
野村リサーチ・アンド・アドバイザリー(東京都千代田区)と、Japan Search Fund Accelerator(東京都中央区)は共同で、ジャパン・サーチファンド・プラットフォーム投資事業有限責任組合を設立し、事業承継問題を抱える中小企業と、経営者を目指す人材とのマッチングを支援するサーチファンド事業を始めた。
サーチファンドは米国発祥で、ビジネススクール修了後の若手を中心に広まり、日本でも近年、後継者不在企業を対象にした事業承継の一つの手法として注目を集めている。
そこで、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーの茂木豊社長とJapan Search Fund Acceleratorの嶋津紀子社長に、日本でのサーチファンドの将来性やジャパン・サーチファンド・プラットフォーム投資事業有限責任組合の事業計画などについて聞いた。
海外のサーチファンド投資家が日本市場に注目
ー日本でのサーチファンドの現状をお教え下さい。
嶋津さん まずサーチファンドというのは、特に欧米ではビジネススクールを出た社会人経験のある若手ビジネスマンがサーチャーとなり、自分の買いたい会社を見つけるまでの資金をいろんな投資家から集めてくるのが一般的です。
サーチャーの年齢は米国だと32歳あたりが平均ですが、日本では30代後半から40代の方からの問い合わせが多いです。かならずしもビジネススクールを出ていないと社長になれないという状況ではありません。さらに米国ではたくさんの投資家から資金を集めてきていますが、日本ではなかなか難しく、今は一つのファンドが100%出資するのが一般的です。
茂木さん 日本には後継者がいなくて、困っている会社が数多くあります。いろんな統計がありますが、ある統計では約12万社という数字が上がっています。一方で事業承継のM&A案件は年間600件強しかありません。圧倒的にソリューションが足りていない状況です。この面では十分サーチファンドが育つ余地があります。
また、こうしたファンドにお金を入れようという投資家様のニーズは一定程度あるようです。現在動いている1号ファンドでは、すでに30億円強を投資していただいており、6~7月には当初予定の50億円に達する見込みです。
事業を始めて、経営をやりたいと手を上げるサーチャーさんが多くおられるなと感じています。今回のファンド立ち上げの際に、野村グループ内でサーチファンドの取り組みに関してヒアリングしてみたところ、サーチャーというキャリアに関心を持っている方が大勢おられました。これは驚きと発見でした。現在、ファンドとしては、10数人の候補者の方とやり取りをしています。こうした状況を考えると、日本でサーチファンドが大きくなっていく可能性は高いといえるでしょう。
嶋津さん 海外のサーチファンド投資家も日本のマーケットに注目しています。まだ日本のマーケットが立ち上がり切っていないという認識があるため、機を待っていると言ったところです。いい案件があったら紹介してほしい。相乗りしたいという話が増えてきています。将来的には海外の資金が入ってくる可能性は十分ありますね。
どんな会社をどのようにしたいのか考える時間必要
ー多くの人がサーチャーになりたいという考えを持っているとのことですが、サーチャーになるためにはどのような能力が必要なのでしょうか。
茂木さん 経営をするにあたっての基礎的な能力があるのが大前提です。
さらにサーチャーは、自ら能動的に投資先を探し、そのあとは経営者として社員を引っ張っていかなければなりませんので、行動力、リーダーシップ力も強く求められます。また、これまでの経験を活かして、どのように企業価値を高めていくのか。この道筋も重要です。
嶋津さん サーチャーになるためには、どんな会社をどのようにしたいのかということを考える時間を増やすことが必要です。経済ニュースを見聞きした時に、なぜそうしたのだろうか、自分だったら何をするだろうか、何ができるだろうか、といったことを考えていると、考えが浮かんでくる業界、浮かんでこない業界、考えていて楽しくなる業界、そうではない業界が出てきます。
