
自動車部品メーカーの愛三工業<7283>は、エンジン周り部品の技術の向上や事業の拡大に取り組む。
EV(電気自動車)の需要が伸びているものの、同社ではHEV(ハイブリッド自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド自動車)を含めたエンジン搭載車が、2030年時点で市場の72%を占めると判断しているためだ。
この目的を達成するためにM&Aや連携を積極的に活用し、2031年3月期にはエンジン周り部品からなるパワートレイン(エンジンからドライブシャフトまでの動力装置)事業の売上高5200億円のうち、M&Aや事業拡大などによって1500億円を稼ぎ出す計画だ。
2031年3月期の全部門の売上高は5500億円の見込みのため、パワートレイン事業が全体の95%を占める計算になる。愛三工業はどのような戦略を描いているのだろうか。
7割強がエンジン搭載車
モーターで走行するEVは温室効果ガスである二酸化炭素や、大気汚染につながる窒素酸化物を排出しないため、世界中で導入が推奨されているが、航続距離の短さや充電時間の長さ、高額な車両価格などが壁となって急激な普及には至っていない。
愛三工業では、エンジンを搭載していない電池だけで走行するBEV(バッテリ式電気自動車)やFCEV(燃料電池自動車)の需要は着実に伸びるものの2030年時点では市場の3割弱に留まると見る一方、エンジン車自体は減少するが、二酸化炭素や窒素酸化物の排出量の抑制につながるHEVやPHEVなどが伸び、7割強がエンジン搭載車になると予測する。
この予測を基に同社では「プロフェッショナルとしてエンジン周りの技術を極める」ことを目標に掲げ、M&Aをはじめ他社との連携などを進め、エンジン周り部品の領域の拡大やエンジン開発プロセスの拡大、さらには新しい技術の導入などに取り組むことにした。
新領域に事業を拡大
同社は現在、封鎖弁(燃料タンクを密閉する部品)やEGRバルブ(還流させる排出ガスの流量を調整する部品)、燃料ポンプモジュール、キャニスタ(燃料蒸発ガスの吸着装置)、スロットルボディ(エンジンに吸入される空気量を調整する装置)、インジェクタ(燃料の供給を行う装置)などを手がけており、今後はM&Aなどによって点火や燃料、吸気、エバポ(燃料蒸気排出を調整する部品・システム)などの領域にも事業を拡大する。
また現在は部品の設計や評価などに留まっているエンジン開発プロセスで、新たにエンジンそのもののシステム設計や、燃料噴射や潤滑系、冷却系などのエンジンのサブシステムの設計などを可能にするためにM&Aなどを活用する。
さらに技術面でも現在保有しているエンジン評価技術に加え、制御やソフトウエアなどの技術もM&Aなどによって取り込んでいくことにしており、こうした取り組みに2026年3月期から2028年3月期までの3年間に500億円を投じる計画だ。
収益の柱までには
一方、EVの普及に対応し、電動化製品事業にも力を入れ、電池制御や熱マネジメントを含めたシステムの競争力を高め、2輪BEVや4輪HEVをターゲットに、電池パック市場への参入を目指す。
すでに、バスバーエンド(大容量の電流を導電する部品)など電池関連のいくつかの製品を受注しており、2025年3月期に5億円の売上高を見込む。これに電池パックなどの新たな製品を投入することで2031年3月期には300億円に引き上げる。
これによって2031年3月期の売上高5500億円(営業利益は440億円の見込み)のうち、電動化製品事業が300億円を占めることになるものの、収益を支える柱に成長するところまでは至らない見込みだ。
同社の2025年3月期は売上高3300億円(前年度比5.0%増)、営業利益210億円(同35.5%増)の見込みで、2031年3月期の目標とは大きな開きがある。

文:M&A Online記者 松本亮一
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