
日本企業による海外M&Aの相手国として最も多いのは言うまでもなく米国だ。アフターコロナの到来で日本企業の対米M&Aが活発化する一方、円安水準の長期化を背景に米国勢の対日M&Aも過去最多のペースを保つ。
日米M&A55件中、4割は米が買い手
M&A Onlineが適時開示情報をもとに調べたところ、1~9月の国内上場企業によるM&A件数は前年比19%増の889件。このうち、国境をまたぐ海外M&Aは同17%増の167件で、残る10~12月が前年と同水準なら年間240件に達し、前年(年間216件)に続いて最多を更新する見通しだ。
ここまで167件の海外M&Aを国・地域別にみると、米国が55件で断トツ。2位のシンガポール15件を圧倒する。これに中国10件、オーストラリア8件、マレーシア、香港、オランダ各7件、ドイツ6件、タイ、英国、フランス各5件で続く。
日米間では日本企業による買収が着実に件数を伸ばす一方で、今年とくに目立つのは米国企業による対日買収が急増していることだ。9月末までの全55件中、日本企業が買い手の案件が33件に対して米国企業が買い手の案件は22件と全体の4割を占める。
2023年は年間を通じても全53件中、米国企業が買い手の案件は10件だった。コロナ禍の影響を受けた2020年~2022年は日本企業が事業の選別にアクセルを踏み込んだ結果、米国企業による対日M&Aが年間15~17件に増えたが、今年は当時をすでに超え、過去最多ペースで推移中だ。

対日M&A、ファンドの独壇場
その牽引役となっているのが投資ファンドだ。今年のここまで22件の対日M&Aのうち、投資ファンド(投資銀行などを一部含む)が買い手となったのは18件を占め、事業会社が買い手の案件は4件に過ぎなかった。
総数こそ少なかったものの、2023年の対日M&Aも全10件のうち8件は投資ファンドが買い手だった。
2022年春からの記録的な円安水準はすでに2年半に及ぶ。これを追い風に、潤沢な余剰資金を持つ米国ファンド勢が日本企業買いにアクセルを踏み込んでいる格好だ。ファンドは買収先の企業価値を高めたうえで、再上場させるなどして投資資金を回収する。
富士ソフトでKKRとベインが激突
日米間のM&Aは金額的にも抜きんでている(一覧表参照)。1~9月に1000億円超の大型案件は19件あり、このうち日米間のM&Aが13件を占める。

ルネサスエレクトロニクスがプリント基板設計ソフトウエア企業の米国アルティウムを約8900億円で買収したのをはじめ日本企業による対米M&Aは8件で、いずれも買い手はメーカーなどの事業会社だ。
これに対し、対日M&Aは米投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)がシステム開発大手の富士ソフトを約5800億円で買収する案件を筆頭に5件を数えるが、いずれもファンドが買い手となっている。
なかでも情勢が混とんしているのが富士ソフト。米の有力ファンド同士が買収を争う異例の事態になっているからだ。
富士ソフトにはKKRがTOB(株式公開買い付け)を9月初めから実施しているが、ベインキャピタルが10月11日にKKRを上回る買付価格(1株あたり)での買収を正式に提案。富士ソフトが同意すれば、10月下旬にもTOBを始める。
最大の懸案は日鉄のUSスチール買収
現在、日米間のM&Aで懸案事項といえば、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収の行方だ。日鉄が総額2兆円に上る買収計画を発表したのは昨年12月で、今年4~9月の買収完了を想定していた。
しかし、全米鉄鋼労働組合(USW)に加え、大統領選を争う民主党候補のハリス副大統領、共和党候補のトランプ前大統領がそろって反対を表明するなど政治問題化。買収の可否についての米国当局の判断は米大統領選後に先送りされる情勢となっている。
◎1~9月:日米間のM&A金額上位20 ※MBOは経営陣による買収

文:M&A Online
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