クマが人間の生活圏まで相次いで出没した理由は何なのか?その答えを求めて、岐阜県高山市に向かった。ただ、それは国や専門家らとは真逆の答えだった。



高山と言えば、飛騨の小京都と呼ばれ、外国人観光客が押し寄せる人気観光地だが、今年はクマも多数姿を見せた地域だ。

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冬眠に入るクマは歩いた痕跡を消す

その高山市内で親子で猟師を生業としている脇谷雅彦さん(64)と息子の将斗さん(39)を取材した。父はこの道46年、若手の教習射撃指導員をしている大ベテラン。

息子は、父の猟をする背中を追いかけてきた若手猟師で、約10年のキャリアを積んでいた。2人とも地元の猟友会のメンバーであり、市街地でも引き金をひく可能性もあるため、経験と実績、そして何より的中率の高いウデが必要な緊急銃猟の中心的な猟師だ。

なぜ2025年はクマ被害相次いだ?猟師が感じる“違和感” 冬眠に入るクマは歩いた痕跡を消す… “唯一の天敵”猟師から身を守るため【大石が聞く】
CBC

2人と共に真っ白な山に向かった。麓の積雪は20センチ程度だったが、山はその2倍近い積雪となっていて、太陽に照らされキラキラ輝いていた。父はライフルを、息子は散弾銃を背負って、標高1000メートル以上の山に入ると、ニホンカモシカが木々の間から顔を出していた。小動物の足跡もいくつかあったが、クマの足跡は見当たらなかった。

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新たに雪が積もったからとも考えられるが、そもそも冬眠に入るクマは歩いた痕跡を消すという。理由は猟師から仕留められないためだ。野生の世界では無敵のクマの唯一の天敵は、クマの領域に入ってくる猟師なのだ。

もともと警戒心の強いクマを、より慎重にさせたのは猟師の存在かもしれない。

足跡こそなかったものの、実は、まだ冬眠していないクマもいると聞き、リスクを考えて下山した。

罠のドラム缶を破って逃げた強者も

クマの罠も見せてもらった。ドラム缶を利用したトンネル型の仕掛け罠で、入り口付近には好物のハチミツを置き、さらに行き止まりのトンネルの奥にもハチミツを置いて誘導する作戦だ。

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奥にあるハチミツ付近には、踏み台の様な板があり、それを踏むと後方の鉄板が落ちて、クマが閉じ込められるという。ただ、爪が鋭く、牙も鋭利で噛む力も強いため、そのドラム缶を内側から破って逃げた強者もいたという。

その罠を見せてもらったが、鉄製のドラム缶が1メートル近く裂けている様を見て、クマの破壊力を実感せずにはいられなかった。その裂けた穴の周辺には真っ黒なクマの体毛が付着していて、猟師から逃げようとする必死さも伝わってきた。果樹園などからの要請を受けて罠を仕掛けるというが、今年は例年の倍近い5頭が罠にかかったという。

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「クマは増えていない」

しかし、脇谷親子は、山や罠でクマを仕留めたりする中で、ある違和感を覚えていた。実は、自分たちが管理している山の中ではクマは増えていないというのだ。

一方で専門家らの一般的な見解はこうだ。去年はドングリなどが豊作でクマも出産ラッシュとなり、頭数が増えたが、今年は凶作だったため、エサが足りず、人里まで降りてきたのでないか。しかし、クマ猟師として連日山に入る脇谷親子は「クマの絶対数は変わっていないのではないか」と推測している。

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資料

ただ、エサがないため人里へやってきていて、そこで人目に触れるため、クマが増加していると錯覚しているのではないかというのだ。

去年産まれたクマが多いのなら、山でも罠でも相対的に若いクマが捕獲されるケースが多いはずだが、仕留めるクマはほとんどが5歳以上だからという。もちろん、東北を中心に全国的に増加傾向にあるクマだが、猟師が定期的に山に入る地域によっては、事情が異なるのかもしれない。

人を襲う被害が出ているため、駆除は必要かもしれないが、行き過ぎた駆除はクマの過度な減少を招くのではないかと、猟師の脇谷親子は不安を口にしていた。

皮を剥がされたクマ 

山の麓にあるクマの解体工房にも潜入した。扉を開けると、皮を剥がされたクマが吊るされていた。内臓も取られ、血抜きも済ませ、解体を待つばかりのクマで、体調1メートル、体重は約100キロ。全身の9割は淡いピンク色に染まっていたが、それが脂肪で、冬眠を前にエサを食べ脂が乗った状態になっていた。

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この脂肪があるから、これをエネルギーに変えながら、長い冬眠にも耐えられるというのだ。ただ、この脂の乗り具合を見て、山の状況が見えるのだと教えてもらった。

この脂の厚みが10センチほどあれば、エサを充分食べたクマ。僅か数センチしかなければ、あまりエサを食べられなかったクマという証なのだ。

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私が目の当たりにしたクマは、全体的に脂は薄く、エサは充分には食べられなかったと思われる。だから、エサを求めて人里まで降りてきたのだが、そこで捕獲されてしまったのだろう。

解体したからこそ分かる、今年の山とクマのエサ事情ということか。

クマしゃぶしゃぶ どんな味?

脇谷さんが手掛けるジビエ料理店も訪れ、クマしゃぶしゃぶ、串焼き、ソーセージを頂いた。血抜きが巧みだからか、臭みはなく、弾力や甘みもあり、赤身の牛肉に似ていた。

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クマしゃぶしゃぶを見て驚いた。脂が10センチほどあり、赤身の部分は僅かだったからだ。これはエサもよく食べられ、あとは冬眠に入るのを待つばかりのクマだったのだろう。融点も低いため、口溶けもよく、甘みと旨味が凝縮されていた。

あの野性味溢れる姿とは想像がつかないほど、繊細で上品な味だった。その味を堪能しつつ、あることが脳裏に浮かんだ。「本当は山で暮らしたかっただろう」と。

クマが冬眠から目覚める前に…

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自衛隊や警察も出動し、自治体独自の判断で緊急銃猟も行われた2025年。しかし、それはあくまでも対症療法であり、駆除するだけでクマ対策の根本的な解決には至っていない。

以前のように、クマと人間が共存する暮らしを復活させるにはどうすればいいのか?クマが眠りから覚める前に考えたいものだ。

これを解決しない限り、来年2026年もクマに振り回される1年になるのは間違いないだろう。

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