
中堅のSIer(システムインテグレーター=情報システムなどを設計、開発、導入、運用する会社)であるJFEシステムズ<4832>は、M&Aを本格化する。
重点成長事業に位置付ける、企業向けの業務管理システムを手がける「ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)ソリューション」と、ITインフラの構築や運用などを行う「基盤サービス」でM&Aを活用し、成長を促進する。
事業領域の広がりへの着手が課題
同社は2025年4月に2026年3月期~2028年3月期を対象にした3カ年の中期経営計画を策定。この中で技術・開発力の強化や、シナジー創出につながるM&Aを実施する方針を盛り込んだ。
前中期経営計画(2023年3月期~2025年3月期)では、既存事業の強化と事業領域の拡大を狙ったM&Aを実施するとしていたが、適時開示したM&Aはなかった。
同社では前中期経営計画について、M&Aに3年間に60億円を投じる目標は未達成であり「事業領域の広がりへの着手が課題」と総括した。
この反省を踏まえて、新しい中期経営計画では「成長に向けた戦略的な投資とM&Aを推進する」と明記し、M&Aを含む戦略投資に3年間に50億~100億円を投じる計画を作り上げた。
中期経営計画の初年度は減収営業減益に
この前中期経営計画の反省に加えて、もう一つ同社がM&Aを積極的に推進する理由に、ここ数年同社の業績を牽引してきたJFEグループ向け製鉄所システムリフレッシュプロジェクトが一段落したことがある。
2025年3月期は、売上高の半分近くを「鉄鋼」向けが占め、重点成長事業に位置付ける「基盤サービス」の売上高は総売上高の15%、同「ERPソリューション」の売上高は同5%に留まり、三つ目の重点成長事業である原価システムや購買システムなどのDX(デジタル・トランスフォーメーション=デジタル技術で生活やビジネスを変革する取り組み)関連の「デジタル製造」の売上高は同3%だった。
製鉄所システムリフレッシュプロジェクトの完了により鉄鋼事業の売り上げが減少することで、中期経営計画の初年度に当たる2026年3月期は減収営業減益に陥る見込みで、売上高は586億2000万円(前年度比8.4%減)、営業利益は63億円(同17.0%減)を予想する。
減収営業減益は、やはり鉄鋼向けなどの売上高が減少した2021年3月期以来5年ぶりのこととなる。
この落ち込み分をカバーし、再び成長するために「ERPソリューション」や「基盤サービス」を強化することにしたもので、ERPソリューションはM&Aを活用してコンサルティング力や案件対応力を強化し、基盤サービスでもM&Aを活用して新ビジネスモデルの構築などを進める。
こうした取り組みで2025年3月期に23%だった「ERPソリューション」「基盤サービス」「デジタル製造」合計の売上高構成比を、中期経営計画最終年の2028年3月期には34%にまで引き上げ、同期に売上高674億円(2025年3月期比5.3%増)、営業利益79億円(同4.0%増)と2025年3月期を上回る業績の達成を目指す計画だ。
2019年にコンサルティング会社を子会社化
これまでのM&Aについては、同社が公表している沿革によると、直近では2019年に、BI(ビジネス・インテリジェンス=企業などの組織のデータを、収集・蓄積・分析・報告することで、意思決定に役立てる手法や技術)領域に特化したコンサルティングを手がけるアイエイエフコンサルティング(東京都中央区)を子会社化した案件がある。
JFEシステムズもBI事業を展開しており、両社間の人材交流や共同受注などの連携を強化し、国内トップクラスのBI事業ベンダーに成長するのが狙いで、買収から6年後の2025年3月期のアイエイエフコンサルティングの売上高は15億2000万円だった。
これ以前のM&Aは情報処理会社のエクサから、JFEスチールとJFEグループ会社向けアプリケーション開発や維持管理業務を取得した2011年までさかのぼる。
これまで実績があまり多くない同社が、これから繰り出す、コンサルティング力の強化や、新ビジネスモデルの構築などを目的としたM&Aは、どのようなものになるだろうか。

SIer関連市場は拡大傾向
JFEシステムズは1983年に設立された 川鉄システム開発がスタート。1986年に川崎製鉄(現 JFEスチール)のシステム部門を、1988年に工場システム部門を移管し、業容を拡大。
1994年には、システムエレクトロニクス事業部(情報通信事業、電子機器事業)を譲り受け、2004年にJFEシステムズに社名を変更し、現在に至っている。
わずかな停止が多大な損害につながる、24時間365日連続稼働する製鉄所向けのシステムを手がけており、この環境下で培われた大規模システムの構築や操業データの高度活用などに強みを持つ。
特定のベンダー(ソフトウエアやサービスを提供、販売する企業)に依存せずに、事業を展開してきており、国内の食品メーカー向け自社開発システムは、同業界で高いシェアを持っている。
情報システムの設計や開発などを手がけるSIerが関わる市場は、多くの企業がDX化を進めており、拡大傾向にある。
矢野経済研究所が2025年8月に発行した「2025 ERP市場の実態と展望」によると「老朽化したシステムや保守切れを迎えるシステムのリプレイス、乗り換えを背景に、ERP市場は成長しており、クラウド化が引き続き進展している」という。
一方で、技術革新のスピードや競争の激化、人手不足などの課題もあり、技術習得や人材確保などが今後の成長を左右する要因の一つと見られている。
JFEシステムズは、M&Aと並行して製鉄所システムリフレッシュプロジェクトに関わってきた人材を中心に、成長性の高い分野に人材を投入し、ビジネス全体を伸ばしていくという。
同社は計画通り、減収営業減益を乗り越え、成長軌道に戻すことはできるだろうか。

文:M&A Online記者 松本亮一
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