もっとも、従来のメディア研究では、メディアは人々の意見を大きく「変える」というより、もともとの考えを「強化」する働きが中心だとされてきた。さらにインターネットやSNSは、その傾向がマスメディア以上に強いと考えられてきたのである。
だが、近年急速に普及したショート動画は、こうした前提を揺るがす可能性があるという。メディア効果論を研究し、著書『マスメディアとは何か』などで知られる稲増一憲・東京大学准教授が、選挙におけるショート動画やSNSの「影響力」について解説する。(本文・稲増一憲)
人々が「影響」される可能性は民主主義の要だが…
選挙における投票は人々の意見を政治に反映する上で重要である。それでは、投票前の数週間にわたって行われる選挙戦は何のためにあるのだろうか。もし、公示日から投票日までの間に、有権者の投票先が変化することを想定できないならば、選挙戦を行う意味はない。しかし実際には、有権者は、公示日から投票日までの間に候補者や政党から発信されるメッセージを受けて、あるいはそれを扱う報道や、他者の意見に触れて投票先を変更する可能性がある。
また、これにより候補者の当落や与野党の勢力図が覆る可能性が担保されているからこそ、敗者の側が暴力等に訴えることなく、次回の選挙に向けて民主的な手段で支持の獲得を目指すことができるのである。つまり、人々が情報によって「影響」される可能性は民主主義の要ともいえる。
一方で、好ましいはずの影響過程が、しばしば社会的に悪と見なされてきた。
予想外の選挙結果が生じた場合によく目にする「人々がマスゴミに騙された」「SNSに踊らされた」という言葉は明らかに否定的なニュアンスを帯びているが、情報に接触することで人々の意見が変わることそのものは、否定されるべきものではない。
ここでポイントとなるのは「熟議・熟慮(deliberation)」という視点である。
一方で、人々が表面的な情報によって簡単に操作されてしまうならば、特定の勢力によって間違った方向に世論が誘導されてしまう危険性がある。第二次世界大戦前におけるファシズムの台頭は、この典型例として語られている。
メディアは人の意見を「変える」のではなく「強化」する
しかし、実際には人々はそう簡単には意見を変えない、少なくともメディアの影響によって意見を変えることは少ないというのが、人々の投票行動を追いかける社会調査データが示してきた結果である。我々の直感とデータが食い違う理由の第一は、人々がまっさらな状態で情報に接触するわけではないということである。人々には好きな政党もあれば嫌いな政党もある、支持できる意見もあれば支持できない意見もある。となれば、自分の考え方を脅かすような情報よりは、自分の考え方が正しいと思わせてくれるような情報に優先的に接触したいと思うのは自然なことである。
また、仮に、自分の考え方と異なる情報に接触したとしても、それを否定する、または都合よく解釈することで、もともとの立場を守ろうとする。したがって、メディアの影響の中心は人々がもともと持つ「意見の強化」であり、「意見の変更」ではない。
理由の第二は、人間は自分と同じような意見を持つ他者や集団に囲まれているということである。人間は「社会的動物」であり、孤立した状態でメディアに接触するわけではない。受け取った情報について、周囲の人々、近隣地域や同じ職場の人々と語り合う中で、意見を変える必要があるかを判断する。
ふだん会話をする人々が自分と同じ意見を持っているならば、たとえメディアが異なる意見を伝えたところで、会話の中で否定され、人々の意見を変えるには至らない。
これらの知見は、マスメディアが人々にもたらす影響について研究する「メディア効果研究」という分野において得られたものだが、2000年以降に急速に普及したインターネットというメディアにおいても状況は変わらなかった。むしろ、インターネットはマスメディア以上に、人々の意見を変えるのではなく強化する効果が強いとされてきた。
まず、初期のインターネットはテキストによる情報発信が中心であり、また、膨大な情報の海から求める情報を検索する必要があった。さらには、マスメディアのような「一方向的」なコミュニケーションではなく「双方向的」なコミュニケーションに特徴付けられるとされていた。
これらの特徴はマスメディア、中でもチャンネルを合わせれば自動的に映像が流れてくるテレビと比べると、強い能動性が求められることを示している。人々は偶然に接触するならともかく、コストをかけてわざわざ自分と異なる意見を能動的に求めることは少ないため、インターネットは人々の意見を変えるのではなく強化することが多いとされてきた。
