国一律の最低賃金1500円の即時実現」で、現状の水準ではフルタイムで働いても貧困から抜け出せないと主張した。
第五に、ケアや物流、公務などで社会を支えるエッセンシャルワーカーの低賃金構造の打開を掲げ、民間・公務の両輪で賃上げを目指すとしている。

「賃上げの必要はない」との回答も

今年の春闘では、イオンリテールが8.38%、すかいらーくが6.39%(いずれも制度昇給込み)と、小売り・飲食大手でも満額回答が報道されている。しかし、実行委員会は「こうした大手の引き上げが、同じ産業の他社や中小企業の下請けで働く非正規労働者に届いていない」と指摘した。
さらに、複数の企業が「非正規労働者の賃金改定時期は決めていない」「最低賃金の動向を見て決めている」と主張し、春闘の交渉自体を否定する姿勢を見せているという。
会見では、各労組の当事者が現場の実態を訴えた。
出版情報関連ユニオンの川辺隆氏は、東京都北区の出版流通センターで働く非正規労働者の窮状を報告。同センターでは、時給が東京都最低賃金の1226円に据え置かれたままだといい、シフトカットや早上がりも重なり、月収が10万円を切る労働者が続出していると訴えた。
団体交渉に対する会社側の回答書には「現在の条件でも人員は確保できているため、賃上げの必要はない」「パート・アルバイトについては昇給も賞与も予定していない」と明記されていたといい、川辺氏は「労働者が生活できるかどうかではなく、人が集まるかどうかで賃金を決めている。労働者を使い捨ての労働力として扱うものだ」と強い怒りをにじませた。

仙台からは、ヤマト運輸の物流倉庫で働く留学生の男性とスキマバイトで働く女性の2人が登壇。留学生の男性は、日本語学校に通いながらアルバイトで生計を立てる立場から「生活費はどんどん上がっている。でも賃金はあまり上がっていない」「正当な要求を認めないなら、運動を続ける」と述べ、25%の賃上げを求めた。

数十円の賃上げ「不十分と言わざるを得ない」

回転寿司業界では、スシロー、はま寿司、くら寿司の3社に対し、地域ごとの賃金水準(東京都心部1700円、23区外1500円、都市圏1400円、地方1300円)を要求。
すでに新潟県内の店舗でストライキを実施したほか、宮崎県の店舗では約400ページに及ぶ業務マニュアルを徹底的に遵守することにより実質的に業務のスピードを落とし、使用者側に圧力をかける「順法闘争」にも取り組むなど、活動を通じて賃上げを迫っているという。
実行委員会側は「行動の結果、宮崎の店舗では時給を1060円から1100円に引き上げるとの回答を引き出しており、他の店舗でも20~30円の賃上げ回答を得られたところがあった」としつつ、「非正規春闘の趣旨からすれば不十分と言わざるを得ない」との見解を示した。
実行委員会側によると、160社への要求のうち、有額回答が出たのはまだ1~2割程度だといい、今後ストライキなどを実施する予定。最終的な解決は5月、6月にずれ込む企業も多いと見込んでいるという。
実行委員会の尾林哲矢氏は「われわれは、仕事内容を評価して、賃金を上げようと要求していますが、やはり地域相場と店舗の人員充足率から賃金が決められることが多く、それ以外が考慮されることはなかなかありません」とコメント。
なお、非正規春闘実行委員会では3月16日と17日の2日間、17時~20時の時間帯で「非正規労働者のための賃金相談ホットライン」(03-5395-5359)を開設する。


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