無意識の偏見・思い込みを意味する「アンコンシャスバイアス」。アンコンシャスバイアスは、日常生活や職場など、さまざまな場面で起こるとされています。
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アンコンシャスバイアスとは(unconscious bias)とは?
アンコンシャスバイアスとは、「無意識の偏見・思い込み」を意味する言葉です。「自覚しない、無意識の」を意味する「unconscious」と、「偏見、先入観」を意味する「bias」が組み合わさってできました。アンコンシャスバイアスは、過去の経験や日々接する情報、周囲の意見などから無意識のうちに形成されます。アンコンシャスバイアスは「誰にでもある」もののため、日常生活や職場などさまざまな場面で見られるとされています。代表的な例としては、「男性/女性は、当然●●であるべきだ」「若者/高齢者は、▲▲な人ばかりだ」といった無意識の偏見・思い込みがあります。
アンコンシャスバイアスが生じる理由
アンコンシャスバイアスが生じる背景の一つとして、脳の情報処理の特性が挙げられます。

私たちの脳は、「意識的に処理するか」「無意識に処理するか」で処理できる情報量に大きな違いがあります。「意識的」に処理できる情報量は「8~40ビット毎秒」である一方、「無意識」で処理できる情報量は「1,100万ビット毎秒」とされています。
アメリカの行動経済学者・心理学者であるダニエル・カーネマンは、無意識で行う速い思考・直感的思考を「システム1」、意識的に行う遅い思考・熟慮思考を「システム2」と定義。日常生活において、私たち人間は、脳のエネルギー消費が少なく、素早い判断・行動につながる「システム1」を基に、ほとんどの判断をしていると指摘しています。一方、「システム1」だけで情報処理ができない場合には、脳のエネルギー消費が大きい「システム2」に応援を要請する形になっているそうです。
人は過去の経験や見聞きしたこと、学んだことなどを基に、「システム1」で素早い判断を行おうとします。しかし価値観や生活様式の多様化した現代では、速い思考だけでは対応しきれないことがたくさんあります。本来「システム2」で熟考をしなければならないことも、「システム1」だけで処理されてしまうことによって、時としてバイアスのかかった認知や判断につながってしまうことがあるようです。
(参考:ダニエル・カーネマン著『ファスト&スロー(上下巻)』早川書房)
アンコンシャスバイアスは良くないものなの?
アンコンシャスバイアスを持つこと自体は問題ではありません。大量の情報を素早く処理する「速い思考・直感的思考」に不可欠なものであり、アンコンシャスバイアスがうまく機能すれば、脳は少ないエネルギー消費で情報処理しやすくなるとされています。
しかし、アンコンシャスバイアスは必ずしも「全員にとって正しいもの」「実態に即したもの」とは言えません。そうした側面を理解していないと、「アンコンシャスバイアスを周囲に押し付けてしまう」「実態に即していないとわかってもすぐに訂正できない」といったことが起きます。その結果、自分自身や周囲のキャリアに悪影響を及ぼしたり、組織の多様性が阻害されたりする可能性があります。アンコンシャスバイアスがネガティブに機能することがないよう、十分に気を付けましょう。
なぜアンコンシャスバイアスが注目されるようになったのか?
