スポーツ指導における選手へのハラスメントは「スポハラ」と呼ばれています。暴言が当たり前だったのは昔の話。
(コーチ育成者)
「暴力・暴言は、指導の手段ではありません」
体育館に集まり「暴力・暴言」について学ぶのは、学校や地域でバスケットボールを教える指導者たち。
暴言がダメなのは当たり前ですが、こと「競技スポーツ」の世界では、勝つための指導が「暴言」と受け止められてしまうことも。
(指導歴6年 高校・受講者)
「私もよく言ってしまう『なんで(怒)』と。うまくいかない時に『なんでそうなるの』と言うのは暴言か」
(指導歴4年 高校・受講者)
「人格を否定するような『必要ない』とか『だめ』とか『下手くそ』」
「暴言とならない指導」コーチが学ぶ“伝え方”
日本バスケットボール協会公認の、C級コーチ養成講習会。中高生を教えるコーチには、ライセンス取得が推奨されています。
3日間かけて行う座学4時間半、実技13時間半のプログラムで、コーチ力の向上を目指しますが、重点課題は暴言とならない指導です。
(愛知県バスケットボール協会 石塚康裕事務局長)
「『さっき言っただろ』『前に教えた』だけではなく、子どもが頑張れるように、話し方・伝え方・質問の仕方が大事」
2024年 スポハラの相談件数が過去最多に
背景にあるのは、スポーツハラスメント。いわゆる「スポハラ」。
2024年、選手や保護者から日本スポーツ協会に寄せられたスポハラの相談件数は、過去最多の536件に。これは実数が増えたというよりも、指導でも暴言はNGだという認識が広まり、相談しやすくなったためと考えられています。
(地域で小学生を指導 受講者)
「バスケットの特性上、大きな声を出さないと聞こえないので、勘違いされるんですよ。大きな声を出すと怒っていると。『大きな声を出すけど怒ってないよ』と伝えています」
(過去に大学生を指導 受講者)
「『バカ』『アホ』は大丈夫かなと。
(指導歴6年 高校・受講者)
「子どもたちは勝ちたいと言うけれど、精神的な追い込み方は良くないし、反感の声が上がってくる経験もある。難しいところ」
「子どもがどう思っているか分からない…」指導の悩みも
どこまでが指導で、どこからがハラスメントなのか。7年ほど前から、日本バスケットボール協会はコーチングの講習会で、技術面だけでなく“スポハラ”とならない教え方にも重点を置くようになったのです。
(コーチ育成者)
「怒っちゃいけない、怒鳴っちゃいけない、いけないことばかり。じゃあどうしたら良いのか。答えをこの講義から学んでいく」
参加者の1人、愛知県の岡崎工科高校でバスケットボール部の顧問をしている小出先生も、子どもたちへの指導に悩みが。
(高校教諭 指導歴4年 小出恭佑さん)
「難しいと感じるのは、(子どもが)どう思っているか分からない。モノが少し飛んだ音だけで『怒っていると思った』という事例が他校である」
指導が伝わらない→口調が激しくなる“悪循環”
図形の形や配置を言葉だけで相手に正確に伝える練習。
(小出さん)
「右斜め上に一本線を引いてください。マルの下から右斜め上に一本線を引く」
参加者は、自分のイメージを言葉で正確に伝えるのが、簡単ではないことを実感します。
(コーチ養成者)
「コーチの言っていることが、イメージできず困っている子どもに、『なんで分からないんだ』と怒ってしまうことがあるかなと」
伝わらないと口調が激しくなり、言われた方は暴言だと受け止めるという悪循環に。
指導方法「GOOD・BAD・NEXT」とは?
これを避けるために、まず褒めて、その後に悪い点を指摘し、次にすべきことを伝える「GOOD・BAD・NEXT」という方法があります。
また、目標の達成にはどうしたらいいのかを「自分たちで考えさせる」方法も。受講者は、けん玉の連続成功を目標に実践しました。
(コーチ役)「どの辺が難しい?」
(子ども役)「連続で3番目なので緊張しちゃう」
(コーチ役)「緊張してしまう時はどうしたらいい?」
(子ども役)「順番を変えたらいいと思う」
怒鳴ったり大声を出さなくても、選手が理解し上達できる方法を学びます。
(愛知県バスケットボール協会 石塚事務局長)
Q.新しい教え方に変わったからといって競技レベルは落ちない?
「落ちていかないと思います。逆に工夫して考えて、教えようとしていくと期待している」
部活が大好きだった弟が自殺…
(弟が不適切な指導で自死 はるかさん)
「あんなに部活や友達が大好きで、笑顔がたくさんだった悠太が、泣きながらひとりで自殺という形で亡くなっていったことが本当に悲しい。学校に文句が言いたいのではなくて、どうすれば不適切指導をなくしていけるのか、一緒に考えていただけたら」
スポーツの指導者も多く輩出する日本体育大学では、厳しすぎる指導が時に悲劇をもたらすことを学生に学ばせています。
この日は、体育の授業の指導をきっかけに自殺未遂をした男性と、不適切な指導で自殺した男性の遺族が、当事者の苦しみを伝えました。
「気が付くと死にたいと思うようになりました」
(自殺未遂をした男性)
「バッドを持って大声で怒鳴りつけるZ先生に対する恐怖心。大勢の生徒が見ている前で叱責されたことの恥ずかしさ。両親が悲しむ姿を想像したときの不安感。いろいろな感情が入り乱れ、頭の中がごちゃごちゃになってしまった。気が付くと死にたいと思うようになりました」
(日体大生)
「思い込みで相手の言い分を聞かずに叱責するのは、やってはいけないと思いました」
「いまは厳しいことを言って伸ばすより、良いところを見つけて伸ばしていく方向。それを意識して過ごしたい」
(日本体育大学 南部さおり教授)
「自分の好きなスポーツを子どもに伝えたいという熱意があってこそ、指導者をしているのであれば、今の子どもに合った声がけを学んでいただきたい」
バスケ部顧問「学ばずにいたら『なんでできない?』ばかりだった」
講習会から2か月後、岡崎市の高校でバスケ部の顧問を務める小出先生は…
「いま目の前の光景を見て、考えるべきことは?ディフェンスオフェンスの位置を見て」
「最後どれくらいスペースあったか分かる?」
「もっと攻める感じ。そうそうそう!押し込むのは全然いい」
「ナイス!ナイス!」
『考えさせる→気付かせる→次の行動を提案→ほめる』など、講習会で学んだことを指導に取り入れていました。
(高校2年生 キャプテン)
「怒鳴るのではなく、一から教えてくれると、選手にプレッシャーがかからずやりやすい」
(高校2年生 バスケ歴2年)
「良いところはしっかり言ってくれるし、悪いところはひとつひとつ細かく言ってくれる。チームとして直せるのでいいです」
(小出さん)
「僕が学ばずにいたら『なんでできない?』ばかりだったと思う。意識ができる点で全然違う。
上達する喜びや充実感を一人一人が得られるよう、スポーツの指導のあり方が変わりつつあります。
CBCテレビ「newsX」2026年3月4日放送より

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