池澤あやかの「M&Aって、ホントはどうなの?」|マネーフォワード・菅藤達也執行役員CSOに聞く(前編)

第3回は、Fintechの先駆的企業であるマネーフォワードの執行役員CSO/提携・事業責任者、菅藤達也さんをお迎えしました。菅藤さんは自ら起業したクラビスを売却してマネーフォワードグループにジョインし、今度は買い手としてベンチャーを買収する立場になりました。

M&Aの両側を経験した菅藤さんにいろいろなお話を聞きました。

知人の結婚式で偶然社長と出会い、半年以内に創業企業をM&A

池澤 本日ゲストにお招きした菅藤さんは、マネーフォワードの執行役員CSOでありながら、ご自身が起業したクラビスの社長さんでもあるんですよね?

池澤あやかの「M&Aって、ホントはどうなの?」|マネーフォワード・菅藤達也執行役員CSOに聞く(前編)

菅藤 マネーフォワードでは、全社視点で成長戦略を立てることと、新規事業の創出が僕のミッションです。そのミッションを実行するために、既存事業の強化と新規事業の獲得が必要なので、その両面でM&Aを活用しています。クラビスは、僕が2012年に起業した会社で2017年にマネーフォワードグループにジョインし、今も事業を展開しています。

池澤 マネーフォワードのM&A第1号案件がクラビスと聞きましたが、どういう経緯でM&Aに至ったのですか?

菅藤 クラビスは、会計事務所や税理士法人向けのサービスを提供していて、マネーフォワードと共通のお客さまが多かったんです。僕らのツールとマネーフォワードのツールは、ちょうど補完関係にあり、両方使っているお客さまが多く、近い存在だと感じていました。

池澤 お客さまを通してお互いを意識していたのですね。

菅藤 あるとき、懇意にしていた税理士さんの結婚式に主賓として招かれました。その会場にいったら新婦側の主賓がマネーフォワードの辻庸介社長だったんです。すごい偶然で「こんにちは、久しぶりですね」みたいに挨拶して「ちょっと情報交換しましょうか」みたいな話になりました。

池澤 すごい!奇跡的な巡り合わせですね。

菅藤 意見交換してみたら、辻さんの価値観や考え方、事業に対する思いにすごく共感できて、話せば話すほど一緒に仕事したいと思うようになり、「M&Aして一緒にやりませんか」と、僕から切り出しました。

池澤 え?いきなり(笑)。

結婚式で会ってから、どのくらいの期間で告白したんですか?

菅藤 半年くらいです。まさにスピード結婚でした(笑)。

池澤あやかの「M&Aって、ホントはどうなの?」|マネーフォワード・菅藤達也執行役員CSOに聞く(前編)
マネーフォワード・菅藤達也さん(左)

M&Aで事業が成長して、世の中が良くなれば社員も幸せになれる

池澤 マネーフォワードグループとのM&Aに不安はなかったのですか?

菅藤 人生かけて起業しましたから、当然自分の会社への思い入れはものすごくありました。でも、僕は起業する前、ネット調査会社で経営企画をしていて、そこで買う側・売る側両方の立場でM&Aを経験していたので、不安はありませんでした。むしろ経営者として、どうすれば事業を伸ばせるか考えた結果、マネーフォワードグループに入った方が事業を伸ばせると想像できたので、不安どころかワクワクしかありませんでした。

池澤 クラビスの社員さんは、M&Aの話を聞いたとき、どう反応されましたか?

菅藤 最初はびっくりしたと思います。でも、クラビスの目的は、事業を伸ばして世の中を良くすることであり、M&Aすることでそれが加速できるのだから喜ばしいことだと話したら、納得してくれました。

池澤 IPOがゴールだと考えているベンチャーやスタートアップにとって、M&Aって抵抗があるのかなって思ったのですが。

菅藤 「IPOするぞ、エイエイオー!」って頑張ってきた会社が、突然M&Aの話をしたら「自分たちの今までの努力は何だったんだろう」って目標を見失うこともあると思います。それはIPOがゴールだと思い込んでいるからなんですよ。本来、会社って事業を伸ばして世の中を良くすることが目的で、IPOは通過点に過ぎないはずです。IPOよりM&Aの方が事業を伸ばせるのだとしたら、結果的に社員も幸せになれると思います。

買収後も、経営者にそのままアクセルを踏み続けてもらった方が成長できる

池澤あやかの「M&Aって、ホントはどうなの?」|マネーフォワード・菅藤達也執行役員CSOに聞く(前編)

池澤 M&Aにはグループにジョインして子会社になる形と、吸収合併される形があると思うのですが、今回は前者が良いと判断したということですよね?

菅藤 どちらにもメリットとデメリットはありますが、今の僕らは吸収合併型のM&Aはしていません。

事業も市場も成長途上にあるし、その中で伸び代はあるけどスピードに乗り切れていない企業とのM&Aが多かったので、そのまま経営者がアクセルを踏み続けてもらう形をとっています。その方がアイデンティティや独自性を維持しつつ、バックオフィスや資金、ブランディング、採用などの煩わしい業務を切り離し、純粋に事業を伸ばすことに集中できると思うからです。

池澤 同じ業界のM&Aだったら、同ブランドにした方がユーザーにとってわかりやすくないですか?

菅藤 そこは悩ましいところですね。確かに、同じ冠をつけるM&Aにもメリットはあると思います。一方で、昨日までと違うバッジをつけなさいって言われたら、働いている人たちのプライドが傷つく可能性もあると僕は思うんです。なので、そこはドラスティックにしない方針でやっています。

ただ、お客さまにバラバラ感を与えるのも良いとはいえません。そこを考えて、クラビスの「STREAMED」というサービスは、M&A後、ロゴの中に「powered by Money Forward」と明記するようにしました。こうすることで、マネーフォワードの名刺でクラビスのサービスを売る営業も違和感がなくなるし、お客さまにも安心して使ってもらえると思っています。※中編記事、後編記事

次回Part.2(3月22日公開予定)では、菅藤さんがM&AによってクラビスもマネーフォワードもWin-Winでシナジーを発揮できた理由を話してくれます。次回もお楽しみに。

企画:ストライクIT業界チーム(最新情報はこちら

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