病院の経営支援に乗り出した投資ファンド「ユニゾン・キャピタル」とは

ユニゾン・キャピタルは国内を代表する独立系投資ファンドの一つです。2019年7月に医療法人同愛会(熊谷市)、2020年9月に社会医療法人熊谷総合病院(熊谷市)に出資し、病院の経営支援に乗り出すと発表しました。

ユニゾンは2017年5月に運営するファンドからの出資を通して「地域ヘルスケア連携基盤(CHCP)」を設立。地域の病院や介護施設、ヘルスケア関連ビジネスへの経営支援に乗り出す姿勢を鮮明に打ち出していました。企業の事業承継やノンコア事業などのカーブアウト案件を取り扱うことが多く、企業価値向上を重視する投資ファンドの中では、異彩を放っています。

これまで、東ハト(豊島区)やあきんどスシロー<3563>、旧カネボウのクラシエホールディングス(港区)、台湾ティーのGong Chaなどに出資をしてきました。日本と韓国を投資対象としています。

病院の経営支援に乗り出したことで、投資ファンドの新たな在り方を切り開いたユニゾン・キャピタルとは、どのようなファンドなのでしょうか? この記事では以下の情報が得られます。

・ユニゾン・キャピタルの概要
・投資先一覧
・病院の経営支援に乗り出した理由

日本と韓国の機関投資家から集めた4,100億円以上の資金を運用

病院の経営支援に乗り出した投資ファンド「ユニゾン・キャピタル」とは
ゴルフ場
東ハトはゴルフ場開発が倒産の引き金に(画像はイメージ Photo by Photo CHIPS)

ユニゾン・キャピタルは1998年に設立されました。創業メンバーは、現在の代表取締役である林竜也氏と川崎達生氏。また、投資ファンド「インテグラル」(千代田区)の代表取締役・佐山展生氏も設立に携わりました。2020年2月までユニゾンの代表を務めていた江原伸好氏も創業メンバーの一人です。

ユニゾンは2020年3月に共同代表制に切り替え、ワントップだった江原氏が退任。林氏と川崎氏らがパートナーとなっています。

林氏は1991年に東京大学を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。

M&Aや不良債権投資などに携わりました。ユニゾン設立後はアスキー、東ハト、クラシエなどの企業案件を手掛けています。

川崎氏は1990年にゴールドマン・サックス証券に入社。1993年に米ハーバード・ビジネス・スクールに留学してマッキンゼーの戦略コンサルタントとなりました。ユニゾンを設立してからは、建デポ、ミニット・アジア・パシフィック、エノテカ、あきんどスシローなどを担当しています。

現在運用中のファンドは日本の4号ファンド(700億円)と韓国の1号ファンド(3,075億ウォン)、2号ファンド(5,000億ウォン)です。日本のファンドは2015年、韓国のファンドは2019年に募集を終了し、その資金が現在の運用原資となっています。

ユニゾン・キャピタルの名を一躍世に広めることとなったのが、東ハトの再生案件です。東ハトは「キャラメルコーン」や「ポテコ」などの大ヒット商品を持つスナック菓子大手。2002年3月期の売上高は230億円を計上しており、本業の業績は堅調でした。しかし、バブル期にゴルフ場の開発に着手したことで経営の根幹が揺さぶられます。千葉県市原市の「オークビレッヂゴルフクラブ」は預託金の償還請求が急増。

千葉市のゴルフ場「トーハト和泉・ゴルフクラブ」は用地買収に失敗してオープンできない状態となりました。

東ハトは2003年3月に民事再生手続きを申請。負債総額は460億円にも上っています。ユニゾンはバンダイナムコホールディングス<7832>、丸紅<8002>とともに東ハトに出資をして経営に参画。ユニゾンはパートナーの木曽健一氏を送り出して東ハトの社長にします。新経営体制になってすぐの2003年7月、東ハトは元プロサッカー選手の中田英寿氏をコーポレートブランドの中核を担うチーフ・ブランディング・オフィサーに起用しました。中田氏を執行役員として招いたのです。