これを積み重ねていくと、自分の得意なことと興味があることが見えてきます。どんな会社を経営できたら、嬉しいのかが分かります。こうしたプレサ―チのようなことをやっておくとサーチがうまくいく可能性が高まります。
ー現在サーチャーは何人選定されているのでしょうか。
嶋津さん 現在は松本竜馬さんがサーチャー活動をされています。6月にはもう一人岡部祐太さんが加わる予定です。その後は年間3人ほどの方にサーチャーになっていただき、最終的には10人ほどにしたいと考えています。
ー2号ファンドはどのようなスケジュールをお考えでしょうか。
茂木さん 1号ファンドは10年を期限としたファンドですので、5年間は投資期間と考えています。一定程度投資が進んだ段階では次のファンドを立ち上げることができる予定です。1号ファンドの投資が早く進めば、2号ファンドの立ち上げも早くなるでしょう。
理想のキャリアに挑戦

サーチャーの松本竜馬さん(31) 私は三菱商事でPE(プライベート・エクイティ=未上場企業を対象にした株式投資)ファンドに携わっていました。ニューヨーク勤務時に、MBAを取得した先輩経由で日本でもサーチファンドが始まると聞きワクワクしました。サーチファンドは企業を探している間は、PEファンドのように投資先を選定し、投資を実行したあとは中小企業の経営者になれます。
私は祖父が中小企業を経営していたこともあって、いずれ中小企業を経営してみたいと思っていました。サーチファンドは自分の投資経験を活かせ、経営を実践していける、私にとって理想のキャリアだと思って、挑戦することを決意しました。
2022年2月からサーチャーの活動を行っており、前職の経験とネットワークを活かせる介護、医療領域などを中心としつつ幅広い業界で探しています。今まで見たことも聞いたこともない業界の企業を知ることができ、毎日とても楽しく過ごしています。
プロ経営者になる目標実現へ

サーチャーの岡部祐太さん(34) 私は15年前からプロ経営者になるという目標を持っており、サーチファンドは、プロ経営者に行き着く選択肢の一つとして私にはフィットしていると思い、参画しました。
社会人になって約5年間、大手M&A仲介会社で事業承継の問題に関わってきました。その後、経営コンサルティング会社に移り、約4年間プロジェクトマネージャーとして、中堅、中小企業に対するコンサルティング、経営支援を行ってきました。サーチャーが行う業務のうち、案件を見つけるまではM&A仲介の経験、案件を見つけてからはコンサルティングの経験が活きてくると思っています。
サーチャーの活動は2022年6月からスタートします。投資先については幅広く検討していきますが、プロジェクト経験のある介護、製造、販売会社を中心に見ていきたいと考えています。サーチファンドは若くして経営者になれる仕組みですので、ぜひ皆さんにお薦めしたいです。
【略歴】
嶋津 紀子 (しまづ・のりこ)さん
1985年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒。ボストン・コンサルティング・グループで、大企業の経営戦略立案に従事した後、米国スタンフォード大学経営大学院にて経営学修士(MBA)を取得。
茂木 豊(もぎ・ゆたか)さん
1972年、神奈川県生まれ。住友信託銀行で銀行業務・ストラクチャードファイナンス、エートス・ジャパンで企業・債権・不動産投資を担当。2005 年から野村證券投資銀行部門で日本のM&A アドバイザリー部門ヘッド就任まで多くのM&A アドバイザリー案件を手がけた。欧州投資銀行共同ヘッド、総合商社・PE ファンドカバレッジヘッドを歴任し、2020年から野村ホールディングス マーチャント・バンキング部門担当執行役員としプライベート投資業務を担当。野村リサーチ・アンド・アドバイザリー社長、野村キャピタル・パートナーズ取締役、野村ホールディングス執行役員、野村スパークス・インベストメント社長兼 Co-CEO。慶應義塾大学商学部卒業、バージニア大学ダーデンスクールMBA。
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聞き手・文:M&A Online編集部 松本亮一