
「業務スーパー」を展開する神戸物産<3038>は「食の製販一体体制」を基盤に、食品工場のM&Aに積極的な姿勢をとる。食品工場をグループ化することで、どのようなメリットが生まれてくるのか。
また同社はCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)にも前向きで、ファンドを通じ、主に海外企業の新しい技術や製品の導入を目指している。スーパーがなぜ外国企業の技術を必要とするのか。同社の沼田博和社長に狙いをお聞きした。
売っているモノの中身をしっかりと理解
-ビジネスモデルとして「食の製販一体体制」を掲げています。どのような思いが込められているのでしょうか。
食の製販一体体制を築いている大きな理由の一つに、小売業として自身が売っているモノの中身をしっかりと理解して売らなければならないとの思いがあります。そのためには製造部門まで遡って、自らがその知識や経験を得ることで大切です。
実際に自らが、この商品がどういう工程で作られているのか、どういうレシピで作られているのかが分かれば、改善してより良い商品を作ることができますし、コスト削減にもつながります。製販一体体制は、組織だけのことではなく、情報自体をいかに透明化して、その中でいかに改善のサイクルを回し続けるかということが大事です。
-なぜ、売っているモノの中身をしっかりと理解しなければならないと考えたのですか。
もともと食の安全・安心は非常に重要なことだと考えていましたが、そうした中、いわゆる「中国の毒餃子事件」が起こりました。我々が販売した商品に問題が起きたわけではないのですが、消費者に中国商品に対する不安が広がり、非常に大きなダメージを受けました。
そこで輸入品をもっと安心して食べていただけるように検査体制を整備するとともに、我々自身がもっと製造業に入って、しっかりと中身を把握したモノを売ろうということになったのです。
-コスト削減も目的の一つとのことですが、具体的な事例はありますか。
現在、急速なインフレが進んでおり、この状況の中では改善のスピードが遅れれば遅れるほど、損失が積み上がります。我々の場合は製販一体体制を敷いていたためクイックに対応でき、品質改善とコスト削減を両立することができました。世の中の変化がどんどん早くなっていく中、クイックに動ける製販一体体制は非常に重要だと考えています。
-M&Aによる食品製造拠点の増強方針を打ち出されています。
M&Aは基本的には積極的に推進して、自社のプライベートブランドの構成比率を上げていくことにしています。新規に工場を立ち上げるには、新しく土地を買って建物を建て、そこに人を雇用して、教育しなければなりません。これには多くの時間と手間がかかります。既存の食品工場であれば食品の製造には慣れていますので、ゼロからよりは、はるかに早く立ち上げることができます。
-現在、国内に25の自社グループ工場、海外に350強の協力工場があります。今後この数字はどのように変わるのでしょうか。
具体的に何工場という指標はありませんが、まだまだプライベートブランドを増やしていく方向ですので、いずれの数字も増えていくと思います。
海外の新しい技術を発掘
-CVCに取り組んでおられます。
海外の新しい技術の発掘を目指しています。自社グループ工場で使う技術や原料、店舗運営などが対象になります。当社はスーパー業界の中では、特殊な店の造りになっています。他のスーパーでうまくいっている仕組みでも、当社でうまくいくケースはあまりありません。
このため独自のものを生み出さなければなりませんが、その時にできるだけ広く情報がほしいと考えています。国内の情報だけでなく、海外にもいろんな新しい技術がありますので、その中から当社にマッチするものを探すのが目的です。
基本的に純投資という考え方をしておらず、あくまで探してきたベンチャーの技術や製品を取り込むことを考えています。
-2022年10月期に売上高、営業利益、経常利益が過去最高を更新しました。2023年10月期も増収増益の見通しです。この好業績をどのように評価されますか。
今期は利益面で苦労していますが、売上高はまだまだ右肩上がりで伸びていくと見ています。我々が一番重要視しているのは既存店売上高です。店舗数は1000店舗を超えましたが、結局は各店舗がその地域で競争する中で、どのようにシェアを取っていくのかが最も重要です。
各店舗で利益が出れば、次の出店につながります。その先には、例えば5万人商圏でみた時に、今の売上実績だと一店舗しか出せないけども、既存店が成長を続けていれば、このエリアにもう一店舗出店することができ、業務スーパーのシェアを高めることができます。
これに毎年20店から40店の新規出店が加わり、売り上げが増えるという流れです。当社の場合、売り上げが大きくなればなるほど利益率が高くなるという傾向がありますので、利益率をさらに改善していくためには、売り上げを増やしていくことが一番効率的なのです。
-製薬会社で研究開発をされていた経験をお持ちです。
前職では製品化に至るまでのスケールアップを経験しました。製品をスケールアップしていく過程で自身が開発していたものだけではなく、研究開発部門全体でどういうトラブルが起きるのかを、共有していました。その経験から今、プライベートブランドの開発の現場で最終ジャッジをしていますが、起こり得る問題を非常にイメージがしやすいということがあります。
もう一つは、前の会社は歴史があり、しっかりした組織体制ができていました。一方、神戸物産は私の入社当時は組織的には弱い状態でしたが、トップダウンで意思決定が早く、改善のサイクルが早い会社でした。この両方のいいところを活かせるように、神戸物産に足りないエッセンスを加えてきました。例えば以前は、意思決定は早いのですが、下から意見が上がってこない文化でした。これが今はかなり上がってくるようになりました。10年前と比べると役職者が自信を持って仕事しており、文化が大きく変わったと思っています。

【沼田博和氏】
京都薬科大学大学院修士課程を修了し、大正製薬に入社(研究職)後
2009年、神戸物産入社
2010年、STB生産部門 部門長
2011年、 取締役
2012年、代表取締役社長に就任(現任)
2018年、外食事業推進本部担当役員(現任)
1980年11月生まれ、兵庫県出身
文:M&A Online