中国は第2次トランプ政権にどう対応するか│M&A地政学

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「M&A地政学」では、国際政治学者で地政学の観点から企業のリスクコンサルティングを行うStrategic Intelligence代表の和田大樹氏が世界の潮流を解説する。今回は「中国は第2次トランプ政権にどう対応するか」を取り上げる。

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対中に厳しい姿勢で臨む第2次トランプ政権

11月の米国大統領選挙は、事前の世論調査結果とは裏腹にトランプ氏の圧勝、民主党陣営の大敗だった。トランプ氏は今回の選挙戦で、自らが出馬した過去2回の大統領選で獲得した票数を上回り、同時に実施された連邦議会選挙では上院と下院で共和党が過半数を握って多数派となるなど、法案や予算案でも大きな壁に当たることなく政権運営が可能な状況になっている。

そして、第2次トランプ政権で外交・安全保障政策を司る要職では相次いで対中強硬派が抜擢されている。国務長官にはマルコ・ルビオ上院議員が起用されるようだが、ルビオ氏は対中強硬派で、中国・新疆ウイグル自治区の人権問題を強く非難し、中国の軍事的脅威に直面する台湾を軍事的に支援する必要性を説く。

安全保障担当の大統領補佐官にはマイク・ウォルツ下院議員が選出されたが、ウォルツ氏は陸軍特殊部隊出身で、下院では中国批判の急先鋒として知られている。このような人事配置からも、第2次トランプ政権が中国へ厳しい姿勢で臨んでいくことは間違いない。

第二次トランプ政権に対する中国の対応、ハード面

では、中国はそれに対してどう対応していくのだろうか。それは大きく分けてハード面とソフト面の2つがある。まず、ハード面だが、今日の中国は第2次トランプ政権が強硬姿勢に徹してくることは十分に織り込み済みであり、いわゆるトランプ関税の嵐が到来するシナリオを想定している。

トランプ氏は政権1期目、米国の対中貿易赤字を是正する目的で、2018年から4回にわたって3700億ドル相当の中国製品に最大25%の関税を課す制裁措置を次々に発動していった。しかし、中国も農産物や自動車、液化天然ガスなど多くの米国製品に対して報復関税で対応するなど、米中の間では貿易摩擦が激化していったことは記憶に新しい。 

トランプ氏は選挙戦の最中から中国製品に対して一律60%、メキシコからの輸入車(これはメキシコで車を生産し、米国へ輸出する中国の自動車メーカーを意識したもの)に対して200%の関税を示唆したが、具体的な関税率は異なるものの、最近になって中国製品に対して10%の追加関税、メキシコからの全ての輸入品に対して25%の関税を課すと明らかにした。

トランプ氏は2期目で再選を考える必要がなく、政権も議会も賛同者に囲まれており、1期目以上に大胆な関税措置を発動していく可能性がある。

中国もそれに対しては強気の姿勢で再び臨むことだろう。実際、中国は12月上旬、希少金属のガリウムやゲルマニウム、アンチモンなど半導体製造にとって欠かせない鉱物の対米輸出を全面的に禁止すると明らかにした。

中国当局はこれについて、米国が近年、輸出管理規則を濫用し、中国向けの輸出を意図的に制限していることへの報復と説明したが、バイデン政権による先端半導体分野の対中輸出規制への対抗措置であろう。中国としても、トランプ政権に対して弱腰の姿勢を国民に対して見せることは避けたいことから、ハードな姿勢でトランプ政権に臨んでいくことだろう。

第二次トランプ政権に対する中国の対応、ソフト面

一方、ソフトの面も注目に値する。中国は第1次トランプ政権からの教訓から、中国ではなく、むしろトランプ政権の保護貿易的な姿勢自体がグローバル経済、自由貿易にとって脅威だと内外に強く訴えることで、インドを盟主とするグローバルサウス諸国との連携や協力を強化し、欧州や日本を米国から切り離したい狙いがある。

習近平国家主席は11月、ブラジルで開催されたG20首脳会議で、国際協力の重要性を強調し、保護主義に反対する立場を強調した。この会議は米国大統領選後に開催されたことから、名指しはしなかったものの、この発言はトランプ氏を意識したものと考えられる。

バイデン政権は中国による経済的威圧や過剰生産などに対応するため、サプライチェーンの強靱化などで同盟国との連携を強化してきた。中国としてはそういった対中連携のような構図を打破し、米国と日本、欧州との間に楔を打ち込みたい狙いがある。

むしろ、保護主義的なトランプ政権の米国を孤立化させるような形で、中国は諸外国との安定的な経済、貿易関係の強化に照準を合わせてくる可能性がある。

新型コロナの感染拡大も影響し、今日の中国経済に以前のような勢いはなく、経済成長率の鈍化や不動産バブルの崩壊、若年層の高い失業率など経済的な課題が蓄積しており、この状況でトランプ政権による関税制裁に直面することを中国政府は警戒している。

中国としては、トランプ政権のもとで米中経済を良い方向へ持っていくことは難しいと判断し、グローバルサウス諸国や日本との経済、貿易関係の強化を目指し、ソフトな顔を強調してくることが考えられよう。

文:株式会社Strategic Intelligence 代表取締役社長CEO 和田大樹

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