倒産によってブランドが毀損した東ハトのイメージ回復戦略には、目を見張るものがありました。ユニゾンは3年後の2006年7月に山崎製パンに売却しています。

ユニゾンの投資分野は消費財からサービス、小売、製造業、ヘルスケアなど多岐に渡っています。

■国内の投資実績

企業名事業内容支援内容投資期間エグジット 共和薬品工業医薬品の製造・販売医薬品事業にとどまらない製品・サービス展開を目指す2019年12月-- CHCPホスピタルパートナーズ投資先病院に対し病院運営の支援サービスを提供有力病院とのアライアンスを通じて、ユニゾンの投資先の病院群に対して、病院運営の支援サービスを提供2019年7月-- シダックス総合アウトソーシングサービスプロバイダー健全なガバナンス体制の整備を通じ、事業の選択と集中や営業体制強化を促し、EBITDA伸長を支援2019年7月-- ピュール消費財製造・販売主力ブランド「利尻ヘアカラー」シリーズの国内外におけるさらなる成長に加え、新商品・ブランドの積極的な開発やOEM事業拡大を目指す2019年6月-- 資さんうどん店チェーン運営組織体制の強化と新規出店を行うことで成長を加速させる2018年3月-- ミナシア(旧株式会社フォーブス)ホテル・レストラン運営組織体制の強化、新規出店の加速などの成長戦略を実行し、ミドルクラスの宿泊特化型ホテルセグメントにおけるリーディングカンパニーを目指す2017年12月-- CHCPファーマシー調剤薬局の買収及び運営効率的かつ質の高いサービスを提供しながら事業拡大を目指す2017年9月-- ダイナミクスマルチブランド外食チェーン働き方改革による、採用促進及び離職抑制を達成することで、更なる出店強化を目指す2017年6月-- LTLファーマ長期収載品に特化した製薬会社製品承継の協議をすすめ取扱製品の拡大を目指す2017年4月-- ゆこゆこシニア向けサービスプラットフォーム旅行領域以外への業容拡大をすすめ、シニア・ライフスタイル・プラットフォームへの進化を目指す2016年8月-- 建デポ会員制総合建材店リフォーム需要の高まりに呼応して、店舗網とサービスの両面での成長を目指す2015年10月-2019年6月コーナン商事に譲渡 あゆみ製薬医薬品の製造・販売リウマチ・整形領域におけるスペシャリティファーマを目指す2015年8月-2019年4月ブラックストーンに譲渡 デクセリアルズエレクトロニクス分野を中心とする機能性材料の製造・販売スマートフォンやタブレットPC市場拡大に伴う事業拡大を支援2012年9月-2016年3月IPO Nexcon Technology二次電池向け保護回路の製造・販売事業拡大と経営体制強化をテーマに創業者(経営メンバー)とマネジメント・バイアウト(MBO)を実行2012年7月-2018年12月個人投資家に譲渡 昭和薬品化工医薬品、歯科薬品の製造・販売事業パートナーである株式会社ジーシーとのシナジーの実現2012年6月-2016年9月ジーシーに譲渡 旭テック鉄及び軽合金の鋳造・鍛造による自動車部品の製造製造拠点のアジアシフト加速とともに、新興国自動車市場の拡大を取り込んだ成長を支援2012年4月-2018年5月トピー工業に譲渡 ミニット・アジア・パシフィック靴修理・鍵複製等の総合リペアサービス日本・オセアニア・アジア圏でのさらなる成長を目指す2011年12月-2015年12月青山商事に譲渡 エノテカワイン輸入、卸売、小売創業者の個人的リーダーシップから組織的経営への移行、ビジネスインフラの拡充等を支援を通じて、成長する国内ワイン市場における事業規模の拡大を支援2011年3月-2015年3月アサヒビールに譲渡 イデラキャピタルマネジメント不動産アセットマネジメント「我が国有数の不動産AM会社」を目指す2010年4月-2014年5月復星グループに譲渡 コスモスライフマンション・ビル管理業界再編も視野に更なる成長を目指す2009年2月-2009年9月コスモスイニシアに譲渡 Intelsat Holdings衛星通信サービス英国の投資会社BCパートナーズによる世界最大の衛星通信サービス会社のバイアウトに、日本からのパートナーとして参画2008年2月-2017年4月アント・キャピタル・パートナーズに譲渡 あきんどスシロー直営回転すしチェーン経営リソースを追加し、業界リーダーを目指した成長戦略を支援2007年9月-2012年9月ペルミラに譲渡 アルテリア・ネットワークス光ファイバー・インターネット接続サービスUSENの全保有株式取得により経営権を取得2007年3月-2014年2月CVCキャピタルパートナーズに譲渡 コバレントマテリアル半導体・液晶関連部材メーカーシリコン事業の分離売却、コスト構造改革、及び新規事業開発を支援2006年12月-2014年12月CoorsTekに譲渡 クラシエホールディングス消費財メーカー産業再生機構からスポンサーを承継して成長の実現を図る2006年1月-2012年3月ホーユーに譲渡 コスモスイニシアマンションデベロッパー自主独立路線での中長期的成長を支援2005年6月-2009年9月事業再生ADRが成立 ドラッグ・イレブンドラッグストアチェーン外部人材登用により経営体制を強化し、収益力の向上に取り組む2003年9月-2006年4月ポラリスファンドに譲渡 タクミック・エスピープラスチック成形国内の開発拠点と海外の量産工場との一体経営を実現2003年6月-2003年11月アークに譲渡 東ハト菓子製造生産設備や広告宣伝への適切な投資を再開し、あわせて透明性ある経営体制を構築2003年5月-2006年7月山崎製パンに譲渡 アスキーIT/メディア兄弟会社となったエンターブレインとの連携によって先進的メディアグループを構築2002年3月-2004年3月角川グループに譲渡 キリウ自動車部品製造系列外への営業強化や米国進出を実現2001年12月-2004年7月住友商事に譲渡 マインマート酒類小売フランチャイズチェーン同業チェーンの買収などにより、規制緩和下での新たな成長戦略を展開2000年9月-2005年10月日本アジアホールディングスに譲渡 オリエント信販消費者金融経営資源の強化、資金調達手段の多様化で支援2000年6月-2005年9月GMOインターネットに譲渡