アンコンシャスバイアスは、2010年代に入り、注目されるようになりました。アメリカの大手IT企業において、従業員の「人種」や「性別」の構成比に偏りがあることが明らかになったのが、きっかけです。「問題の背景にアンコンシャスバイアスがある」と指摘されたことを受け、アメリカの大手IT企業は、アンコンシャスバイアスの解消に向けた取り組みを重点的に実施。それにより、人々の「多様性(ダイバーシティー)」を認め、全ての人に情報や機会、リソースなどへのアクセスを公正に保証する「公正性(エクイティー)」を担保し、人々の多様性を受け入れる「受容・包含(インクルージョン)」を進めていく「DEI(Diversity、Equity、Inclusion)」の動きが世界的に広がっていきました。
近年、日本では、「在宅勤務」や「短時間勤務」、「女性管理職」や「外国人社員」「高齢者の再雇用」など、「働き方」や「属性」の多様化が進んでいます。
(参考:『ダイバーシティーとは何をすること?意味と推進方法-企業の取り組み事例を交えて解説-』)
さまざまなアンコンシャスバイアスの具体例
「アンコンシャスバイアス」と一言で言っても、実際にはさまざまなパターンがあります。日常的にも起こり得るアンコンシャスバイアスの典型的な例を6つ紹介します。

正常性バイアス
正常性バイアスとは、危機的な状況下でも、自分にとって都合の悪い情報やデータを「無視」「過小評価」すること。正常性バイアスが作用することにより、問題が起こっているのにもかかわらず「大丈夫、問題ない」と思ってしまい、問題への対処が遅くなります。
正常性バイアスの例
●災害警戒情報が出されたエリア内に住んでいるにもかかわらず、「我が家は大丈夫」と情報を無視し、避難が遅れる。
●業界全体の業績が悪化していても、「自分の会社は倒産しないだろう」と根拠なく思い込む。
アインシュテルング効果
アインシュテルング効果とは、慣れ親しんだ考え方・視点に固執し、他の考え方や視点を「認識しない」または「無視してしまう」こと。アインシュテルング効果が作用すると、新たなアイデアが生まれにくくなります。
アインシュテルング効果の例
●チェスの定石にとらわれるあまり、定石以外の方法に気づけなくなる。
●過去の成功体験にこだわり過ぎてしまい、新しい方法を試そうとしない。
確証バイアス
確証バイアスとは、自分の仮説や信念、価値観などの正しさを証明する情報ばかり集め、反証する情報や意見を「無視する」「集めようとしない」こと。確証バイアスが作用すると、客観的・科学的な事実が否定されるため、間違った意思決定をしてしまいます。
確証バイアスの例
●相手の血液型がA型だとわかると、A型の性質として特徴的と言われる「几帳面さ」が目につき、「A型は几帳面」が正しいと認識する。
●抗がん剤治療に消極的な患者が、抗がん剤のリスクやデメリットばかり検索し、「抗がん剤は危険な薬だ」と確信する。
ステレオタイプバイアス
ステレオタイプバイアスとは、「性別」や「年齢」「国籍」「職業」といった属性ごとに特定の特徴があるとステレオタイプ的な判断をすること。ステレオタイプバイアスが作用することにより、多様性が否定されてしまいます。
ステレオタイプバイアスの例
●医師や政治家は「男性」、保育士や看護師は「女性」の職業だと思い込む。
●外国人は自己主張が強くて、マイペースな人ばかりだと思い込む。
慈悲的差別
慈悲的差別とは、少数派に対して、「好意的」ではあるものの「勝手な思い込み」をすること。慈悲的差別は、無意識・無自覚な差別とも言えます。
慈悲的差別の例
●体力に問題がなくても、「高齢者」や「女性」には重いものを一切持たせない。
●体調にまったく問題がないにもかかわらず、「妊娠中」だからと残業を一切認めない。
ハロー効果
ハロー効果とは、「好意」や「親近感」を抱いた人に関する「全てのこと」を好意的に捉えること。ハロー効果が作用すると、人の本質を見極めるのが難しくなり、誤った評価をしてしまう可能性があります。
ハロー効果の例
●選挙の際、「自分の好きな芸能人だから、日本をよい国にしてくれそう」と思い込み、投票する。
●「自分と同じ趣味を持つ人だから、よい人だろう」と思い込み、怪しい誘いに乗る。
この他にも、集団の意見に合わせたり、周囲と同じ行動をしようとしたりしてしまう「集団同調性バイアス」や、自分自身を過小評価し、可能性をせばめてしまう「インポスター症候群」などのアンコンシャスバイアスがあります。
アンコンシャスバイアスに関する実験事例
アンコンシャスバイアスに関する実験事例を紹介します。
