政府が紙の教科書と同列に扱う「デジタル教科書」の関連法案を7日、閣議決定した。デジタル教科書を紙と同等の「教科用図書」とみなし、検定や無償配布の対象とすることなどが明確化された同法案。
成立すれば、2028年度の教科書検定を経て、次期学習指導要領が実施される2030年度の小学校教科書から順次導入される見通しだ。
現行の学校教育法などにおいて、検定や無償配布の対象となる正式な「教科用図書」は紙媒体のみ。デジタル教科書はあくまでもそれに代わる「代替教材」という位置づけとなっている。

本格的なデジタルシフトへの最終ステップ

法案が成立すれば、デジタル教科書は「正式教科書」に“格上げ”され、今後は「紙のみ」「紙とデジタルのハイブリッド」「完全デジタル」の3形態から教育委員会や学校が選択できる体制となる。
“正式化”まで残り4年弱あるが、公立の小中学校では、全国の小中高校にデジタル環境を整備するべく文科省が推奨している「GIGAスクール構想」により、ほぼ100%の端末整備が完了(2022年度末)。学校内無線LANの整備率も95%以上に達し、インフラ面の整備は概ね完了している。
今回閣議決定された関連法案は、デジタル環境の整備段階から、より教育効果を高めるための本格的なデジタルシフトへの最終ステップとなる。

デジタル教科書正式化で何が変わる?

では、デジタル教科書が紙と同等になることで、具体的に、何が変わるのか。これまでは紙の教科書の内容をそのままデジタル化し、そこに音声機能などをつけただけのものだった。国の検定対象が紙の教科書に限られていたからだ。
法改正されれば、デジタル教科書としてのコンテンツが国の検定(正確性や中立性など)の対象となり、デジタルの良さを存分に生かした真の教科書デジタル化がいよいよ実現することになる。
すでに正式化へ先立ち、デジタル教科書を活用した実証実験も行われており、その効果が報告されている。
文部科学省が実施した「令和6年度 学習者用デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究」の大規模アンケート調査およびヒアリング調査によれば、以下のような効果が確認されている。
  • 児童生徒の学力・学習意欲へのポジティブな効果
  • 教師の授業負担の軽減
  • 学習場面ごとの紙とデジタルの使い分けによる効果
  • 特別な配慮が必要な児童生徒への効果
実証データからはこのように、単に「デジタル化」するだけでなく、使用頻度を高め、学習場面(個別・協働・一斉)や児童生徒の特性に合わせた効果的な使い方をすることが、学力や意欲の向上、教師の負担軽減に繋がることが明らかになっている。

一方で、以下のようなマイナスな側面や導入・運用における課題も見出されている。
  • 児童生徒の健康面への影響(姿勢・視力)
  • 児童生徒から見たシステム面の「使いづらさ」
  • 「書き込み」や「記録」における紙の優位性
  • 教師の新たな業務負担の発生
  • 導入時の設定作業やシステムトラブルによるストレス
このように、学習意欲や理解度を向上させるメリットがある反面、児童生徒の健康面への影響やシステム・操作上のトラブル、教師の新たな評価・準備負担の発生といったマイナスな側面も実証データから明確に示されている。

先行の諸外国ではアナログ回帰も

日本に先立って教科書デジタル化へ舵を切った諸外国の現状も無視できない。北欧フィンランドは1990年代からデジタル化を導入。以降、国際学習到達度調査(PISA)での好成績が年々下落し、現在ではアナログ回帰の動きに傾いている。
PISAでトップクラスのシンガポールは、心身未発達の子どもに悪影響が及ぶことを懸念し、低年齢層(小学校低学年など)におけるスクリーンタイムの制限を強化。2025年にデジタル教科書の配布をスタートした韓国も、鈍い浸透率で推移しているのが実情だ。

求められる柔軟なスタンス

すでに動画や音声などのデジタル機能に囲まれる世代にとって、教科書デジタル化は自然に受け入れられるだろう。だが、それが子どもたちの“学び”にどのような影響を与えるかは、多様な視点から慎重に考える必要がある。
たとえば、デジタル教科書の導入については、デジタル画面特有の「浅い読み」になりやすいという指摘や、視力低下などの健康面への懸念も根強い。実際、大学生を対象とした富山大学の調査でも、「記憶」や「集中」の面では紙学習の方が優れており、デジタル学習は眼の疲労が強いという結果が示されている。
先行導入の海外事例では揺り戻し現象が起こっている事実もある。日本はどうなるのか…。
10日には、有識者による「デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議」の初会合が開催された。
会合の冒頭であいさつした松本洋平文部科学大臣は「これから国会で法案を審議をしていただくこととなるわけですが、子どもの発達段階や教科特性を踏まえ、各分野の有識者の皆様方に、児童生徒の発達段階や、教科特性を踏まえたデジタルを含む教科書の活用、健康上の留意点などにつきまして、委員それぞれからの知見をいただきたい」と述べ、多様な視点からの丁寧な議論に期待を寄せた。 同会は秋ごろまで続けられ、デジタル教科書を効果的に活用するための教育指針や、教科書そのものの編集に関するルール作りなどが議論される。


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