
不動産大手の野村不動産ホールディングス<3231>は、今後3年間(2026年3期~2028年3期)に、M&Aなどの戦略投資に1000億円を支出する。
持続的な成長に向けて注力する五つの領域の一つとして「戦略投資(M&A)による成長の加速」を掲げており、積極的な投資を計画しているのだ。
新領域ビジネスの獲得にも注力
野村不動産ホールディングスは、マンションや戸建て、ホテル、オフィスビル、商業施設、物流施設などの開発や運営を手がける。
M&Aの対象として、住宅開発や都市開発などの「デベロップメント事業」では、不動産事業や投資、リノベーション(大規模改修)などを手がける企業を、「運営・サービス関連ビジネス」では、ホテルや物流施設をはじめ、フィットネスや建物保守管理などを手がける企業を想定する。
さらに新領域ビジネスの獲得を目的に、エネルギーや次世代モビリティなどのインフラ領域や、 時間価値、体験価値を豊かにするエンターテインメント領域などでもM&Aを検討し、多角化を目指す計画だ。
適時開示情報によると直近のM&Aとしては、2024年4月に小田急電鉄の不動産子会社で、住宅や商業施設、ホテルなどの運営を手がけるUDS(東京都渋谷区)を子会社化した案件がある。
小田急電鉄は2015年に、コクヨが保有するUDS株式の90%を取得したあと、翌2016年の残りの10%を取得し、完全子会社化した。
UDSはコロナ禍以降、業績が悪化、小田急電鉄が事業ポートフォリオ再構築のため、2024年に手放した。
現在UDSは、野村不動産ホールディングスの住宅部門の一角を占め、不動産の企画、設計、施工事業やホテルなどの運営事業を行っている。
このほかにも適時開示はしていなが、多くのM&Aの実績がある。2018年に英国不動産運用会社Lothburyを子会社化したほか、2019年に「庭のホテル 東京」などを運営するUHM(現 野村不動産ホテルズ)と、ベトナム・ホーチミンでオフィスビル「Zen Plaza」を保有・運営するZEN PLAZAを買収。
さらに2022年に不動産関連システム開発の武蔵を、2025年に戸建て施工会社のNREG中里建設を相次いで子会社化している。
野村グループの事業連携に強み
野村不動産ホールディングスは1957年に野村証券本社ビルの所有・管理を目的に東京都で野村不動産としてスタートした。
1961年に神奈川県鎌倉市で用地買収に着手したのを機に、デベロッパーとして宅地開発業務に進出、1963年には横浜市で分譲マンションに着工し、マンション分譲事業に進出した。
1977年にビル管理業務を行う、野村ビル総合管理(現 野村不動産パートナーズ)を設立したほか、1989年フィットネスクラブを運営するエヌ・エフ・クリエイト(現 野村不動産ライフ&スポーツ)を設立。
さらに2000年には不動産仲介業務、販売受託業務などを行う野村不動産アーバンネット(現 野村不動産ソリューションズ)を設立するなど、業容を拡大。
同社の優位性は、野村グループの事業連携にある。今後3年間に注力する取り組みとして、M&Aのほかにも、野村グループとの連携の強化を掲げる。
野村証券が持つ充実した顧客基盤と、野村不動産ホールディングスが持つ不動産関連商品やサービスを、かけ合わせることで、それぞれの商品やサービスの価値を最大化する。
具体的な事例として、富裕層向け分譲住宅での連携や、富裕層向け不動産仲介での連携、さらには私募ファンドを運用する合弁会社などがある。
すでに2022年8月に私募ファンドを運用する合弁会社として野村リアルアセット・インベストメントを設立、2025年3月末時点で運用資産額は1259億円に達しており、今後さらに拡充する。

海外事業に3年間で2000億円を投資
野村不動産ホールディングスはM&Aのほかにも、成長事業である賃貸住宅、シニア住宅、ホテル、物流施設、海外事業などに重点投資する計画だ。
賃貸住宅とシニア住宅には今後3年間で約1000億円の投資し、新規商品への投資を拡大するほか、高付加価値な案件にも取り組む。
ホテルにも3年間に約1000億円を投じ、既存の「NOHGA HOTEL」「庭のホテル」や、UDS運営ブランドに加えて、新たなタイプのホテルへの投資を実施する。
物流施設には3年間に約3000億円を投じ、首都圏をはじめ地方でも新たな施設の建設を進める。
海外事業では、国内で培ったノウハウを活かし、ベトナムやフィリピンなどのアジアの成長国と、英国や米国などの先進国にバランスよく展開し、3年間で2000億円を投資する。
すでにベトナムではハノイとホーチミンで事業を推進しており、フィリピンでは現地の大手デベロッパーとの合弁会社「Federal Land NRE Global」を通じて事業を拡大する。
また英国ではロンドンでのオフィス取得や、社会課題を解決する賃貸住宅事業をすでに手がけており、これら事業を拡充するほか、米国では安定的な需要が見込まれる賃貸住宅への投資を継続して実施するとしている。
5期連続の増収営業増益へ
不動産業界は、少子高齢化の進展や労働人口の減少、人材獲得競争の激化などの課題を抱えており、将来は国内市場の縮小が見込まれている。
このため三菱地所<8802>が欧州での開発事業の強化と収益基盤の拡充に乗り出すなど、大手を中心に海外展開を強化する動きが見られる。
一方で、足元の日本の不動産投資市場は堅調で、当面は東京都内などの不動産に対する需要は旺盛に推移する見込みのため、中堅不動産会社のランディックス<2981>が東京都内での事業拡大を加速するなども取り組みある。
野村不動産は、総売上高の半分近くを占める住宅部門(マンション、戸建て住宅の開発・分譲、賃貸マンションの開発・販売、シニア向け住宅の開発、ホテルの開発など)、同30%ほどの都市開発部門(オフィスビル、商業施設、物流施設の開発・賃貸・販売、オフィスビル、物流施設の運営など)が主力。
このほかに運営管理部門(マンション、オフィスビルの運営・管理、修繕工事、テナント工事の請負、リフォームなど)、海外部門(マンション、戸建て住宅の開発・分譲、オフィスビルの開発・賃貸など)などで事業を構成しており、国内外で事業を展開している。
2025年3月期は売上高7576億3800万円(前年度比3.1%増)、営業利益1189億5800万円(同6.1%増)の増収営業増益で、2026年3月期は24.1%の増収、2.6%の営業増益と、2022年3月期以来5期連続の増収営業増益を見込む。

文:M&A Online記者 松本亮一
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