オーケストラのブラインド・オーディション
実験の概要
1970年代、「音大を卒業する女性は多いにもかかわらず、楽団員はほぼ男性」という状況だった。この状況に疑問を感じた米国の楽団は、オーディションの際に、演奏者と審査委員の間にスクリーンを設置し、演奏者の性別をわからなくした。審査委員は、演奏者の奏でる音のみを基準に、合格者を決めた。
結果の概要
女性の合格率が「50%」も上昇。その後、米国オーケストラの女性比率は増え続け、現在は男女比が「6対4」となっている。
この実験結果から、これまでのオーディションでは「男性を過大評価」「女性を過小評価」するアンコンシャスバイアスが働いていたことが明らかになりました。
ハイディ・ハワード実験
実験の概要
職場における「男性像」「女性像」を確かめるため、コロンビア大学ビジネススクールのフランク・フリン教授とニューヨーク大学のキャメロン・アンダーソン教授が2003年に行った実験。実在する女性起業家ハイディ・ロイゼンに関するケーススタディーを、コロンビア大学ビジネススクールの学生たちに読んでもらった。学生たちは2グループに分かれ、「第1グループ」は原文のまま、「第2グループ」は主役の名前だけを女性名の「ハイディ」から男性名の「ハワード」に変更したものを読んだ。
結果の概要
ハイディ(ハワード)の「能力」については、被験者のグループによる違いは見られず。しかし、「ハワード(男性名)」については「好ましい同僚」と評価された一方、「ハイディ(女性名)」については「自己主張が激しく、自分勝手」だと評価され、「一緒に働きたくない」「自分が経営者だったら採用しない」 人物とみなされた。その背景として、「男性は、仕事に注力するもの」「女性は、家事・育児に励むもの」といったアンコンシャスバイアスの存在が挙げられた。
(参考:シェリル・サンドバーグ 著『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』日本経済新聞出版)
この実験結果から、性別に基づくアンコンシャスバイアスの影響により、「成功」と「好感度」が男性の場合には正比例、女性の場合には反比例の関係にあることが立証されました。
職場で起こるアンコンシャスバイアスの具体例
職場ではどのようなアンコンシャスバイアスが起こり得るのでしょうか?とりわけ人事やマネジメントといった場面における、特徴的なアンコンシャスバイアスの事例を紹介します。

採用場面でのよくある事例
採用場面では、以下のようなアンコンシャスバイアスが考えられます。
採用場面における例
●「自分と似た人」や「同じ大学出身の人」を優遇して、採用する。
●「体育会系のサークル出身だから、根性があるだろう」と思い込み、採用する。
●「女性には、総合職よりも一般職の方が向いている」と思い込み、女性を一般職としてしか採用しない。
●「介護や育児と仕事の両立はできないだろう」と思い込み、介護中・育児中の人を採用しない。 など
人事評価でのよくある事例
人事評価では、以下のアンコンシャスバイアスが想定されます。
人事評価における例
●「直近に成果を出した人のみ」を、高く評価する。
●仕事とは直接関係のない「性別」や「年齢」「国籍」といった属性に基づき、評価する。
●「自分と気の合う部下」や「同郷の部下」に対しては、たとえ成績が今一つでも、高く評価する。
●「自分と気の合わない部下」や「前回の評価が低かった部下」に対しては、たとえ今回の成績がよくても、低く評価する。 など
育成場面でよくある事例
育成場面では、以下のようなアンコンシャスバイアスが考えられます。
育成場面における例
●「お茶出し」や「電話対応」「事務仕事」などは、女性がやるものと決めつける。
●「定時で帰る従業員は怠けている」「残業する従業員は頑張っている」と思い込む。
●女性は結婚・妊娠・出産ですぐに退職すると思い込み、簡単な仕事しか任せない。
●自分と同じ大学出身の部下にのみ目をかけ、優遇して育成する。 など
配置・昇進場面でよくある事例
配置・昇進場面では、以下のようなアンコンシャスバイアスが想定されます。
配置・昇進場面における例
●子育て中の女性従業員には転勤は無理と思い込み、「転勤を伴う異動」を一切させない。
●本人の意思や能力を無視し、「性別」のみに基づいた配置転換や昇進などを行う。
●仕事とは直接関係のない「性別」や「年齢」「国籍」といった属性を、昇進要件に掲げる。
●外国人社員には、「英語を使う業務」のみ任せ、「日本語を使う業務」はさせない。 など
アンコンシャスバイアスが企業に及ぼす悪影響とは?
