
連載2回目は、ソフトウエアの品質保証・テストのリーディングカンパニーであるSHIFTの丹下大社長をお迎えしました。もともとコンサル会社だったSHIFTさんが、現在の事業に進出したきっかけや、業界での強みを伺い、エンジニアとしてもすごく勉強になりました。
“落書き”にぴんときて…ソフトウエアテスト市場に進出
池澤 最初にSHIFTさんがソフトウエアの品質保証・テストの事業を始めた経緯からお聞きしてもいいですか?
丹下 当初、SHIFTはコンサルティングを主たる事業としていました。2007年頃、コンサル案件で国内の大手EC企業に入ったとき、120人くらい外注のテストエンジニアがいて、彼らがろくに仕事もせず高額な報酬をもらっている現場に出くわしました。なぜこんな状況になっているのかを調べるため、彼らに「どういう方法論でテストやっているのですか」と聞いてみたところ、「こんな風にやっています」と落書きみたいなExcelを出してきたんですよ。
池澤 落書きですか(笑)
丹下 それを見せられたとき、ソフトウエアテストにはアーキテクチャーも方法論もないのだと気づき、これは僕らがつくらなければいけないと思いました。こうして開発したのが、ソフトウエアテスト管理ツールの「CAT」です。さらに、優れたテストエンジニアに必要な資質や能力を要素分解で見つけ出し、それをブレイクダウンして「CAT検定」という認定試験も開発しました。事業を始めた経緯を大ざっぱにいうと、そんな感じですね。

池澤 確かに、テストエンジニアさんと、私たちのような開発側のエンジニアでは、もっている資質やものの考え方が違うんじゃないかと感じることがありますね。私も今一緒に仕事をしているベンチャーで「こういうケースがある」「こういうフローがある」ってテストケースを羅列してExcelで場合分けしているのですけど、正直言って苦痛です(笑)。
丹下 プラグラムを書く人は想像を膨らませていく系、テストの人は風呂敷を畳んでいく系なので思考方法が全然違います。僕は「筆箱に鉛筆を長い順に並べるタイプ」とたとえるのですが、そういう人じゃないと良い仕事ができないんですよ。
池澤 テストは建築でいうと基礎工事のように見えないけど、すごく大事な部分ですよね。

ソフトウエアの不具合を見つけて改善する
池澤 この記事はエンジニア以外の人も読まれるので、テック寄りではないソフトウエアテストの社会的価値みたいな話もお聞きしたいのですが。
丹下 例えば、僕らが普段使っているスマートフォンやATM、ECって、裏側で数え切れないほどのソフトウエアが動いていますよね。池澤さんはご存知でしょうけど、ソフトウエアってどれだけ丁寧につくっても2%は不具合が出てしまうんです。その不具合を見つけて改善するために必要なのが、ソフトウエアテストです。
業界によって数値は異なりますけど、サービス提供時に含まれる不具合の許容度を表すリリース基準は最も厳しい金融機関で0.25%、最もゆるいゲーム系で4%、その他のサービスで0.5%といわれています。この基準まで不具合をなくすためにソフトウエアテストが必要不可欠なのです。
池澤 すごく大切なのに、ソフトウエアテストって一般にはあまり知られていませんよね。
丹下 国内のソフトウエアテスト市場は約5兆円ですけど、外部にアウトソースされるのは1%に過ぎません。つまり、99%の会社は内部でテストをしているから、あまり知られていないのだと思います。
個人的には、レガシーな会社はテストをやり過ぎだと思っています。例えば、ある銀行は年間のIT予算450億円のうち200億円もテストにかけています。一方、スタートアップは、テストにお金と時間をかけなさ過ぎです。
独自の方法論で6000件のテストを20件に減らす
池澤 SHIFTさんのソフトウエアテストには、どういう特徴があるのですか?

丹下 僕は技術者じゃないから概念的な話になりますが、メッシュを張って不具合を見つけるイメージです。そのメッシュが細かければ細かいほど見つけられるので、いろいろな手段で細かくしています。ただし、やり過ぎるとコストと納期に影響がでるので、いかに効率化するかが重要で、そこに僕らのノウハウがあります。
例えば、IDとパスワードを入れてログインする単純なプログラムをテストするとしても、大文字・小文字・特殊文字、OS /ブラウザのバージョン、ECの場合だと会員ポイントを持っているか、クレジットカードの有効期限はいつかなど場合分けが膨大にあり、大体6000件のテストが必要になります。
池澤 6000件ですか。
丹下 普通1人のエンジニアがこなせるのは1日200件ですから、休まずがんばっても1カ月かかります。これに対し、僕らは過去のナレッジや方法論を使ってあり得ない組み合わせを洗い出したり、代替可能なケースを省略したり、不具合の98%を発見できる統計論的手法など駆使したりして、6000件を20件まで減らすことができます。そうやって効率的かつ高精度なテストを安価・短納期で提供できることが、SHIFTの強みです。
池澤 今のデジタルな生活の中で安心してソフトウエアが使えるのは、SHIFTさんのようなテストの専門企業さんのおかげなんですね。
次回Part.2(2月22日公開予定)では、年収が毎年10%も上がるSHIFTさんのエンジニアの働き方に迫ります。楽しみにしてください。
企画:ストライクIT業界チーム(最新情報はこちら)