海外M&Aに「異変」か? 上場企業による買収と売却がほぼ拮抗

今年に入り、上場企業がかかわる海外M&Aに異変が生じている。2025年1~3月期のM&Aのうち海外案件(適時開示ベース)は前年と同数61件と引き続き高水準をキープしているが、その内容が様変わりしているためだ。


インバウンドがアウトバウンドに並ぶ

国境をまたぐ海外M&Aは日本企業が買い手となるアウトバウンド取引と外国企業が買い手となるインバウンド取引に分かれる。

年によって変動はあるものの、アウトバウンドがインバウンドを大きく上回るのが通常のパターン。2024年の海外M&Aをみても、年間228件の内訳はアウトバウンド155件に対し、インバウンド73件と、2対1の割合(インバウンド比率32%)となっている。

ところが、2025年の第1コーナーである1~3月期の海外M&A61件をみると、アウトバウンド31件、インバウンド30件と両者がほぼ拮抗しているのだ。

もっとも、例年、年度末にあたる1~3月期は、国内外を問わず不採算事業や非中核事業の売却を進める動きが強まる傾向がある。なかでも大型の売却案件や多額の資金を必要とするMBO(経営陣による買収)などでは投資ファンドが受け皿になるケースが多い。

2024年1~3月期の海外M&Aは今年と同数の61件で、内訳はアウトバウンド38件、インバウンド23件。インバウンドは四半期別で最も件数が多かったが、それでもアウトバウンドが明らかな優位にあった。

これに対し、今年の場合は日本企業による買収が鈍化する一方、外国企業による買収が増えた結果、アウトバウンドとインバウンドがほぼ同数で並んだ。

海外M&Aに「異変」か? 上場企業による買収と売却がほぼ拮抗
適時開示ベース。2025年は1~3月期

30件中、8割が海外子会社・事業が対象

30件を数えたインバウンド案件のうち、8割にあたる24件は日本企業の海外における子会社・事業が買収対象となった。米国、ドイツ、英国、インド、ベトナム、中国、台湾など14カ国・地域に及び、買い手は現地の同業、合弁パートナー企業、投資ファンドのいずれかだ。

残る6件は日本企業(上場企業本体、もしくはその国内子会社)を直接、買収ターゲットとする案件。

セブン&アイ・ホールディングスはスーパー事業など非中核事業を束ねる中間持ち株会社のヨーク・ホールディングスを8100億円超で、三菱ケミカルグループは傘下の田辺三菱製薬を5100億円でそれぞれ米投資ファンドのベインキャピタルに売却することになった。

測量機大手のトプコンは米ファンドのKKR、人材マネジメントシステム提供のカオナビは同じく米投資ファンドのカーライル・グループ、航空機内装品メーカーのジャムコはベインキャピタルによるTOB(株式公開買い付け)を受け入れて株式を非公開化するほか、センサー製造の芝浦電子に対しては台湾電子部品大手YAGEO(ヤゲオ)が同意なき買収を提案中だ。

◎2025年1~3月期の海外M&A:国・地域別件数

海外M&Aに「異変」か? 上場企業による買収と売却がほぼ拮抗

トランプ政権下、買収と売却が交錯する動きに

海外M&Aはコロナ禍の影響で外国との往来が困難になった2020年に年間153件と25%近く落ち込むと同時に、日本企業が海外事業の選別を進めた結果、インバウンド比率が急速に高まった経緯がある。

インバウンド比率は2020年に33%と前年比10ポイント上昇。21年、22年は各41%台まで跳ね上がった後、23年、24年は各32%で推移したが、20%台前半だったコロナ禍前と比べるとなお高止まり状態にある。

足元では、「米国第一」を掲げるトランプ米政権による高関税政策でグローバル経済が混乱に陥っている。日本の産業界が世界規模でのサプライチェーン(供給網)の再構築を迫られる中、買収と売却の動きが交錯することになりそうだ。

◎2025年1~3月期:海外M&Aの金額上位100億円超

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文:M&A Online

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