高級食パン「乃が美」に出資した「クレアシオン・キャピタル」とは

日本のプライベートエクイティファンド、クレアシオン・キャピタル(港区)が4月1日に保育施設運営のAXコーポレーション(文京区)の全株式を、保育や介護、葬祭事業などを行うエスオーユーホールディングス(千葉市)に譲渡しました。

クレアシオンは、AXコーポレーションの子会社POPを通して、千葉県佐倉市で英語環境の保育施設を運営する「Lakeside International Childcare」の事業を譲受するなど、企業価値向上の支援をしていました。


クレアシオン・キャピタルは、2019年1月に高級食パンの乃が美ホールディングス(大阪市)に出資をしたことで有名です。いったいどのような投資ファンドなのでしょうか?

この記事では以下の情報が得られます。

・クレアシオン・キャピタルの概要
・業績と投資先一覧
・乃が美に出資した背景

IPO志向の強い投資ファンド

クレアシオン・キャピタルは、1991年7月に日本アジア投資<8518>の100%子会社として設立されたジャイク投資顧問が前身。2011年11月にクレアシオン・インベストメントの子会社となり、クレアシオン・キャピタルに商号変更しました。2015年9月にクレアシオン・キャピタルの保有株式を全て譲渡しており、現在は資本関係はありません。

日本アジア投資は投資事業を営む会社です。特別目的会社(SPC)を通して太陽光発電所やレジデンス、倉庫などに出資をするプロジェクト投資事業と、バイアウトファンド、ベンチャー投資などを行うプライベートエクイティ投資事業を展開しています。

クレアシオン・キャピタルは、機関投資家向けのバイアウト投資ファンド「クレアシオン2号」を立ち上げ、2020年12月に85億円の上限に達して募集を締め切りました。クレアシオンは金融機関や商社などに属さない独立性を保っているため、企業価値向上を突き詰めている点に特徴があります。エグジット手法はIPOを強く志向。直近のIPO案件では、建築物の補修などを行うキャンディル<1446>の上場があります。

■クレアシオン・キャピタル業績推移

高級食パン「乃が美」に出資した「クレアシオン・キャピタル」とは


決算期

2016年3月期

2017年3月期

2018年3月期

2019年3月期

2020年3月期

純利益

74百万円

85百万円

102百万円

126百万円

30百万円

前期比

-

14.8%増

20%増

23.5%増

76.2%減

※決算公告より筆者作成

■クレアシオン・キャピタルの投資実績

投資時期

会社名

事業内容

背景

2021年1月

TETRAPOT株式会社

アウトバンド業務をメインとしたコールセンター事業の運営

創業オーナーによる全株式売却

2020年7月

ピルボックスジャパン株式会社

健康食品の企画・開発、海外化粧品ブランドの総代理店事業

大株主による株式売却

2020年3月

株式会社モード・プランニング・ジャパン

「雲母保育園」の運営、保育施設の運営受託

株式上場に向けた成長支援

2019年5月

株式会社Polite

自社企画化粧品の販売、他社有力ブランド取扱卸

投資ファンド及び創業オーナーによる全株式売却

2019年1月

株式会社乃が美ホールディングス

高級「生」食パンの製造、販売(直営店の運営、FC店の管理)

大株主による株式売却

2018年7月

株式会社doubLe

ホームページ最適化サービス及び日本最大級のBtoB比較サイトの運営

大株主による株式売却

2018年2月

株式会社ビビッド

心理学を用いた”子”別指導塾「坪田塾」の運営

創業オーナーによる全株式売却

2017年11月

ファンタジーリゾート株式会社

児童アミューズメント施設の運営(大型で実績No.1)

大株主による株式売却

2017年6月

株式会社ペイロール

給与計算アウトソーシング(業界No.1の受託実績)

投資ファンドによる株式売却

2016年5月

株式会社アルコバレーノ

保育ルームFelice」の運営

オーナー社長の体調不良に伴う事業承継

2015年10月

株式会社ビー・ワイ・オー

居酒屋「えん」及び定食「おぼんdeごはん」等の運営

資本構成の再構築及びIPOに向けたMBO

2014年9月

株式会社キャンディル

住宅修繕サービス

大株主による株式売却(MBO)

2013年7月

株式会社ティンパンアレイ

ユーズドセレクトショップ運営

事業承継(MBO)

2013年5月

Profit Cube株式会社

業務用ソフトウェアの開発

スピンアウト(親会社の選択と集中により)

2012年5月

株式会社スリーアローズ

ペット衣料製造

組織運営体制の確立に向けた成長支援(MBO)

クレアシオン公式ホームページより

乃が美の上場はあるか?

2019年1月クレアシオン・キャピタルは高級食パンの乃が美ホールディングスに資本参加しました。乃が美は株式上場を目指しており、経営管理体制の強化が必要でした。

クレアシオンからの資金および経営管理ノウハウを得て、乃が美は上場へと向かうことになります。

乃が美ホールディングスは2020年3月期に5億300万円の純損失を計上しており、この期までの累積損失は9億7,800万円。利益の出にくい状態が続いており、クレアシオンの支援を得て黒字化に向けた準備を進めています。

乃が美は大阪プロレスの会長を務めている阪上雄司氏が立ち上げた会社です。プロレスの老人ホームへの慰問で、高齢者の朝食の中心であるパンの硬さに疑問を持ち、柔らかい食パンのアイデアを思いついたといいます。パン作りの経験が無いにもかかわらず、自分の腕一つで試行錯誤を重ね、現在の食パンが完成しました。情熱家タイプの経営者です。

2013年10月に大阪で1号店をオープン。800円という高単価で当初は客がつきませんでしたが、少しずつファンを獲得しました。一定の認知を得ると、SNSで口コミが爆発的に拡散。人気に火がついて2018年11月には東京にも店を出すまでになりました。クレアシオンが出資した段階で全国111店舗展開しており、勢いのある会社です。

繁華街から離れた場所に出店していることに特徴があり、家賃を抑えて経費削減にも力を入れています。フランチャイズ経営はしておらず、すべて直営店です。

総務省の家計調査によると、2020年の食パンの年間支出額は8,233円。乃が美の1号店がオープンする前の2012年は7,002円でした。17.5%上昇しています。日本は米の消費量が年々減少し、パン食が進んでいます。

乃が美は高級食パンという特異なセグメントで他社との差別化を図りましたが、すぐに競争が激しい分野となりました。

特にジャパンベーカリーマーケティング(横浜市)が繁華街で仕掛ける高級食パン店は、メディアで頻繁に取り上げられるようになりました。

クレアシオン出資後も阪上氏は乃が美の代表に留まりました。裏路地出店にこだわる乃が美の今後のかじ取りに注目が集まります。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由

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