アンコンシャスバイアスを放置すると、どのような問題が生じるのでしょうか。アンコンシャスバイアスが企業に及ぼす悪影響について、紹介します。
経営への影響
アンコンシャスバイアスを放置し続けると、「管理職・リーダーの意見」や「多数派の意見」のみが重視されるようになります。その結果、「イノベーションの創出」にとって必要不可欠な「価値観の多様性」が軽視されていき、イノベーションの創出が阻害されていくでしょう。また、価値観の多様性が認められない状態が続くと、「パワハラ」を始めとする各種ハラスメントが起きやすくなったり、コンプライアンス違反を誘発したりする可能性もあります。ハラスメントやコンプライアンス違反が明るみに出ると、企業価値の低下にもつながりかねません。
(参考:『【弁護士監修】パワハラ防止法成立。パワハラ問題へ企業はどう対応する?対策法を紹介』『【弁護士監修】コンプライアンスの意味と違反事例。企業が取り組むべきことを簡単解説』)
組織への影響
「人事評価」におけるアンコンシャスバイアスが顕著に見られると、従業員は人事評価の公正性に疑問を抱くようになります。また、「育成」や「配置・昇進」などの場面でアンコンシャスバイアスが作用することにより、「自身のキャリア観が尊重されない」「このまま働き続けても、自分の成長につながらない」と感じる従業員も増えてくるでしょう。その結果、「人間関係の悪化」や「モチベーションの低下」「離職率の増加」などにつながる可能性があります。
これらの悪影響を生じさせないためにも、企業としてアンコンシャスバイアスの解消に取り組んでいくことが重要です。
アンコンシャスバイアスを解消するためには?
アンコンシャスバイアスを解消するためにできることを紹介します。

アンコンシャスバイアスの実態把握
そもそも「アンコンシャスバイアス」がどういうものかを知らなかったり、「自分にはアンコンシャスバイアスがない」と思い込んでいたりすると、アンコンシャスバイアスを解消しようという動きすら起こりません。そのため、まずは、「アンコンシャスバイアス」とは何かを知り、自分には「どのようなアンコンシャスバイアスがあるのか」に気づく必要があります。その上で、チームや組織全体において、どのようなアンコンシャスバイアスが存在しているのかを認識し、それによりどのような影響・問題が生じているのかといった、実態を把握しましょう。そうした取り組みを行うことにより、アンコンシャスバイアスの解消に向けた「マインドセット」が形成されていきます。
アンコンシャスバイアス研修の実施
アンコンシャスバイアスの実態把握をし、マインドセットが形成されたら、次にアンコンシャスバイアス研修を実施します。アンコンシャスバイアス研修を行うことで、「自分が抱く偏見と向き合う」「常識、当たり前と思っていたことに疑問を抱く」「言動を改善する」といった動きを起こしやすくなります。その結果、アンコンシャスバイアスの解消に向けた「スキルセット」が形成され、徐々にアンコンシャスバイアスが払拭されていくでしょう。
研修資料はこちらからダウンロードできますので、ご活用ください。
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こうした取り組みを実施し、アンコンシャスバイアスを解消することにより、「社内におけるDEIの実現」や「イノベーションの創出」「離職率の低下」「各種ハラスメントの防止」といった効果が期待できます。
まとめ
アンコンシャスバイアスは、「採用」や「人事評価」「育成」などの場面で見られます。アンコンシャスバイアスを放置しておくと、「イノベーションの創出の阻害」や「ハラスメント・コンプライアンス違反の誘発」「人間関係の悪化」「離職率の増加」といったさまざまな悪影響が企業にもたらされる可能性があります。「実態把握」や「研修の実施」によりアンコンシャスバイアスを解消し、従業員一人一人の多様性を尊重する企業を目指しましょう。
(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/ds JOURNAL編集部)