また、2010年前後から急速に普及したSNSにおいては、同じ意見を持つ者同士がつながりやすい。わざわざ自分と異なる意見を発信するユーザーをフォローし続けるのは不快であるということに加えて、サイトのアルゴリズムによっておすすめされるユーザーも自身と同じ意見を持つ者が多かった。
これらの特徴によって、人々が自身と異なる意見に接触する機会が減少するからこそ、「インターネット(SNS)による社会の分断」が大きな問題となったのである。つまり、「社会の分断」は、メディアを通じて接触する情報によって人々の意見が変化することではなく、変化しないことによって生じる問題である。
意見を変えてしまう「ショート動画」の異質性
しかし、近年の日本において、SNSを通じたショート動画への接触によって生じている問題は、これらとはまったく異質だと考えられる。まず、次々とスマートフォンの画面に流れてくる1分程度のショート動画を視聴するのは、テレビ視聴以上に受動的な行為である。また、近年のSNSでは、自身がフォローするユーザーの投稿だけに接触するのではなく、プラットフォームが“おすすめ”する投稿に接触することが一般的になっている。
しかも「インターネットによる社会の分断」という指摘を受けてか、おすすめされるのは必ずしも同質的な意見ばかりではない。こうなると、メディアが人々の意見を変える力を制限してきた仕組みは働きにくくなる。
実際、著者が昨夏の参院選時に取得した縦断調査データにおいて、ショート動画が投稿されるSNSに接触する量が、投票先の変更を明確に予測していた。なお、SNSへの接触が有利に働いたのは、国民民主党や参政党であった。
このように、特定のメディアへの接触が有権者の投票先の変更を予測するという結果が示されることは、これまでの研究ではまれであり、著者にとって予想外の結果であった。
2月に突如実施された衆院選においては、参院選時のように投票先の変更を直接追跡できるデータは取得できなかったが、SNSへの接触量と自民党への投票が正の関連を持つというデータは存在している。
これは、SNSが自民党に対して有利に働いたという巷説(こうせつ)と矛盾しない。若年層ほどマスメディアへの接触が少なく、SNSやショート動画への接触が多いことを考えると、この動きが自然と反転することは考えにくく、世代交代とともに、今後もこれらのメディアの影響力は強まっていくと考えられる。
SNSの「影響力」に対策が必要な理由
冒頭で述べた通り、メディアを通じた情報接触によって人々の意見が変わること自体は、必ずしも悪いことではない。また、参院選と衆院選の違いに表れているように、ショート動画やSNSが常に同じ政党に有利に働くというわけでもない。メディアの影響力を即座に第二次世界大戦時のようなファシズムと関連づけてしまうのは、短絡的である。しかし、影響力の実態を考えると「問題なし」とは言い切れない。
まず、ショート動画というあまりに短く、能動性を必要としないコンテンツが次々と目の前に流れてくる状況は、人々の熟議・熟慮を促すとは言い難い。
また、マスメディアはその「社会的影響力」ゆえに、発信する情報の正確性が求められてきたのに対して、SNS上での個人の誤情報・偽情報の発信・拡散に対して、それを制限・検証する仕組みは弱い。
仮にSNS全体がマスメディア以上の「社会的影響力」を持つとしても、情報の発信・拡散を行っているのが個人である以上、「表現の自由」の観点から、それ自体を縛ることは難しい。
規制の対象となり得るのは、既に法的規制の下にある巨大プラットフォームであろうが、誹謗(ひぼう)中傷・人権侵害といったケースとは異なり、発信された情報が選挙結果を不当に歪める誤情報・偽情報であるか否かを判定することは、困難を極める。おそらくその判定がなされる頃には少なくとも既に情報が広がってしまっており、場合によっては選挙結果すら確定しているであろう。
民主主義国家におけるSNSの規制は、マスメディアの規制とは比べ物にならないほど困難である。その一方で野放図にしてよいといえるほど、現在のSNSの「社会的影響力」は弱くない。選挙運動における法的ルールの整備、技術的な対処、SNSで発信される情報に対するリテラシーの向上、といった考え得る対策を丁寧に組み合わせることが求められているのである。
■稲増一憲(いなます・かずのり)
1981年東京都生まれ。東京大学文学部卒業。同大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(社会心理学)。

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