■韓国の投資実績

企業名事業内容支援内容投資期間エグジット Sappun婦人靴小売業顧客基盤を拡大するためのデータマーケティングとブランディングの強化、サプライチェーンのシステム化、および海外展開への実現を支援2019年12月-- Medit3Dスキャナの開発および製造販売およびマーケティング戦略、経営陣のリソース補強を支援2019年12月-- Rosen Foodプロセスチーズの製造販売経営陣含めた組織体制とガバナンスの強化を通じて、販売力や生産性のさらなる向上を図る2018年11月-- FNDNETサプリメントの卸売組織力・ガバナンスの強化により、販売ネットワークの拡大とマーケティングの強化を支援2017年4月-- P2P Systemsスペース・施設の運営サービス韓国のスペース・施設の運営サービス業者大手として"TOZ"ブランドにて会議室、シェアード・オフィス、自習スペース等を運営2016年12月-- Gourmet F&B専門食品商社ヨーロッパのプレミアム専門食品の輸入販売を行い、プレミアム・チーズのセグメントでのトップシェアを有する食品商社2016年9月-2017年9月LFに譲渡 Apelgamo結婚式場サービス韓国最大の結婚式場サービス・チェーンとして、"The Chapel"、”LaCucina"、"Apelgamo"ブランドのサービスを展開中2016年3月-2019年4月Evergreen Advisorsに譲渡 Gong Chaバブルティー・チェーングローバルに1,400店舗を展開するプレミアム・バブルティー・チェーン2014年10月-2019年11月TA Associatesに譲渡

※ホームページより筆者作成

投資ファンドが病院経営に乗り出す理由

病院の経営支援に乗り出した投資ファンド「ユニゾン・キャピタル」とは
病院の待合室
画像はイメージ(Photo by フリー素材.com)

ユニゾンは病院への出資を加速しています。大手投資ファンドが病院の経営に乗り出すのは、ユニゾンが初めてとなります。

出資対象は病床数が200未満の中堅の病院が対象で、劣後ローンで融資するほか、株主総会に相当する病院の社員総会で議決権を持ち、経営に参画します。

あまり知られていませんが、病院もM&Aは活発に行われています。背景には赤字経営が続いている病院が多いことや、後継者不足、医師や看護師が足りていないことが潜んでいます。

赤字経営を理由にしたM&Aとして、2017年に加古川西市民病院が医療法人社団一功会に土地建物を譲渡した例や、日本郵政が横浜逓信病院を社会福祉法人恩賜財団済生会に事業譲渡した事例などがあります。医師・看護師の不足を理由としたM&Aが、2015年NTT東日本東北病院の東北薬科大学への事業譲渡です。このようなM&Aは比較的頻繁に行われています。

売り手は経営難や人材不足による先行きの不安から売却に乗り出すことがわかります。買い手はどうでしょうか。

病院は規制が厳しく、簡単には開業できないという現実があります。地域の医療計画を超える病床数は認められないこともあり、増床できないといったこともあります。買収であれば簡単に規制をクリアでき、手っ取り早く拡大ができます。また、設備投資にかかる費用を節約でき、人材確保もできます。

企業の事業拡大と同じく、診療領域の拡大も可能です。

しかし、ユニゾンは病院のM&Aの仲介を行うわけではありません。病院の資産価値を上げてエグジットする必要があります。そこがポイントです。当然、病院は非営利のため、医療費を上げて収益の向上を狙うといったことはできません。

ファンドの支援策の一つとして、コスト削減に注力することが挙げられます。ユニゾンは支援先の病院同士で医薬品や医療機器を共同購入したり、管理業務を集約するとしています。支援先の病院が増えれば、それだけ連携はとりやすくなり、コストの削減にも繋がります。

厚生労働省の医療費の動向によると、2019年の医療費は43.6兆円(前年比2.4%増)。高齢化社会に伴って医療費は今後も増加が見込まれており、国内では稀有な伸び盛りの市場です。患者数が増加して経費を削減することができれば、病院の価値は向上します。

病院に貸付をしている地方銀行などの金融機関は、後継者難などに悩む病院の相談が多くなっているといいます。

ファンドからすると、案件を発掘しやすい業界でもあります。投資から再生支援、エグジットの成功モデルを確立できるのか。ユニゾン・キャピタルの新たな挑戦に注目が集まっています。

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