「ただいま、後方の化粧室で喫煙された形跡がございました」——客室乗務員(CA)のアナウンスを収めた動画が、SNS上で波紋を広げている。
話題になったのは旅行系YouTuber・おのだ氏が3月17日にXへ投稿した映像だ。
ハッシュタグには「ANA NH181便」とあり、米ハワイ・ホノルルから成田へ向かう全日空の国際線、2月11日のフライトでの出来事だったとされる。おのだ氏は「私が見る限り名乗り出ている人はいなかった」と補足した。
「この令和の時代に機内でタバコを吸う奴がいるんですね」「高度1万メートルの密閉空間で火災が起きれば逃げ場はない」といった驚きの声がSNS上に広がったが、そもそも機内喫煙は法律でどのように規制されているのだろうか。

90年代末に国内線の完全禁煙を達成

日本の航空機内禁煙の歴史は1988年にさかのぼる。日本航空(JAL)が羽田=伊丹など3路線で「国内線初」の全席禁煙を導入し、1990年には飛行時間2時間以内の路線へ拡大。さらに1998年には飛行時間2時間超の路線を含む全国内線の全面禁煙化を実施した。
JALは1998年9月の報道資料で「多くのお客様から全席禁煙への強いご支持を頂いた」「世界の禁煙化の流れに鑑み」との理由を明記。翌1999年4月には国際線も全面禁煙化した。
全日本空輸(ANA)も同じく1998年10月1日に国内線の全面禁煙化を実施しており、日本の主要航空会社は90年代の終わりに国内線の完全禁煙を達成したことになる。

「喫煙行為そのもの」は違法ではないが…

ところが2002年3月の定期航空協会の資料には次のように記載されている。
「近年航空機の安全運航を阻害する機内迷惑行為が急増しております。
その数はこの4年で5倍となっており、2001年の発生件数は一日平均1件を超え、年間416件(JAL/ANA/JAS合計)にも達しました。
とりわけ機内禁煙ルールを無視した化粧室内喫煙、使用制限時間帯中の電気・電子機器類の使用、過度の飲酒等を原因とした暴力・威嚇行為は顕著な増加傾向を示しております」
こうした理由から、定期航空協会は「機内迷惑行為を規制するための立法措置が必要」と結論づけていた。
その後、2003年3月、政府は「航空法の一部を改正する法律案」を衆議院に提出。
5月21日の衆議院国土交通委員会で扇千景国土交通相(当時)は「近年、トイレでの喫煙その他の安全阻害行為等が急増していることから、これを抑止し、航空の安全を確保する必要が高まっている」と提案理由を説明した。
法案の骨子は3点だ。第一に、航空機内にある者は「安全阻害行為等」をしてはならないとする禁止規定の創設。第二に、機長がこれらの行為をした者に対し「繰り返してはならない」と命令できる権限の付与。第三に、命令違反者への「50万円以下の罰金」の設定である。
ただし、改正案が罰則の対象としたのは機長の命令への「違反行為」にとどまっており、「喫煙行為そのもの」ではない(航空法73条の4第5項、150条)。
その後の審議では、「乗務員への妨害行為」の明文化と、施行3年後の見直しの義務づけを追加した修正案が超党派により共同提出され、衆参両院ともに全会一致で可決。2003年7月11日に「航空法の一部を改正する法律」として成立、2004年1月に施行された。

「すべての喫煙器具」が禁止に

なお、電子たばこや加熱式たばこの普及を受け、国内の航空各社は2020年7月1日付で運送約款を改訂し、「すべての喫煙器具」を禁止対象として明確化。化粧室での使用は航空法上の「安全阻害行為等」に当たるとして、罰金規定の周知を図っている。
地上での喫煙スペースが年々縮小される中、多くの愛煙家にとって長時間のフライトが「我慢の時間」であることは想像に難くない。
しかし、高度1万メートルの密閉空間では“たかが一服”が航空法上の安全阻害行為となり、機長の禁止命令に従わなければ50万円以下の罰金という前科リスクを招く。

「知らなかった」では済まされないリスクを改めて認識し、責任ある愛煙家として行動することが求められている。


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