【富士通】売りから買いに舵を切る場面は近いか 成長投資などを倍増

官公庁や金融、流通向けのITサービスなどを手がける富士通<6702>による子会社や事業の売却が続いている。

適時開示情報によると同社は2024年に子会社2社と事業2件を譲渡した。

こうした傾向は以前からのもので、2019年にベトナムのプリント基板製造会社を取得したあとの11件はすべて売却案件だ。

同社は2026年3月期を最終年とする3カ年の中期経営計画の中で、企業価値向上に向けた財務戦略の一つとして、事業成長投資と株主還元を合わせた投資額を、前中期経営計画の2倍に引き上げることを公表している。

この財務戦略では、ポートフォリオ(事業構成)の見直しを目標に掲げており、これまでと同様に子会社や事業の売却を進めることが予想される一方、インオーガニック(M&Aなどによって新たな市場や事業を取り込む成長戦略)成長も目標の一つに掲げており、新たな企業や事業の買収に乗り出すことも十分に可能性がある。

2025年1月6日に、約44%を所有する富士通ゼネラルの株式を手放すことを発表しており、今のところ売りから買いに転じる兆しは現れていないが、今後、中期経営計画最終年の2026年3月期に向け、買いに舵を切る場面もありそうだ。

2017年以降売却は20件近くに

富士通は1935年に富士電機製造(現富士電機)の電話部所管業務(交換、伝送)を分離し、富士通信機製造(現富士通)として誕生した。

1940年に日本初の国産自動交換機「T形交換機」を開発したほか、1977年には日本初のスーパーコンピューター完成。1980年にはコンピューター売上高で国内トップに踊り出たこともある。

2011年には理化学研究所と富士通が共同開発したスーパーコンピューター「京」の処理スピードが世界1位に輝いた。

こうした事業展開の中で、1990年に英国のコンピューター会社のICLや、1997年に米国のコンピューター会社のアムダ―ルを子会社化したのをはじめ、多くの企業や事業を傘下に収め業容を拡大してきた。

もちろんこの過程で、売却の案件もあったが、買収の方が上回っており、M&Aが企業成長を牽引した。これが近年はポートフォリオの入れ替えに伴って売却案件が増えているのだ。

2019年に取得したベトナムのプリント基板製造会社は、もともとは富士通の子会社で、2017年に富士通が保有する株式の50.001%を売却していたのを買い戻した案件であり、こうした案件も含め適時開示情報の増えた2017年以降はほとんどが売却で、その数は20件近くになる。

この中には、子会社ニフティのインターネット接続事業のノジマへの譲渡、カーエレクトロニクス子会社の富士通テンのデンソーへの売却、パソコン関連製品の研究、開発、製造を手がける富士通クライアントコンピューティングのレノボグループへの譲渡、携帯電話事業の国内ファンドへの売却など、関心を集めた案件も数多くあった。


【富士通】売りから買いに舵を切る場面は近いか 成長投資などを倍増
2017年以降に適時開示された富士通関連のM&A

3年間で1兆3000億円を投資

こうした売却の流れが変わるかも知れないと思わせるのが現中期経営計画だ。

同計画では2024年3月期から2026年3月期までを「2030年以降の持続的な成長と収益力向上に向けたモデルを構築する3カ年」と位置付けており、「事業モデルと事業ポートフォリオの変革」「お客様のモダナイゼーション(老朽化したIT資産を近代化する考え方)の確実なサポート」「海外ビジネスの収益性向上」に取り組むとしている。

この中の「事業モデルと事業ポートフォリオの変革」については、事業ポートフォリオの入れ替えやインオーガニック成長に取り組む姿勢を見せている。

事業ポートフォリオは、既存事業を一覧化したもので、それぞれの事業の成長性や安全性、収益性を把握することで、注力する事業、撤退する事業を見極めることができる。

富士通が実施してきた数多くの子会社や事業の売却の背景には、戦略的に事業の組み合わせを行ってきた取り組みがある。

もう一つのインオーガニック成長は、企業内の経営資源を活用して事業や会社を成長させるオーガニック成長と対をなすもので、外部の資源を取り入れ企業を成長させる手法を指す。

M&Aなどによって新たな事業や製品、サービス、市場などを獲得し、非連続的な成長で収益を拡大させる戦略となる。

中期経営計画でこの二つの戦略を掲げたのは、これまで通り子会社や事業の売却に取り組みつつ、外部の企業や事業の買収を並行して進めることを意味する。

その外部の企業や事業の買収を後押しするのが財務戦略。2021年3月期から2023年3月期までの3年間に投じた事業成長投資と株主還元を合わせた投資額が6500億円だったのに対し、2024年3月期から2026年3月期までの3年間は2倍の1兆3000億円を見込んでいるのだ。

成長投資には、既存事業の成長領域への投資を拡大する取り組みとともに、どの程度の額となるのかは不明だが、インオーガニック成長のためのM&A投資が含まれると見られる。

富士通が企業や事業の買収に踏み切る日が、近づいていると見て良さそうだ。

1700億円の利益の上積みが必要

富士通は機器の製造からITサービス企業に経営の軸足を移してきた経緯がある。

2024年3月期の売上高構成比では、システム構築やモダナイゼーション、ソフトウエア、コンサルティングサービスなどのサービスソリューション部門が全体の60%近くを占め、ネットワーク機器や半導体パッケージなどのハードウエアソリューション部門は30%ほどに留まっている。

中期経営計画でも顧客のビジネス成長と社会課題の解決に挑むソリューションビジネスと位置付ける「Fujitsu Uvance」をはじめとする収益性の高いデジタル・クラウドサービスを中心に成長を目指す計画だ。

コンサルティングの拡充や戦略的アライアンスの発展などに力を入れることで実現を目指すことににしており、これら分野がM&Aの対象となる可能性は高そう。

こうした取り組みで中期経営計画最終年の2026年3月期は、売上高4兆2000億円(2023年3月期比13.5%増)、調整後営業利益(営業利益から事業再編、事業構造改革、M&Aなどに伴う損益や制度変更などによる一過性の損益を控除した額)5000億円(同56.2%)を目標に掲げる。

初年度となる2024年3月期は、売上高は3兆7560億5900万円(前年度比1.1%増)、調整後営業利益は2836億8500万円(同11.6%減)だった。主力のサービスソリューション部門は好調だったものの、ハードウエアソリューション部門が振るわず、減益を余儀なくされた。

2年目となる2025年3月期は売上高3兆7600億円(同0.1%増)、調整後営業利益は3300億円(同16.3%増)を見込んでおり、最終年となる2026年3月期の目標に対しては、2年目の数字に売上高で4400億円、調整後営業利益で1700億円の上積みが必要となる。

2030年に向けた持続的な成長と収益力向上を実現する手段としてはもとより、目前の数値目標の達成に向けても非連続な成長をもたらすM&Aが果たす役割はありそうだ。

【富士通】売りから買いに舵を切る場面は近いか 成長投資などを倍増
富士通の業績推移
2025/3は予想、2026/3は計画

文:M&A Online記者 松本亮一

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