アマダがM&Aにアクセルを踏み込んでいる。今年に入って2件の大型買収を矢継ぎ早に手がけ、合計で700億円近くを投じる運びだ。
元日立子会社のビアメカニクスを傘下に
アマダは4月17日、半導体基板向け加工機メーカーのビアメカニクス(神奈川県厚木市)を買収すると発表した。買収額は510億円で、アマダとして過去最大のM&Aとなる。半導体市場への本格参入が狙いだ。
ビアメカニクスは半導体パッケージ基板やプリント配線基板の穴あけ加工機を手がける。レーザー穴あけ機、ドリル穴あけ機の両タイプを提供し、いずれもAI(人工知能)サーバーなど高機能向けハイエンド領域で世界トップクラスのシェアを持つ。
とりわけ、ハイエンド領域の基板は回路を微細化するために導通穴の増加と小径化、基板の多層化、材料の多様化など、大容量の情報を高速で低消費電力で処理するために最先端の技術が求められる。こうした要求に応えるうえで決め手の一つとされるのがレーザー技術。
アマダは金属加工で培ったレーザー技術を強みとする。ビアメカニクスが保有する樹脂向けレーザー技術との親和性が高く、相乗効果が高いと判断した。両社の技術を組み合わせ、差別化商品の開発・投入や新事業の創出につなげる。
また、ビアメカニクスの既存顧客に対し、アマダの既存商品(切断、マーキング、プレス、自動搬送など)を拡販することで、半導体関連市場への展開を加速する考えだ。
アマダは7月をめどに、ビアメカニクスの全株式を国内投資ファンドのアドバンテッジパートナーズ(東京都港区)などから取得し、完全子会社化する。ビアメカニクスは元々、日立製作所の子会社だったが、2013年にファンドの傘下に入っていた。
ビアメカニクスの2024年3月売上高は432億円。営業利益は67億円。国内4カ所のほか、英国に工場を構える。
アマダが5月1日付でグループに迎えるのはプレス機メーカーのエイチアンドエフ(福井県あわら市)。買収額は177億円。親会社のカナデビア(旧日立造船)から全株式を取得する。
プレス機を全方位で品ぞろえ
エイチアンドエフの買収を発表したのは1月下旬。買収完了は当初4月1日を予定していたが、国内の独占禁止法手続きの審査期間が長期化したのに伴い、1カ月遅れることになった。
アマダはプレス機事業について、子会社のアマダプレスシステム(神奈川県伊勢原市)を通じて展開しているが、中小型を主力とする。これに対し、エイチアンドエフは500トンの大型から3000トンを上回る超大型のプレス機を手がける。買収によって全方位でプレス機の品ぞろえを実現する。
アマダのプレス機事業は売上高204億円(2024年3月期)と全社の5%程度にとどまり、いわば成長途上にある。約180億円(同)のエイチアンドエフを取り込むことで事業規模が約2倍に拡大する。
2030年に売上高5000億円を目指す
アマダの2024年3月期業績は売上高10.3%増の4035億円、営業利益13.3%増の565億円と2年連続で過去最高を更新した。近く発表する足元の25年3月期業績は売上高0.4%増の4050億円、営業利益6.2%減の530億円が見込まれている。
金属の板を切断、穴あけ、曲げ、溶接などを行う板金加工機が売上高のおよそ75%を占め、これに切削・研削盤、微細溶接機、プレス機の各部門が続く。海外売上高比率は6割を超える。
アマダは2031年3月期に向けた長期ビジョンで売上高5000億円を目標に掲げる。この中で重点戦略として打ち出したのがレーザー技術を軸とする新領域の拡大だ。
具体的にはeモビリティー(電動車)、半導体、医療といった成長分野への展開で、巨費を投じる今回のビアメカニクス買収もその流れにある。

2018年、切削機械の米マーベルを子会社化
過去のM&Aはどうか。一つの山が訪れたのが2018年。名村造船所傘下でプレス機向け自動材料搬送装置メーカーのオリイメック(現アマダプレスシステム)を買収した。125億円を投じ、アマダとして当時、最大のM&Aだった。
また同じ年、米国で初となる買収を手がけた。
一方で、2015年に工作機械の旋盤事業をDMG森精機に、2019年にはリース子会社のアマダリースを東京センチュリーにそれぞれ売却するなど、事業の入れ替えも進めてきた。
M&Aだけで設定枠をオーバー
長期ビジョンに連動する現行の中期経営計画(2023年4月~26年3月)では売上高4000億円、営業利益640億円を目標とする。売上高については1年目で達成した。
総投資は3年間で1000億~1200億円を予定。このうち半分の500億~600億円を「研究開発・M&A」に振り向ける予定としていたが、エイチアンドエフ、ビアメカニクスの買収額が合計700億円近くとなり、M&Aだけで設定枠をオーバーした形だ。
中計最終年度の2026年3月期はトランプ関税の影響次第で業績の下振れリスクをはらむ。世界経済の動向を見極めつつ、大型買収でグループに迎え入れる両社のPMI(M&A後の統合プロセス)をどう円滑に進めるのかが肝要となる。
◎アマダ:主な沿革
年 出来事 1946 東京都豊島区で創業者の天田勇が機械修理工場を始める 1948 天田製作所設立 1961 東証2部上場 1964 アマダに社名変更 1969 本社を神奈川県伊勢原市に移転 1971 東証1部上場(2022年4月に東証プライム市場に移行) 1973 淀川プレス製作所(大証2部)の株式30%を取得し、グループ化 〃 園池製作所(東証2部)の株式49.4%を取得し、グループ化 1978 ワシノ機械(東証1部)の株式16.7%を取得し、グループ化 1981 ワシノ機械が淀川プレス製作所を吸収合併 1989 ワシノ機械がアマダワシノ、園池製作所がアマダソノイケに社名変更 2000 アマダソノイケがアマダワシノを吸収合併し、アマダマシニックスに 2003 アマダマシニックスを吸収合併 2012 スイスの機械商社を買収し、アマダスイスを発足 2013 抵抗溶接機メーカーのミヤチテクノス(現アマダ微細溶接事業)をTOBで子会社化 2015 アマダマシンツール(現アマダマシナリー)の旋盤事業をDMG森精機に譲渡 〃 持ち株会社制に移行に伴いアマダホールディングスに社名変更 〃 切削工具の三和ダイヤ工販(現アマダサンワダイヤ)を子会社化 2018 米国の切削機械メーカー、マーベルマニュファクチャリング(現アマダマーベル)を子会社化 〃 名村造船所傘下でプレス機用材料供給装置メーカーのオリイメック(現アマダプレスシステム)を子会社化 2019 リース子会社のアマダリースを東京センチュリーに譲渡 2020 持ち株会社制を廃止し、アマダに社名変更 〃 フィンランドの自動化装置メーカー、エルケーアイケルドマン(現アマダオートメーションヨーロッパ)を子会社化 2022 「長期ビジョン2030」を策定 2025 (1月)カナデビア傘下のプレス機メーカー、エイチアンドエフの子会社化を発表 〃(4月)半導体基板加工機メーカー、ビアメカニクスの子会社化を発表文:M&A Online
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