TDK<6762>は、HDD(ハードディスク駆動装置)用磁気ヘッド、高周波部品などの電子部品や、カセットテープ、DVDなどの記録メディアを手がけるメーカーから、二次電池(充電して繰り返し使える電池)を中核とする企業に転身した。
そのきっかけとなったのは、2005年の香港のリチウムポリマー電池メーカーAmperex Technology Limited(ATL)の買収だった。
この買収を起点に、2005年3月期に売上高の35.7%を占めていた記録デバイス(HDD用磁気ヘッドなど)は主力から外れ、2026年3月期にはエナジー応用製品(二次電池と電源)が54.7%を占める最大部門となった。
同社は2026年6月15日にマレーシアのリチウムイオン二次電池メーカーLinergy Power Sdn Bhd(クアラルンプール)を子会社化する予定で、これまで小型・中型電池で培った技術やノウハウを生かし、グローバルに広がる顧客ニーズに対応できる供給体制を構築する。
TDKは二次電池を中核とする企業への転換を一段と進める。
祖業の技術を起点に用途を拡大
TDKは1935年、磁性材料を焼き固めた電子部品であるフェライトコアの事業化を目的に東京電気化学工業として発足した。
フェライトコアは、ラジオの雑音や混信を抑え、感度を高める部品として使われた。
TDKによると、1950年頃までのラジオは雑音が多く、感度も低かったが、フェライトコアを使うことで少ないノイズできれいな音が聞けるようになり、多くの人に情報を届ける役割を果たした。
高度成長期には、テレビのブラウン管の電子ビームの向きを制御する偏向ヨークコアにも使われ、音と映像を家庭に広げる基盤技術となった。
1960年代には同社が開発した音楽用カセットテープが世界中に普及した。
それまでレコードやオープンリールテープで室内でしか聴けなかった音楽を、カセットテープに録音して持ち歩けるようになった。
1970年代半ばからは、カセットテープ技術を応用し高性能なビデオテープを量産した。
1980年代は、積層技術により、家電の軽薄短小化をリードした。
肩から提げて持ち歩くほど大きかった携帯電話は、片手で持てる大きさになったほか、ビデオカメラも手軽に持ち運べるようになった。
TDKはこの流れを「フェライトツリー」と位置付け、磁性材料を起点に事業領域を広げてきた。
一方、2000年代に入ると、事業の重心は変わり始めた。
TDKは2006年に、記録型CD・DVD製品の生産撤退を決めた。
2007年にはTDKブランドの記録メディア販売事業を米国のImationに譲渡し、その後、2014年には記録メディア事業から撤退した。
ATL買収で収益の柱を転換
そうした祖業から派生した事業の整理が続く一方で、TDKは二次電池や電子部品、センサーなどに経営資源を移していった。
2008年にはドイツの電子部品メーカーEPCOSを買収した。
2016年以降はスイスの磁気センサーメーカーMicronas、フランスのMEMS慣性センサーメーカーTronics、米国のセンサーメーカーInvenSense、ベルギーの半導体設計会社ICsenseなどを相次いで買収し、センサー関連領域を広げた。
HDD関連ではタイのHDD用サスペンションメーカーMagnecompや米国のHDD用サスペンションメーカーHutchinson Technologyを取り込んだ。
その中で現在の事業構造を大きく変えたのが電池事業だった。
TDKは2005年、香港のリチウムポリマー電池メーカーATLを買収した。
同年には英国のInvensysから電源事業ラムダパワーグループを買収し、電池と電源を取り込んだ。
売上高構成比を比べると、事業構造の変化が分かる。
ATL買収前の2005年3月期は、売上高6578億5300万円のうち、記録デバイス(HDD用磁気ヘッドなど)が35.7%を占める最大部門だった。
電子材料(フェライトコアなど)は26.6%、電子デバイス(高周波部品など)は17.7%、記録メディア・システムズ製品(オーディオテープ、ビデオテープなど)は17.1%で、HDD関連、磁気材料、記録メディアが事業の中心にあった。
これに対し、2026年3月期は売上高2兆5048億2000万円のうち、エナジー応用製品が54.7%を占めた。
受動部品(コンデンサーなど)は23.7%、磁気応用製品(HDD用ヘッドなど)は10.5%、センサ応用製品(温度・圧力センサーなど)は9.0%だった。
2005年時点で存在感が大きかった記録メディア関連は主力から外れ、ATL買収を起点に育った二次電池を含むエナジー応用製品が過半を占める構成に変わった。
TDKは2026年6月15日に、マレーシアでリチウムイオン二次電池を製造するLinergy Powerを子会社化する。
二次電池事業の供給体制を強化し、グローバル顧客への対応力を高めるとともに、同事業の成長を加速させるのが狙いだ。
取得価格は約383億円で、シンガポール子会社のAmperex Technology (Singapore) Pte. Ltd.を通じてLinergy Powerの全株式を取得する。
TDKが適時開示した企業買収は、2017年に子会社化した米国の慣性センサーメーカーInvenSense(取得価格は約1580億円)以来となる。
M&Aで事業ポートフォリオを変革
TDKは、2024年に公表した長期ビジョン・中期経営計画で、M&Aを事業ポートフォリオ変革と成長の手段として活用する方針を示した。
2025年3月期から2027年3月期までの累計で営業キャッシュ・フロー1兆円を見込んでおり、戦略投資には1500億円を充てる計画だ。
戦略投資では、既存事業の拡大やM&Aによる成長事業の育成を優先して検討するとしている。
TDKはフェライト、磁気テープ、記録メディアで成長した後、M&Aで二次電池を取り込むとともに、受動部品やセンサー領域の事業を拡大してきた。
TDKにとってM&Aは、外部の技術や生産能力を取り込むだけの手段ではなく、祖業から派生した事業を整理し、次の収益の柱を作るための経営手法でもある。
ATL買収で二次電池を主力に育てたTDKは、中期経営計画で掲げる戦略投資と事業ポートフォリオ変革に沿って、電池事業の供給体制をさらに拡充しようとしている。
文:M&A Online記者 松本亮一
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